『グーテンベルクの括弧』- 印刷機500年の歴史から学ぶAI時代の歩き方
『The Gutenberg Parenthesis(グーテンベルクの括弧)』の著者ジェフ・ジャービス氏は、印刷機の時代から学ぶことは多いと言います。 Image: Unsplash/AnnieSpratt
- 約500年間、印刷された言葉が私たちの教育と文化を形成してきました。しかし、状況は変わりつつあります。
- 『The Gutenberg Parenthesis(グーテンベルクの括弧)』の著者であるメディア理論家のジェフ・ジャービス氏は、AIなどの新たなテクノロジーに対処する上で、印刷機の時代から学ぶべき重要な教訓があると言います。
- 同氏は、ラジオ・ダボスのインタビューに応じ、自身の理論と、コミュニケーションの革新を恐れるべきでない理由について語りました。
新たなテクノロジーがどのように発展し、私たちの社会を形成していくのか。AI(人工知能)とインターネットの時代に突入した今、1450年に登場した印刷機は私たちに何を教えてくれるのでしょうか。
ジャーナリスト、大学教授、メディア理論家であるジェフ・ジャービス氏が著書『The Gutenberg Parenthesis(グーテンベルクの括弧)』で述べているように、活字の支配は終わりを告げようとしているかもしれません。しかし、私たちは次の段階へと進化するテクノロジーに対処する準備ができているでしょうか。
世界経済フォーラムのポッドキャストシリーズ「ラジオ・ダボス」のホストであるロビン・ポメロイは、昨年11月にサンフランシスコで開催された、世界経済フォーラムの「AIガバナンス・サミット」で、同氏にインタビューしました。本稿では、テクノロジーの変革的役割と、インターネットとAIが導く先をめぐる議論から、いくつかのハイライトを紹介します。
『グーテンベルクの括弧』とは
発明家のヨハネス・グーテンベルクは、1450年から1454年にかけて可動式印刷機を使って聖書を印刷した名工です。書籍印刷プロセスを自動化した最初の人物ではなかったかもしれませんが、知識の迅速な普及への道を開きました。
『The Gutenberg Parenthesis(グーテンベルクの括弧)』という本で示される概念は、15世紀に始まり、ラジオやテレビが登場する20世紀まで続いた印刷の時代が、人類のコミュニケーションにとって特異な時代であったことを示唆しています。この時代、ほとんどの情報は本や新聞などの印刷メディアから得られていました。
一部の人は、時代の流れとともに、私たちがグーテンベルク以前の時代に戻りつつあり、情報の流れがより流動的に、さらに簡単にアクセスできるようになる新たな段階が訪れようとしている、と主張しています。
新たなテクノロジーの力
「歴史は繰り返すとは言いませんし、今の時代が昔のコピーであるとか、調和のとれたものだなどとも言いません。しかし、印刷物が登場したとき、私たちは社会の大きな転換期を経験しました」と同氏は説明します。
「巨大な社会的変革が起こり、私たちはそこから技術的・社会的な変化、適応、存在する危険についての教訓を得ました。私はそれを振り返り、印刷の文化と歴史について真に学びたかったのです。そうすることで、私たちが今、印刷の時代を離れるにあたって何を保ち続け何を捨てるべきか決断する際に、この時代の中で私たちがどのような存在であったのかについても判断できるでしょう」。
新しいコミュニケーション時代の幕開け
「印刷機の黎明期は、印刷された言葉の新しい形式や媒体への道を開き、1600年頃にはついに印刷が一般的になりました」とジャービス氏。「モンテーニュはエッセイを発明し、セルバンテスは近代小説を書き、新聞が発行され、シェイクスピアによる印刷された戯曲の市場ができました」。
そして、500年の間に、印刷機も進化を遂げてきたと指摘します。1800年代には、テクノロジーの進歩により蒸気を動力とする印刷機が登場し、その他さまざまな進化を経て、より迅速な出版が可能になり、生産量も大幅に増加しました。
1991年、インターネットが一般に開放され、情報を伝達する新たな手段が生まれました。そして今、私たちはAIに対峙しています。「生まれたばかりのこの新たなテクノロジーの可能性を、まだ私たちは十分に理解していません」と同氏は語ります。
「しかし、グーテンベルクの時代から得られる教訓の一つは、テクノロジーはいつか衰退し、当たり前のものになるということ。そして、テクノロジーの存在が当たり前になると、それが真に重要なものになります。なぜなら、そのとき初めてそのテクノロジーが受け入れられ、もはやテクノロジーとして見られなくなるからです。だからこそ、テクノロジーやインターネットを、人間のネットワークとして見ることが重要です」。
信頼と新たなテクノロジー
AIに関して言えば、社会がそれを当たり前なものと感じるのはまだ先のことでしょう。しかし「新たなテクノロジーに対する反応は、過去500年間あまり変わっていないように見える」と同氏は言います。印刷機は、良い意味で今日の生成AIと同じくらい多くの疑念と懸念を抱かれていました。
「印刷が登場したとき、出所が明確でなかったため、まったく信用されなかったというのは重要なことです。誰でもXポストやフェイスブックの投稿、ブログを作ることができているのと同じように、誰でもパンフレットを印刷できたからです。より信頼されていたのは、人々の間にある社会的関係でした」。
この問題は、メディアの信頼に関する現在進行中の議論に似ているとジャービス氏は捉えています。しかし、インターネットの出現は、大きな声を持たない人々に声を挙げるチャンスを与えました。
「アメリカの最も有名なニュースキャスター、ウォルター・クロンカイトは、放送の最後をいつも『そして、現実はこういうものです』という言葉で締めくくりました。しかし、多くのアメリカ人にとって、それは『こういうもの』で済むものではありませんでした。彼らはそこにいない者として扱われていました。彼らは行政サービスを受けることもできませんでしたが、今、声を挙げることができます」。
「以前は聞かれることのなかったコミュニティの声を聞くことができるようになりました。BLM(ブラック・ライブス・マター)は、新たなテクノロジーのおかげで起きた改革の典型例と言えるでしょう」。
AIの時代
サンフランシスコで開催されたAIガバナンス・サミットでは、意図しない結果に対処するため、AIをどのように制御・規制するかが議論の中心となりました。EUや他の地域がAIを規制するのベストな方法を模索する中、ジャービス氏は、規制が真の答えとなり得るのかを疑問視します。「私たちはこれをコントロールできるのでしょうか。なぜ規制したいのですか。何のために」。
同氏の結論は、AIをコントロールする方法に焦点を合わせるのではなく、インターネットとAIの両方を人間というプリズムを通して判断するために、力を合わせる必要があるのだということです。
「AIは、対話を通じてのみよりより理解できるようになる機械であり、人間的な性質を持っています。今必要なのは、この議論に倫理学、人類学、社会学、心理学、歴史学、人文科学を持ち込むことです」。
「私たちがこれらのテクノロジーに影響をもたらす、人間の弱さや失敗を認めなければなりません。そういったものに対してこそ、ガードが必要なのではないでしょうか。テクノロジーが危険なのではありません。テクノロジーを手にした私たちが危険なものとなり得るのです」。
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