南米から地球を変える:ネイチャーポジティブな都市へ
持続可能性を優先するという首長からの明確な指示が、ネイチャーポジティブな都市への移行の基礎となります。 Image: Getty Images/iStockphoto
- 都市は、ネイチャーポジティブな世界へと移行するための基本的な原動力となるでしょう。
- 自治体は、ネイチャーポジティブな開発を可能にする政策を実施する必要があります。
- コロンビアのモンテリアとバランキージャは、ネイチャーポジティブに向かおうとする都市にインスピレーションを与えてくれます。
近年、気候変動や生物多様性の課題に取り組む世界のリーダーたちの間で「ネイチャーポジティブ」という言葉が大きな話題になっています。この言葉は、自然保護団体、研究機関、企業・金融コアリションを代表する「ネイチャーポジティブ・イニシアチブ」によって、「2030年までに自然消失を回復軌道に乗せ、2050年までに自然を完全に回復させる」というグローバルな社会目標として定義されています。
ネイチャーポジティブ・イニシアチブの新しい報告書によると、都市で生み出されるグローバルGDPの44%(31兆米ドル)が自然消失のリスクにさらされており、世界で最も人口の多い500都市のうち、自然や生物多様性の保全に特化した戦略を策定している都市は37%に過ぎません。
2021年、G7 2030年 自然協約 は、自然への投資とネイチャーポジティブな経済の推進を、行動のための中核的な4つの柱の一つに挙げています。一方、昆明・モントリオール世界生物多様性フレームワーク(GBF)は、2030年までに陸上・海洋生態系の30%を保護し、生物多様性の損失を逆転させ、自然のための資金を拡大することを目指す23の目標を提案しています。これらは、ネイチャーポジティブな世界というビジョンとほぼ一致しています。
ネイチャーポジティブな世界への変革は、私たちと自然との関係を再構築する革新的な政策と強固な規制の枠組みによって推進されます。グローバルな傾向として、2050年までに世界人口の70%近くが都市に住むと予測されており、都市は変革の根本的な推進力となるでしょう。
各国政府が、GBFの目標やパリ協定の目標によって示されたより広範な枠組みに政策を合わせることが重要です。ネイチャーポジティブな都市に関する専門家タスクフォースのメンバーであり、コロンビアの元環境大臣、そして私の故郷である同国モンテリア市の元市長である私は、この転換を主導するための政策をすでに採用している都市からの教訓を生かすことが極めて重要だと考えています。
ネイチャーポジティブな世界に向けたロードマップ
ネイチャーポジティブへの変革は困難なものであり、各国政府はそれを可能にする一連の条件を整備する必要があります。新しいレポート「Nature Positive: Guidelines for the Transition in Cities(ネイチャーポジティブ:都市における移行に向けたガイドライン)」は、都市地域における自然の再生を提唱する出版物シリーズの第1巻です。このレポートでは、都市の自然にまつわる課題を解決するには、すべての都市運営において持続可能性を優先させるという、首長からの明確な指示が基本となることが強調されています。
私たちは、気候変動と生物多様性の両方の目標を達成するための政策ロードマップを作成しなければなりません。ネイチャーポジティブな解決策を導き、それを促進する規制や政策を優先させることは、今後数年間、都市を治める自治体にとって極めて重要になるでしょう。それには適切かつタイムリーな資金調達や、標準的なリスク・影響管理プロセスが必要です。市民参加もまた、ネイチャーポジティブな都市に不可欠な要素です。
不動産、エネルギー、モビリティ、商業などにおける官民連携の強化は、都市が実施するその規模に見合った取り組みに役立つと考えられます。最近、ある市長グループが指摘したように、こうした連携は、ネイチャーポジティブなプロジェクトへの資金提供や実施だけでなく、移行を加速させるために必要な技術的専門知識など、その他の資源を得ることにも役立ちます。
