メタバースは、現在のインターネットよりも高い信頼を得ることができるのか

メタバースは、現在のインターネットよりも信頼性が高く、包摂的な空間になる可能性を秘めていると同時に、慎重なガバナンスを必要としています。

メタバースは、現在のインターネットよりも信頼性が高く、包摂的な空間になる可能性を秘めていると同時に、慎重なガバナンスを必要としています。 Image: Getty Images/iStockphoto

Cathy Li
Head, AI, Data and Metaverse; Member of the Executive Committee, World Economic Forum Geneva
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メタバース

  • インターネットや新しい没入型環境に対する期待が高まっていますが、データのプライバシーやオンラインの安全性などの課題に対する信頼は大幅に低下しています。
  • グローバルガバナンスを改善することで、ユーザーデータの共有などの課題について失われた信頼を回復することができるでしょう。
  • 最初の段階から社会的、倫理的、人間的な要素を考慮すれば、新しい没入型テクノロジーを、私たちの生活を向上させ、共通の価値観に沿うものにすることができます。

通信と情報ネットワークの分野における最も目覚ましい成果の一つは、インターネットです。インターネットは、人類が生み出したこの種のシステムの中でも、規模・範囲共に最大級のものであり、その可能性は無限とも考えられています。インターネットの台頭により、ユーザーは、想像することもできなかったレベルで情報にアクセスできるようになり、強力なコミュニティの結びつきが醸成され、膨大な経済的機会が生み出されています。

しかし、現在のインターネットの状況を見ると、導入、利用、管理などの面で信頼性が大幅に低下しています。20カ国のユーザーを対象とした調査では、インターネットを信頼できると答えた回答者はわずか60%に過ぎず、この結果は、インターネットに対する不信感が世界的に広がっていることを反映しています。

人々の不安が反映されたともいえる調査結果は、没入感と安全性を兼ね備えたインターネットの未来を模索するためには、インターネットにおけるプライバシー、安全性、社会的影響といった重要な側面に対応する必要があるということを明らかにしました。

グローバルガバナンスを改善することは、この課題を解決する一つ方法になり得るでしょう。グローバルガバナンスを改善するためには、明確なルールを確立させ、ユーザーデータの共有と連携は有用で、ユーザーの期待と価値観に沿うものであるということを確かにする必要があります。ユーザーが求めているのは、インターネットの利用を通じて、何らかの被害を受けることがなく、個人データを自身で管理できるという安心感です。監視やプライバシー、ターゲット広告、そして、個人情報盗難がユーザーの主な懸念事項です。

さらに、ユーザーがオンライン空間に求めているのは、身体レベル、感情レベル、精神レベルのすべてにおける安全性です。デジタル世界で仲間として認められ、評価されたいという願望があるからです。インターネットの進化によって、個人を深く魅了するような体験が提供されるようになると、安全で充実したオンライン環境に対するニーズが高まるでしょう。

豊かなオンライン経済の創造

世界経済フォーラムの「メタバースの定義と構築(Defining and Building the Metaverse)」イニシアチブは、多様なステークホルダーと協力して、将来の没入型環境に関連するこれらの重大なリスクに対処するとともに、豊かなオンライン経済を育むことを目的としています。

開発者やビジネスリーダー、政策立案者の決定は、こうした目的を達成していく上で鍵となります。特定の側面に優先順位をつけることにより、対面での社会的交流をなくすのではなく、むしろ拡大していくような没入型環境を作り出すことができます。プライバシーと安全性を重視することは極めて重要であり、人々の懸念に効果的に対処するテクノロジーの開発を可能にします。

ユーザーに寄り添った没入型環境への取り組みを確立していくには、企業は、ビジネスの優先順位が相反する場合においても、自制心を働かせ規律を重んじる必要があります。現在、多くの開発者は投資家の利益を優先しており、ユーザー体験が後回しとなっているので、このような動機づけの構造を変革していく必要があります。開発者に対しては、テクノロジーの利用者、そして、その利用によって影響を受ける人が優先されるような動機づけが必要です。

人間のニーズを中心に据える形で、豊かな経済を構築することは十分に可能です。消費者に害をもたらすようなやり方を押し付けると、短期的な利益は得られるかもしれませんが、長期的に見ると、最後には企業自体の衰退につながるということを認識する必要があります。そのため、開発者と企業は、ユーザーのウェルビーイング(幸福)と満足度を優先することを、倫理的責任としてだけでなく、長期的な成功のための持続可能なアプローチとして認識しなければなりません。

状況によっては、企業は、徹底的な分析と慎重な検討を重ねて、複雑かつ繊細な妥協点を見極めなければならないことがあります。例えば、メタバースにおいては、個人の特定が可能なデータのうち、どれを使用するかを決定し、デバイスからクラウドに送信する際の安全性を評価しなければなりません。また、相互運用性とポータビリティを可能にするために、他社のデバイスのセキュリティを確保する必要もあります。さらに、年齢関連のデータ収集に頼ることなく、子どもたちを不適切な空間から保護するという課題もあります。

絶好の機会

没入型テクノロジーの領域におけるガバナンスの強化と、これらの技術が社会にもたらす影響への理解は、世界経済フォーラムが極めて重要ととらえている点であり、最近発表された「メタバースのプライバシーとセキュリティおよび社会的影響」に関するレポートでも取り上げられています。私たちが、こうした側面の重要性を認識し、責任あるガバナンスとは何かを明確に理解することが求められています。

現在、没入型体験のための責任あるテクノロジーを確立する絶好の機会が目前にあり、これらのテクノロジーが広く普及する前に、この決定的な機会を捉える必要があります。後の段階になってから、セキュリティ、安全性、プライバシー保護などの必要不可欠な要素を組み込むのは多大なコストがかかる可能性があり、非現実的です。今の段階でガバナンスを優先することで、没入型テクノロジーが将来的に責任あるサステナブルな形で発展する強固な基盤を築くことができます。

大規模な建設プロジェクトの前に実施される環境レビューのプロセスや、医学研究・心理学研究における被験者の審査と同じように、新しい没入型テクノロジーが人間のウェルビーイング、健康、プライバシー、社会的相互作用に与える影響を評価するためには、人間的・社会的レビューの枠組みを確立することが極めて重要です。

このような評価を事前に行うことで、これらのテクノロジーに関連する潜在的なリスクについて貴重な知見を得ることができます。この知識によって、人間性や価値観を回避したり抑制したりせずに、それらと寄り添うような革新的なソリューションを設計することができます。

人間と社会に関わる検証プロセスを取り入れることで、私たちは新たなテクノロジーがもたらす影響を包括的に理解し、この分野で活躍する個人の才能と熱意を活用することができます。才能あるイノベーターは、自分の仕事がもたらす影響の全体像を把握することによって、将来にわたり後悔することのない技術を開発することができるでしょう。

最初の段階から社会的、倫理的、人間的要素を考慮することで、新しい没入型テクノロジーは、私たちの価値観に沿う形で生活を向上させてくれます。そして、イノベーションと責任感が両立する未来を築くことが可能になるのです。

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