Global Cooperation

増加する交通事故による死者数、企業が取るべき対策とは

世界では、交通事故で年間135万人が命を落とし、5,000万人が負傷しています。

世界では、交通事故で年間135万人が命を落とし、5,000万人が負傷しています。 Image: Unsplash/Joseph Chan

Paul Hudson
Chief Executive Officer, Sanofi
Jean Todt
UN Secretary-General's Special Envoy for Road Safety, United Nations
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  • 世界の交通事故による死傷者数は憂慮すべき数に達し、死者数の大部分を占めるのは低中所得国です。
  • 企業は、より厳格な安全訓練基準を定めるなど、道路交通安全の向上に貢献することができます。
  • 構造的な変革を効果的に進めていく上では、グローバルおよび国レベルでの官民連携が欠かせません。

現在、世界では交通事故による死傷者が急増しており、年間の死者数は130万人、負傷者数は5,000万人に達しています。これは、交通インフラの老朽化、携帯電話などの使用による運転中の注意力散漫、新しい種類のモビリティの登場、自動車台数が過去最大に増加していることなどが影響しています。

こうした課題は、行政だけが対処すべきものではありません。交通安全の推進には、官民どちらにも果たすべき役割があり、企業の参画がより安全な交通環境の実現に大きく貢献するのです。全世界の交通事故死者数の93%を占める低中所得国では、特に企業の取り組みが重要になってきます。

国連道路安全戦略(UN Road Safety Strategy)は、2030年までに、世界中の交通事故による死傷者数を半減させることを目標に掲げています。交通事故がもたらす経済的損失は、最も深刻な影響を受ける国の場合、年間国民総生産の3~5%にも達します。

深刻化しつつあるこの危機に対処するために、ビジネスリーダーたちは、サプライチェーンをどのように適応させていくかを検討する必要があります。地域および国レベルでのイニシアチブを新たに立ち上げ、道路交通安全に関する積年の課題に取り組むことで、企業は交通事故のリスクを低減させ、より安全で、経済的にも実現可能な道路交通環境を整備することができます。

ドライバーの安全訓練を世界レベルで実施・推進する

特に、トラック事故による負傷者が世界中で急増していますが、その原因として以前から問題視されているのが、ドライバーに対する適切な安全訓練の不足です。現時点では、米国においてさえ、フルトレーラーを運転するために必要な運転訓練時間が設定されておらず、山間部や、降雨時または降雪時の走行に対応できる運転技術を有していることを証明することも求められていません。

ドライバーの運転時間については、国連合意によって法律のモデルが提示されているにもかかわらず、過度な連続運転を抑制するための休憩時間の取得を義務づけていない国が大半です。さらに、運転技術を示す証明書に関しては国、によって規定が千差万別であり、企業にとって厳格な道路交通安全方針を策定・実施するのはきわめて困難です。交通事故は、世界中で5~29歳の死因のトップとなっています。未来の労働力となるこの年代の命が理不尽に奪われる悲劇を防ぐためにも、より一層の取り組みが必要であることは明白です。

こうした状況を踏まえると、すべての国においてトラックドライバーに対して半年ごとに訓練を実施し、各国の現状のインフラに合わせて運転業務を遂行できるように取り計らうことが必要です。訓練を効果的に行うために、監督役となる「道路交通安全指導員」を配置することも欠かせません。このような訓練によって、業界全体の啓発と交通事故の抑制にプラスの影響を与えている企業は多くありますが、サノフィ社もそうした企業の一つです。

例えば、サノフィ社では、ドライバーに対してより徹底した訓練をより頻繁に実施する方針を打ち出したことで、2016年には98人だった交通事故負傷者数が、2022年には40人にまで減少しました。これは、保有車両台数1万7,000台に対しての数字です。コンプライアンスとして実行すべき以上のことにまで踏み込むことで、道路交通安全の推進に求められるニーズにより積極的に対応することができます。そして、こうした取り組みが、サプライチェーンでの道路交通事故の低減につながるのです。

保有自動車の安全性能を最新技術で高める

世界の自動車台数は、2050年に現在の2倍に増えると予測されています。現在も膨大な数の新車が世に送り出されていますが、中古車の多くは開発途上国に輸出されるため、低中所得国では安全性の低い車両が大量に出回ることとなり、結果的に、道路交通事故による死傷者が増えるという不幸な結果を招いています。こうした自動車供給の流れが世界的に増加しつつある中、1997年の国連合意にすでに盛り込まれている自動車の定期点検の必要性が高まっています。

例えば、サハラ以南のアフリカは、10万人当たりの交通事故死者数が世界で最も高い地域であり、その数は26.6人にのぼります。そして、本来であれば減少させられるはずの交通事故死者数が、2030年には現在の倍以上の年間51万4,000人に達すると予測されています。こうしたデータを踏まえると、企業が保有する自動車を管理する上で、いかなるものでも問題のある車両は業務に使用しないことと、すべてのプロセスを基準に適合させることとが重要だといえるでしょう。

オフロードタイヤを装着したり、新型のシートベルトや自動衝突検知技術を導入したりするなど、保有する自動車の安全性能を高める対策を講じるだけで、道路交通の安全性を大幅に向上させ、多くの命を守ることができるようになるでしょう。

官民連携を強化する

私たちの生活を脅かす変化に対処する上で、重要となるのは官民連携です。これは、歴史が何度も証明している事実です。世界中で輸送インフラを更新していくのであれば、官民連携に基づく包括的な取り組みを積極的に推進し、世界各地の地域社会が直面するその場所特有の課題に対する理解を深め、個々の課題にふさわしい対策を講じていくことが不可欠です。例えばインドでは、トラックドライバーの半数が視力に問題を抱えていると推計されています。行政と連携しなければ、企業がこの課題を正しく理解し適切に対処していくことはまず不可能でしょう。

官民連携の効果を最大限に引き出すためには、マクロとミクロの両方のレベルでの連携が必要になります。国レベルでは、各国特有の課題の実情を目となり耳となって把握できる国の行政機関と連携することが求められます。グローバルレベルでは、長い間見過ごされてきた積年の課題に向き合い、取り組みを促進していく必要があります。

国連グローバル・コンパクト(UN Global Compact)や、国連交通安全基金(UN Road Safety Fund)などは、人権保護、不当な労働の排除、環境への対応、腐敗防止の実現に向けて、社会に深く根差す課題に取り組むための戦略を一致団結して実施していくことを、企業や政府機関に対して呼びかけています。そして今、こうした取り組みに「交通安全の実現」を組み込み、この喫緊の課題に官民が連携して対処していくという明確なメッセージを発信する時が来ています。

道路交通システムは、単なる一般道路と高速道路の集合体ではなく、人間、ビジネス、そして、国際社会を結びつけるものです。このシステムを守るための取り組みを実施・強化することで、道路交通事故により命が失われる悲劇を避けることができ、さらには経済を循環させていくことにも繋がります。官民が協力して行動を起こせば、このビジョンを何世代にもわたり現実のものとすることができるでしょう。

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