首長は、地域の政策や規制の枠組みを、国家戦略や国際的な気候変動や生物多様性の目標につなげる必要があります。そうすることで、進捗状況を示し、モントリオール協定やパリ協定への都市の貢献を示すことができるのです。
最後に、地方自治体は、自然生息地の破壊を可能にした政策の失敗に対処することが強く求められています。各国政府には、自然を意識したイノベーションを妨げてきた公共調達におけるこれまでの失敗を正す努力が必要でしょう。持続不可能な慣行にインセンティブを与え、取引当事者以外に負担を強いている外部不経済な補助金制度を改革し、環境破壊があれば当事者に対価を支払わせることで正しい方向に導くべきです。
先駆者たちから学ぶ教訓
政策におけるイノベーションがネイチャーポジティブな都市への移行を推進する原動力となる一方で、私たちは先駆的な都市の経験を活用しなければなりません。「ネイチャーポジティブな都市」は比較的新しい概念であるため、私たちには適応と学習意欲が必要です。
都市の緑地を増やし、改善することがネイチャーポジティブな都市への転換を促進する鍵となります。野心的なステップを踏み出し、数値に表すことのできる成果を上げた都市の例をご紹介しましょう。2012年から2015年まで私が市長を務めたモンテリア市の行政は、政策立案者、企業、ステークホルダーと協力してサステナブルな都市づくりを行い、市内のシヌ川を社会的、文化的、経済的発展の軸へと変革しました。
政策立案と都市計画は、周囲の生態系に対する理解に根ざしたものにする必要があります。私がリーダーとなり、同市は「モンテリア2032」を策定。この20年計画では、同市を川と人々に還すことを目指しています。この計画の根幹にあったものは、シヌ川を活性化させることが、公共空間、水管理、基本的衛生、観光を取り戻すために不可欠であるという理解でした。
モンテリア市は、政策決定において自然を前面に打ち出し、目覚ましい好転に向けた舞台を整えました。近年、同市は50の都市公園と農村公園を回復し、ロンダ・デル・シヌ公園を拡張しました。この公園は、2017年に保護区に指定されています。
コロンビアの他の都市の例としては、バランキージャがあります。同市は、世界経済フォーラムの「2030年までのバイオダイバーシティ(BiodiverCities by 2030)」イニシアチブに参加するラテンアメリカの120都市の一つであり、「建築環境、社会構造、自然資本が調和して共存する」未来の創造を目指しています。また、より良い未来への基盤を築く、複数のブルー/グリーンインフラ・プロジェクトにも取り組んでいます。
また、同市のシエナガ・デ・マジョルキン公園は、かつては打ち捨てられた地域でしたが、現在では約4キロメートルの自転車専用道路を備えた緑地へと生まれ変わっています。この公園には現在までに6万本以上のマングローブが植えられました。一方、同市のグラン・マレコン・リバーウォークは、かつて工業地帯であったマグダレナ川沿いを公共エリアとして再生させる大胆な取り組みで、川沿いを人が住めず汚染されたエリアから、活気ある公共スペースへと変える一助となっています。
ブラジルのサルバドールでは、大西洋岸森林バイオームを復元し、気候変動に対するレジリエンス(強靭性)を強化するため、19平方キロメートルにおよぶ39の保護区を設置しました。この再生プログラムでは3万本の植樹が行われ、その半数は市民の手によるものです。また、エクアドルでは、キトの気候変動行動計画が、住民1人当たり少なくとも20平方メートルの緑地を増やすという果敢な適応目標を掲げています。
急速に都市化が進む世界にとって、ネイチャーポジティブな都市づくりはなかなか手強い課題です。そこで、GBFの目標を達成し、10年後までにネイチャーポジティブになるための競争が始まっています。私の母国で開催される次回の生物多様性条約締約国会議(COP)に向けて、都市がいかにしてネイチャーポジティブな未来への道を切り開くべきかを中心に議論していくことが期待されます。
本記事は、世界経済フォーラムがグローバル経営コンサルティングファームのオリバー・ワイマンの協力を得て発行する「ネイチャーポジティブ・シティーズ」イニシアチブの公開記事の一つです。
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