ウェルビーイングとメンタルヘルス

アフリカに学ぶ「ケアの民主化」。地域が担うメンタルヘルスのあり方

アフリカのザンビアでは、2020年時点で心理学者と精神科医が合わせて約25人程度だったと推定されている

アフリカのザンビアでは、2020年時点で心理学者と精神科医が合わせて約25人程度だったと推定されている Image: Getty Images/iStockphoto

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世界各国で大きな問題となっている、メンタルヘルス。WHOによれば、世界中でうつ病に苦しむ人々の数は2,800万人にものぼる。医療機関が整っているように感じられる日本でも、精神科(心療内科)の予約は数か月先まで取ることができないことも多く、需給バランスの乱れが大きな課題となっている。

途上国では、メンタルヘルスケアの不足はさらに深刻だ。例えば、アフリカのザンビアでは、2020年時点で心理学者と精神科医が合わせて約25人程度だったと推定されている。同国の人口が2,100万人を超えることを考慮すれば、これがいかに少ないかがわかるだろう。アフリカ全体を見てみても、およそ85%の人々がメンタルヘルスケアを受けられない状態にあるという

こうした課題に対して、メンタルヘルスの専門家を増やしていくことは喫緊の課題であろう。一方で、そうした専門家に頼らず、地域の人々がその地域でケアの担い手になる「コミュニティベースのメンタルヘルスケア」が、アフリカ各地で効果を発揮しているという。

その代表的な事例が、アフリカ各地で活動を行う非営利団体「Strong Minds」だ。

同団体では、うつ病をはじめとした精神疾患を抱える女性を主な対象として、無料のグループセラピーを提供している。現在、95%のグループセラピーはトレーニングを受けた地域のコミュニティメンバーがボランティアで行っており、コミュニティメンバーの多くが過去のセラピー経験者、また教師やコミュニティヘルスワーカーなどだ。

グループセラピーは通常、6週間かけて行われ、1つのグループは10〜12人で構成される。まず、参加者それぞれが自分の経験を共有し、うつ病を誘発している原因を特定していく。そして、その原因に対処する方法を、参加者同士で助け合いながらその場で実践したり、セラピーの場だけでなく、家庭でも対処法を試し、その結果を次のセッションで共有したり……といったプロセスを繰り返していく。

同団体によれば、2013年の設立以来、これまでに50万人以上がグループセラピーを受けており、80%の患者がセラピーを通してうつ病を克服しているという。

屋外でのグループセラピーの様子。
屋外でのグループセラピーの様子。 Image: Strong Minds
自分の経験を上手にシェアできない参加者には、自分の今の気持ちを表すカードを選んでもらうなど、参加のハードルを下げる工夫も。
自分の経験を上手にシェアできない参加者には、自分の今の気持ちを表すカードを選んでもらうなど、参加のハードルを下げる工夫も。 Image: Strong Minds

こうしたコミュニティベースのアプローチの利点は、メンタルヘルスケアへのアクセスを広げることに留まらない。セラピーを行う者が地域で暮らすメンバーだからこそ、地域ならではの困難や生きにくさを理解することができ、ケアの受け手との信頼関係が構築しやすいのだ。

また、ザンビアをはじめとしたアフリカの国々では、そもそもメンタルヘルスへの認知度が低く、自分たちの抱える症状がうつ病という病気に当てはまるものだということを知らない人が多い。このため、現地で話されている言葉でわかりやすくうつ病の症状を伝えて初めて、患者本人が自分の病気を認識することができるのだという。

Strong Mindsは、ボランティアへの定期的なトレーニングの提供やセラピーセッションへの抜き打ち監査、治療結果のデータ収集などを徹底することで、セラピーのクオリティ担保に努めている。活動はすでにウガンダやザンビアで定着し、近年ではエチオピアやケニア、ナイジェリアといった他のアフリカ諸国にも拡大。アメリカでも、主に青少年を対象としたプログラムが2022年に始まった。

「11年間の活動から学んだのは、うつ病の治療は“民主化”できるということです」と、Strong Minds設立者のSean Mayberry氏はReasons to be Cheerfulの取材に答えている。

メンタルヘルスケアには専門的な知識を必要とすることも多く、専門家でない人が自己流でケアを行うことには危険性もある。しかし、Strong Mindsの活動からわかることは、適切なサポートさえ受ければ、私たち一人ひとりが、メンタルヘルスケアの担い手になれる可能性が充分にあるということだ。こうしたお互いにケアし合える地域のコミュニティこそが、今私たちがもう一度作り直すべきものなのではないだろうか。

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