エネルギー転換

太陽光エネルギーの未来を切り開く「バーチャルパワープラント」

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家庭用充電器、EV、ヒートポンプからなる分散型電源ネットワークにより、エネルギー効率を向上することが可能になります。 Image: Getty Images/iStockphoto

Wolfgang Gründinger
Chief Evangelist, Enpal
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  • 太陽光発電のような再生可能エネルギーは不安定であり、なおかつ日照がない場合には十分なエネルギーを生産することができず、需要を満たすことができません。
  • 一方、太陽が照り付けると、ソーラーパネルが送電網に大量の電力を供給するため、電力の市場価値がなくなることもあります。
  • EVなどを活用した分散型電源ネットワークである「バーチャルパワープラント」は、100%再生可能エネルギーシステムの実現に役立ちます。

再生可能エネルギーは不安定です。冬に太陽が照らず、風が吹かないときは、需要を満たすのに十分なエネルギーを生産することができません。

ガス発電所がその穴を埋めることができれば問題はありませんが、送電網に自然エネルギーが増えるほど、こうした断続的な生産量不足の問題は大きくなっていくでしょう。さらに、化石燃料は、気候保護のために徐々に廃止していかなければならないのが現状です。

同時に、ソーラーパネルが送電網に大量の電力を供給することで電気の市場価値が無くなり、価格がマイナスにまで下落するという問題も生じます。この場合、太陽光発電は、誰も必要としない電力を生産していることになるのです。

エネルギー転換の課題のひとつは、こうした状況下において低コストの電力が活用されず、余剰となることです。

エネルギーの「プロシューマー」から「フレキシューマー」へ

今日の再生可能エネルギーは、依然として従来の環境下で機能しています。ソーラパネルを備えた家の所有者は、日照がある際、またバッテリーが完全に充電された時に、ソーラーパネルから送電網に電気を供給します。彼らは、エネルギーを生産(プロデュース)・消費(コンシューム)することから、しばしば「プロシューマー」と呼ばれています。

このような太陽光発電システムは、「時代遅れ」と言われても仕方がありません。スマートフォンが普及する以前の、通話しかできなかった昔の携帯電話を使っているようなものです。

太陽光発電の未来はスマートかつ接続状態でなければなりません。プロシューマーは、送電網に統合して市場のシグナルに反応できる、より柔軟な「フレクシューマー」に席を譲ることになるでしょう。

自動運転車は、車体を変えずに遠隔操作で機能をアップデートすることができます。同様に、家庭用太陽光発電システムにおいても、ハードウェアは同じように見えても、ソフトウェアがより強力になっていくでしょう。

太陽光エネルギーの未来の鍵となる「セクターカップリング」

これを実現する「魔法の杖」が、いわゆる「セクターカップリング」です。セクターカップリングは、これまで別々だった電気、熱、燃料の分野を統合することを意味しています。将来的に電気は、ヒートポンプによる熱の生成や、家庭での電気自動車(EV)の充電にも使われるようになるでしょう。

EVは車輪のついた大型バッテリーでもあります。フォルクスワーゲンID3のような中型の自動車用バッテリーの容量は62kWhで、一戸建ての家族が6~7日間に消費する電力量(1日あたり約8~10kWh)に相当します。

2030年までに、ドイツだけでも1,500万台の電気自動車を普及させることを目標としていますが、通常、自家用車は1日のうち、23時間は使用されていません

これは、電気自動車をモバイルストレージとして利用できる大きな可能性を示しています。インテリジェントネットワーク化し、スマートエネルギー管理によって制御することで、これが可能になるのです。送電網とEVの間において電力を融通する双方向充電が現在進められており、近い将来利用可能になるでしょう。

ヒートポンプもバッファ貯蔵の一種です。ヒートポンプは水を加熱して暖房やお湯を供給します。

最低閾値以上であれば供給温度に1~2℃の温度差があっても、大きな問題にはなりません。ヒートポンプの運転を調整して、エネルギーが高価な時期には使用量を減らし、エネルギーが安価な時期に使用量を最大にすれば、再生可能エネルギーの供給量の変動を安定させることができるのです。

国内分散型バッテリーネットワークの構築

広大な分散型電源ネットワークに、数十万台におよぶ家庭用バッテリー、EV、ヒートポンプを接続する準備が進められています。これにより、比類のない柔軟性を備えた、数基の原子力発電所に匹敵する電力キャパシティが実現するでしょう。

このようなプロジェクトの増加に支えられ、ドイツの再生可能エネルギー企業エンパルは、2026年までに1ギガワットを超える容量を目標としています。

ネットワーク化された電源は「バーチャルパワープラント(VPP)」と呼ばれ、参加家庭の発電、蓄電、消費をインテリジェントに管理・集約。例えば、電力が非常に安い時や、家庭のソーラーパネルが余剰エネルギーを生み出した時に、蓄電池や電気自動車に充電し、日照量や風力が少ないために市場価格が高い時には、電力を送電網に売電します。

この人工知能(AI)ベースのプラットフォームにより、家の持ち主は大幅なコスト削減と副収入を得ることができます。エネルギー市場へのスマートな統合は、太陽光発電に対する補助金からの脱却にもつながるでしょう。

バーチャルパワープラントによりエネルギー運用を最適化

終日続く市場での運用を最適化することで、VPPは送電網を緩和すると同時に、より良く活用する上で重要な役割を果たします。

送電網に電力が集まりすぎると余剰電力を分散して貯蔵し、必要に応じて送電網に電力を戻します。これによりピーク負荷が軽減され、発電量と需要がより均等に配分され、送電網が安定するのです。

完全な再生可能エネルギーシステムが実現可能であることは、以前から認識されていました。研究により、100%再生可能なエネルギーシステムは実現可能であり、費用対効果も高いということが、ますます明らかになってきています。

風力、太陽光、バイオエネルギー、水力発電、蓄電池は十分に揃っていますが、それだけでは何もできません。化石燃料エネルギーを段階的に廃止する一方で、再生可能エネルギーを段階的に導入する必要があるのです。

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エネルギーの「プロシューマー」から「フレキシューマー」へ太陽光エネルギーの未来の鍵となる「セクターカップリング」国内分散型バッテリーネットワークの構築バーチャルパワープラントによりエネルギー運用を最適化

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