ダボス-クロスタース、1月16日(月)〜20日(金)
今、世界は重大な転換期を迎えています。新型コロナウイルスの感染拡大とウクライナ侵攻という2つのトリガー(引き金)は、すでにもろくなっていたグローバル・システムを揺さぶりました。世界の経済大国では、食料やエネルギー価格の上昇という逆風を受けながら、経済成長が失速しています。世界は1970年代以来初めて、成長とインフレが相反する方向に進むという不安定かつ不均衡な状態に直面しているのです。これは地理的・経済的な分断の進行、資産価格の上昇や高水準の債務など金融セクターの脆弱性、制御不能に陥った気候危機などとともに発生しており、特に新興国における成長減速を拡大させる可能性があります。これらのシステミックで相互に関連したリスクに対応しない限り、「行動の10年」の約束は、不確実性と脆弱性の10年になりかねません。
このような前例のない背景のもと、世界経済フォーラムは1月に第53回年次総会を開催します。本会合では、対話と官民連携の価値と必要性を再確認した上で、現在の連鎖的危機を乗り切るだけでなく、さらに重要となる長期的な具体的かつ前向きなシステム変革を推進することをめざします。世界経済フォーラムは50年以上にわたり、世界の状況を改善するという精神に基づき、リーダーたちが「ピアツーピア」(対等な関係)で議論する場を提供してきました。この使命がこれほど重要性を増したことは過去にありません。そのため、集団的な主体性を取り戻し、「守りの姿勢」を主体的なビジョンに基づく政策や事業戦略に転換する方法を見出すことが、会合の核心となるでしょう。それは、現在の危機の大きさと将来の危機の可能性を考えると、まさに必要とされていることなのです。
プログラム構成の基本的な考え方は、今日の深刻な危機は時間をかけて蓄積された、より構造的な欠陥の現れであるという前提に立っています。特に第四次産業革命や気候変動といったメタトレンドの中にあって、分野横断的にダイナミックにネットワーク化された実体ではなく、システムをセクター単位でとらえた狭い視野の結果でもあるのです。
こうした背景を元に、本会合のプログラムは、テーマごとに現在の課題に対応するための手段を検討すると同時に、それらに付随するシステム変革の必要性を特定するという、ふたつの焦点を踏まえたものとなります。
具体的な柱は以下のとおりです。
1. エネルギー、気候、自然のための新たなシステムを背景に、現在のエネルギーと食料危機に対応する
エネルギー転換と気候変動は表裏一体であり、その影響はここ数カ月特に顕著です。エネルギー転換がグローバルに進むと同時に、二酸化炭素の排出を減らし、気候変動の影響を緩和するためのさらなる行動が必要です。エネルギー転換を加速するための重要な方策は、特に新興国で経済成長とエネルギー消費の「デカップリング」、画期的な技術革新を主流とする、公平性に対応する、などが挙げられます。目の前の危機を口実に、よりサステナブルなエネルギー源への移行を支援する政策を見送るのではなく、この瞬間を利用して、世界が2030年の目標を達成できるよう、より野心的、包括的かつサステナブルなインフラ投資計画を策定すべきなのです。
2. 高インフレ、低成長、高負債の現在の経済圏に、投資、貿易、インフラの新しいシステムで対応する
政策立案者は現在、限られた財政スペースの中で運営されており、インフレ圧力は金融引き締めを余儀なくされています。金融引き締めは新興国にも影響を及ぼし、多くの国が債務の返済に苦しんでいます。保護主義的な措置は、過去30年間の経済繁栄の中心であったグローバルな貿易課題を脅かすものでもあります。これは、新型コロナウイルスの感染拡大によって、さらに1億2千万人の人が極貧状態に陥り、市場全体で重要なインフラの資金不足が露呈したことを受けたものです。多極化した世界において、経済課題を戦略的に再構築し、国際システムの信頼を回復するには、すべてのステークホルダーが慎重に協力し、経済繁栄と開発に関する新たなビジョンを持つことが必要となるでしょう。
3. 企業のイノベーションとレジリエンスのためにフロンティアテクノロジーを活用する新しいシステムといった観点から、現在の業界の逆風に対応する
