科学的発見を加速するAI – ウイルス変異の予測からタンパク質研究まで
AIは豊かさを促進する力となるか。グローバル・フューチャー・カウンシル2023年次総会のパネリストが検証。 Image: Unsplash/Steve Johnson
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科学
- AI(人工知能)は、科学的発見を加速させ、あらゆる分野で新たな知見を提供することができます。
- 世界経済フォーラムの「グローバル・フューチャー・カウンシル2023 年次総会」では、ガバナンスに関する複雑な課題を超え、AIが豊かさを促進する力となる可能性に議論の焦点が当てられました。
- AIが力を発揮する事例に、時間の経過に伴うウイルス変異の予測や、タンパク質の構造解析などが挙げられました。
生成AI(人工知能)の急速な台頭が、偽情報のリスクから仕事の代替まで、多くの懸念を引き起こしている中、AIは豊かさを促進する力となり得るのでしょうか。これは、世界経済フォーラムの「グローバル・フューチャー・カウンシル2023 年次総会」で焦点が当てられたテーマの一つです。本稿では、同会合で専門家たちが注目した実践的な例を紹介します。
AIがウイルスの進化を予測
ウイルスは変化の達人です。新型コロナウイルスのパンデミックで見られたように、ウイルスは、ワクチン接種や過去の感染によって得られた人間の免疫応答から逃れるために変異を繰り返し、進化します。もしも、ウイルスの次の一手を予測することができるとしたらどうでしょうか。新しいAIツールは、それを実現しようとしています。
ハーバード大学医学部は、ウイルスの進化のモデルと生物学的・構造的情報を組み合わせ、ウイルスの変異の仕方を予測するAIツール「EVEscape」を開発。ネイチャー誌に掲載された研究は、このツールがパンデミックの初期に導入されていたら、最も頻繁に発生する新型コロナウイルスの変異を予測し、深刻な変異株を特定することができたとしています。また、EVEscapeは、HIVやインフルエンザを含む他のウイルスについても正確な予測を行なうことに成功しています。
EVEscapaeは現在、新型コロナウイルスの将来の変異株を予測するために使われており、他のウイルスにも応用される予定です。
タンパク質研究を変えるAI
オフィスや家庭から寄付された余剰のCPUやGPUの処理能力を活用し、分子シミュレーションにより新型コロナウイルスのタンパク質の解析に取り組む、分散コンピューティングプロジェクト「Folding@Home(フォールディング・アット・ホーム)」。専用ソフトウェアをコンピュータにインストールすれば誰でも参加できるこのプロジェクトに、市民科学者としてコンピューティングパワーを提供したことがある人は、タンパク質の「折り畳み」構造の原理を探る難しさを知っているでしょう。
すでに数億種以上存在するタンパク質。毎年新たなものが追加され、その形状や機能などを解析する作業は、核磁気共鳴など数百万ドル規模の装置を必要とし、時間とコストがかかります。これが、研究の進行を遅らせ、疾患の治療に制限をかけていると、アルファベット(グーグルの持株会社)は述べています。
同社傘下のAI開発企業DeepMind は、タンパク質の「折り畳み」構造を解明するため、AIプログラム「AlphaFold」を開発。約10万種の既知タンパク質のアミノ酸構造を用いてトレーニングされたこのAIツールは、原子レベルの精度でタンパク質の形状を即座に予測することができます。2022年7月、グーグルは、AlphaFoldがほぼすべての既知タンパク質の構造を予測したと発表。現在、新たな疾患の発見、より効果的なマラリアワクチンやがんの新薬の開発、抗生物質耐性への取り組みにも応用されています。
文献調査を効率化するAI
科学者は、研究の準備段階で文献調査を行います。研究の根拠を立て、出発点を見つけるために、数日から数週間かけて大量の資料に目を通し、先行研究の結果を考察します。
AIリサーチアシスタント「Elicit」は、こうした骨の折れる調査プロセスを大幅にスピードアップしてくれます。大規模言語モデルを搭載したElicitは、文献調査プロセスを自動化。科学者が研究の質問を入力するだけで、AIが関連する優れた論文を特定し、主要な結果を要約します。さらに、情報を研究マトリクスに抽出し科学者の作業を助けます。
Elicitは、特にメタ分析に有用です。特定の症状、疾患、薬剤などに関する既存の研究を調査しその結果を統合する分析は、そのトピックへの現在の理解を反映するだけでなく、分析に基づく新たな洞察を提供することが多く、Elicitによりそのプロセスが効率化されます。
これまでに、80万人以上の研究者が、Elicitを利用したとされています。
生命科学の分野を超えて役立つAI
グローバル・フューチャー・カウンシル2023 年次総会のセッションでは、AIガバナンスに関する未解決の課題について多くの指摘がありましたが、AIの豊かさを促進する潜在能力について、参加者の意見は一致しました。
AIが、科学的発見を加速させることは、生命科学に限ったことではありません。先月、ガーディアン紙は、西暦79年に発生したヴェスヴィオ火山噴火により失われた都市ヘルクラネウムの炭化した古代の巻物に書かれている内容を、研究者がAIを使用して解読していると報じました。AIシステムは、約2,000前の黒焦げの巻物の一つから最初の単語を解読することに成功したのです。
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