気候変動が子供の健康に与える、3つの影響
子どもたちは気候変動リスクに対して脆弱です。 Image: Unsplash/Zhen H
- 世界経済フォーラムの報告書「気候変動による人間の健康への影響の定量化(Quantifying the Impact of Climate Change on Human Health)」によると、2050年までに、気候変動は世界中でさらに1,450万人の死者と12兆5,000億ドルの経済損失をもたらす可能性があります。
- 気候変動の影響にもっとも脆弱なのは子どもたちであり、熱波や異常気温は彼らの健康に深刻なリスクをもたらします。
- ユニセフのキティ・ファン・デル・ハイデン氏は、こうした事象が子どもたちの長期的な生存、成長、発達にどのような影響を及ぼすかを説明し、子どもを中心とした政策立案の必要性を強調しています。
「子どもたちを世界的な対策の中心に置かなければなりません」
今年のCOP28気候変動会議を前に、ユニセフは国際社会に対して明確にこう呼びかけました。
世界の気温記録は、これまで13ヶ月間連続で毎月更新されています。欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスのデータによると、2024年7月、記録開始以来最も暑い日が同じ週に2回あり、平均気温は17.09度から17.15度に上昇しました。
気候危機と気温の上昇は全ての人に影響を及ぼし、もっとも脆弱なのは子どもたちです。その一方で、国連の児童機関によると、子どもたちのニーズに対応したプロジェクトは、主要な多国間気候変動基金から支給される気候資金のわずか2.4%しか受けていません。
世界経済フォーラムは、ユニセフのキティ・ファン・デル・ハイデン・パートナーシップ担当事務局次長に、気候変動が子どもたちの健康にどのような影響を及ぼし、子どもたちを支援するために何が必要なのかについて、話を聞きました。同氏は、3つの主要な懸念分野について説明しています。
気候は生まれる前の子どもたちにも影響を与える
異常気温は、特に高齢者や社会的弱者にとって、既存の健康状態を悪化させ、生命を脅かす可能性があります。世界保健機関(WHO)によると、気候に関連した死因で最も多いのが熱波です。
さらに、子どもは大人よりも暑さをはじめとする、あらゆる気候変動の影響を受けやすく、生まれる前であってもその影響が及ぶ、とファン・デル・ヘイデンは説明しています。
「暑さの影響は、大人とはまったく違った形で子どもに及び、実は生まれる前からその影響を受けているのです。熱波がより頻繁に、より長く、より高い気温をもたらすようになった今、早産が増加しています。つまり、体が暑さに対処できず、早産になってしまうのです」
「子どもたちは出生時体重が非常に低い状態で生まれてくるため、最初から健康面で不利な立場に置かれることになります。また、干ばつや熱波が長引くと、母乳にも影響がおよび、量は少なく、質も違ってきます」。
乳幼児特有の健康課題
もうひとつの重大な課題は、乳児および幼児は大人のように体温の変化に対応できないことです。これは未熟児にとってはさらに深刻な問題です。
「乳児は、私たちのように体温調節ができません。私たちは呼吸を速め、汗をかくことができますが、新生児にはそれができないのです。汗腺の構造がまだ未熟であるため、汗をかいて体を冷やすことができないだけでなく、腎不全などの臓器不全を引き起こしてしまいます」
また、乳児の呼吸は大人よりも速いため、公害の影響を特に受けやすい、と同氏は付け加えました。
「つまり、山火事や化石燃料の燃焼などの有害な空気を2倍の速さで吸うことになるのです。新生児の肺にそのようなことをすれば、生涯にわたる影響を及ぼすことになります。妊娠中の母親が汚染された空気を吸うと、胎内で子どもの脳も影響を受けるという研究結果も出ています。そこから回復することはできないのです」
子どもたちの生活へのより大きな影響
より頻繁かつ深刻な自然災害は、緊急かつ長期的な健康上の様々な課題をもたらします。
ファン・デル・ヘイデン氏はまた、食糧生産および疾病の蔓延など、気候が引き起こす事象の結果として、子どもたちの生存、成長、発達に広く影響を与える要因についても指摘しています。
「特に熱波との関連は証明されていませんが、子どもたちに特有の影響をいくつか付け加えさせてください。熱波や干ばつによって農作物の収量が落ちていることは、もちろんわかっています。アフリカの主食作物を見てみると、地域や作物にもよりますが、平均して30%から50%も収穫量が減少しています」。
「次に、アフリカで若者世代が増加している状況を想像してみてください。実際、若い人たちが急増しています。人生の最初の5年間に十分な栄養素を摂取できないと、科学的に『発育阻害』と呼ばれる状態になります。発育阻害は、生涯回復できない認知障害を意味します。今現在の問題として、エチオピアにすでに発育阻害が40%を占める地域があることが挙げられます」。
気候パターンの変化は、マラリアやデング熱のような病気の蔓延の一因にもなっていると同氏は述べています。
「降雨量が多いタイプの洪水では、コレラや下痢だけでなく、マラリアやジカ熱、デング熱まで、感染症とベクター媒介疾患の両方が増加します」。
「10年前は、デング熱の感染者は50万人でしたが、今では520万人になっています。そして、繰り返しになりますが、気候変動に伴う世界的な健康負荷の88%は、5歳未満の子どもたちであり、こうした子どもたちは、気候変動の原因を作ったわけでもないのに生涯に及ぶ影響を受けるのです。これを理解している人はほとんどいません」。
子ども中心の未来を築く必要性
気候変動による脅威が高まる中、どのようにすれば子どもたちをこうした被害やリスクから守ることができるのでしょうか。世界経済フォーラムは、2050年までに気候変動が世界中でさらに1450万人の死者と12兆5000億ドルの経済損失をもたらすと予測しています。
ユニセフはまず、若い賛同者の協力を得て、1.5℃の気候目標を維持し、保健、栄養、教育、社会的保護、衛生などの政策を気候変動に配慮したものに適応させるよう働きかけていく、とファン・デル・ハイデン氏は述べています。
「絶対的に重要なのは、次の気候計画サイクルに移行し、すべての国々が2025年初頭に次のNDCs(国家決定貢献量)、つまりCOP30に向けた気候計画2.0を提出するにあたり、その計画に野心が込められていることです」。
解決策とは、問題に対する単なる資金投入ではなく、子どもたちの声を届け、子どもに焦点を当てた政策を策定するなど、あらゆる分野に適応することなのです、と同氏は付け加えました。
「資金を増やせばいい、というものではありません。保健や教育、その他のプログラムを実施する際に、気候変動に対する子ども特有の脆弱性を考慮し、子ども中心のやり方での実施を確実にすることです」。
「私たちは、もっと目を開き、さらに研究を進め、自分たちの未来に関わる若者たちと共同で子どもたちにやさしい、適切な政策を策定することにより、改善することができるのです」。