第四次産業革命(4IR)の到来、気候変動、地政学的な分断化により、産業界は投資、生産、イノベーションの判断の見直しを迫られています。現在の摩擦点を乗り越え、将来の競争力を強化するため、企業は4IRの新技術を育むとともに、アジリティへの最適化を図る必要があります。また、現在のレジリエンス(強靭性)を推進するだけでなく、将来の社会環境経済的な繁栄を形成するために、コアビジネスやオペレーティングモデルを通じてステークホルダー資本主義を実現する必要があるのです。これを成功させるためには、競合他社、他業界の企業、イノベーターなど、ますます多様化するエコシステム間でのコラボレーションを強化する必要があります。
4. 仕事、スキル、ケアの新たなシステムで、現在の社会的弱点に対処する
公式統計によると、世界的な経済危機が深刻化しているにもかかわらず、労働者は離職を、あるいは離職することを検討しています。世界最大の経済大国の多くで未充足求人が多く、労働市場が厳しいにもかかわらず、生活がひっ迫する中で多くの職種で実質賃金が低下しています。これと並行して、新興国は景気減速に伴う大幅な失業というプレッシャーに直面しており、その結果、社会的圧力が高まっています。今この瞬間に必要とされているのは、満たされていない需要を満たし、社会的流動性の基盤を築き、最終的に経済を将来的に支える教育、技能、ヘルスケアへの強力な投資をサポートする新しいソーシャル・コントラクト(社会契約)です。
5. 多極化した世界における対話と協力のための新たなシステムで現在の地政学的リスクに対応する
貿易のような共通の利益をもたらすシステムが、ライバルを罰するための武器として使われ、気候変動のようなかつて協力の模範だった分野が、競争の最前線となる危機にさらされています。ロシアのウクライナ侵攻は、冷戦終結後の四半世紀間おおむね協調的だった世界秩序から遠ざかるもっとも最近の動きでした。地政学の舵取りは、協力から競争へと変化しました。21世紀のダイナミクスに対応するため、よりステークホルダーを重視した新しいグローバルシステムの必要性が高まっています。
これらのテーマの中で、今後特に個人と組織の両レベルでレジリエンス(強靭性)に焦点を当て、リーダーシップに特化したワークストリームが準備されます。
また、同会合では没入型デジタル環境を活用して、世界の主要課題に対する官民の協力をさらに拡大することをめざす先駆的な取り組みである「グローバル・コラボレーション・ビレッジ」を実現します。
2023年の年次総会は、1月16日(月)から20日(金)まで開催されます。期間中、交流と学習のための幅広いフォーマットを網羅することで、現在の複雑な状況に対応し、将来に向けて構築するために必要なツールをリーダーたちに提供します。会合は以下の3つの「アーキタイプ」を軸に展開します。
同会合では、主要な国家元首や政府首脳による特別講演、カントリー・ストラテジー・ダイアローグ、外交対話、Informal Gathering of World Economic Leaders(IGWEL)などを通じて、さまざまな地政学的・経済学的な審議が行われます。また、インターナショナル・ビジネス・カウンシル、チェアパーソンのコミュニティ、インダストリーガバナーなど、フォーラムを代表するビジネスコミュニティが集結します。
多くのセッションは、フォーラムのウェブサイトやソーシャルメディア、最新のデジタルアプリ「TopLink」でライブ配信され、世界経済フォーラムのデジタル会員コミュニティや一般の方々が議論に参加することも可能にします。また、タイムリーな専門家によるブリーフィングにより、参加者や一般の方々が会合開催時の時事問題の最新動向について見識を深めることができます。
なお、年次総会への参加は、以下のフォーラム・コミュニティへの招待制となっています。
世界経済フォーラムは、参加者、スタッフ、地域社会の安全とウェルビーイングを守ることを最優先しています。年次総会に向けて、健康、安全、セキュリティなど、会合のあらゆる側面をカバーする方針とプロトコルについては、公的機関と緊密に連携して策定しています。