公共スペースとインフォーマルスポーツの融合:社会統合政策の推進に乗り出すには
インフォーマルスポーツが、社会統合の強力なツールになる可能性があります。 Image: Unsplash/shawn henry
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- 公式のスポーツ施設よりも、人が誘い合わせてスポーツをする非公式の公共スペースの方が、よりも居心地がよいと感じる人がいます。
- インフォーマルスポーツは、何らかの特定のスポーツを意味するものでも、従来からある組織的なスポーツのように勝利や競争を目的としたものでもありません。参加者をインフォーマルスポーツに惹きつけているのは、個人のスキル向上を目指す気持ちです。
- 変化するインフォーマルスポーツを受け入れるため、各国政府や地方自治体はインフォーマルスポーツをスポーツの明確なひとつの分野として認め、ライフスタイルの変化に対応したシステムやスペースを設計する必要があります。
新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、ランニングや乗馬、ウェイトトレーニングを行うなど、スポーツを本格的に再開し始める人たちで、公共スペースも賑わいを取り戻してきています。興味深いのは、スポーツへの参加の仕方に変化が起きていること。これに伴い、特にインフォーマルスポーツが持つ社会統合のメリットを最大限に生かし、そうしたスポーツのための環境を包摂的にデザインする政策について、考えるべき重要な時期が訪れています。
ジムやスポーツクラブなどの公式のスポーツ施設は、初心者や体型を気にする人が気後れしたり、施設利用者に特定の文化的・社会経済的背景を持つ人が極端に多かったりする傾向がある一方、公共スペースは、民族、年齢、ジェンダー、身体能力が多様なグループに対してよりオープンなものであり続けています。こうしたスペースは、必ずしもスポーツ用に設けられた場ではなく、公園や広場、道路、スロープや階段であることも珍しくありません。公共の場には、概して個人参加のフレキシブルなスポーツ、つまり、インフォーマルスポーツに参加する人たちが集まってくることが調査でわかっています。
スケートボード、オープンウォータースイミング、ランニング、パルクールなどのインフォーマルスポーツは、チームメイトやスケジュール、予約など不確定な要素が最小限なので、それぞれのライフスタイルにより合った種別のスポーツに自由に関わることができます。インフォーマルスポーツは、何らかの特定のスポーツを意味するものでも、従来からある組織的なスポーツのように勝利や競争を目的としたものでもありません。参加者を惹きつけているのは、個人のスキル向上を目指す気持ちです。インフォーマルスポーツは自己規制的であり、参加者がその空間の文化的しきたりを選ぶため、多くの場合、参加者は置かれた環境に親密な結び付きを持つこととなります。
例えば、スケートスペースの利用者は、年齢、ジェンダー、能力、社会経済的地位などの要素が多様であることが往々にしてあります。そのコミュニティでは、共通のスペースにおいて常に監視し、順番を交代し、互いにアドバイスを与えることが必要とされます。スケートパーク利用者はまた、自分たちが集まるエリアのアイデンティティを積極的に築き、次第に共存意識を高め、比喩的な意味でも文字どおりの意味でも、そのサブカルチャーの(グラフィティ)ラインを描いていきます。
増加傾向にあるインフォーマルスポーツ
米国では、新型コロナウイルスの感染拡大以前からインフォーマルスポーツが好まれるようになり、組織化されたチームスポーツへの参加が年間0.2%減少していました。同様に、英国でも、若年層を中心にフォーマルで組織化されたチームスポーツから、個人スポーツへの移行が続きました。
2013年に発表された報告書「オーストラリアのスポーツの未来(Future of Australian Sport)」は、この参加習慣の変化を初めて認めた国家戦略の一つです。この変化の傾向は、ポストコロナで、人々がフレキシブルな働き方を好むようになったことや、一部のスポーツがロックダウンの間に初めて知られるようになったことが背景にあります。例えば、イギリスのスケートボードの全国統括団体である「Skateboard GB」は、パンデミック(世界的大流行)の開始以来、英国のスケートボード参加者が7万人以上増えたと報告しています。
スポーツ、社会的信頼、コミュニティ統合の間には明らかな関連があるため、スポーツを取り巻く社会構造の変化は重要です。欧州委員会は、差別を受けるリスクにさらされ、軽視され社会経済的に恵まれないグループが、スポーツや、スポーツによる寛容性、連帯、包摂性の促進を通じて、ほかのグループと交流し、結び付きを持てるということを明らかにしています。
ところが、ポストコロナの活動に関するスポーツイングランドの2021~22年の報告書によると、一部の少数民族や社会経済グループの間には依然としてスポーツ参加レベルに顕著な不平等が存在しています。また、ユーロスタットも、パンデミック以前の2014~19年の欧州連合(EU)域内において、低所得層の人々の方がスポーツをしていない傾向にあることを明らかにしています。この差をどのように埋めることができるでしょうか。
インフォーマルスポーツができる公共スペースを増やす
公共スペースとインフォーマルスポーツが融合することで、コミュニティは、多様な人々を結びつけ、障壁を取り除くというスポーツの驚くべき力をより容易に利用できるようになります。社会集団は、インフォーマルスポーツを中心に形成されることが多く、大部分が有機的で、自己組織化され、自立しています。このような集団は、参加体験を拡大するために、包摂性に対する責任をほぼ暗黙の形で設けています。また、インフォーマルスポーツは、公共スペースの利用者だけでなく、より幅広いコミュニティが楽しめるものです。
スケートボード、サーフスケート、インラインスケート、BMXは、いずれも観客が見るためのショーであり、スケートスペースはスポーツに参加しない人々や家族が座って、ゆったりとした時間を過ごし、交流するための場所です。それでも、インフォーマルスポーツは必ずしも明確なスポーツ分野として認められておらず、エビデンスに基づいた政策や都市開発を推進するためのインフォーマルスポーツに関する包括的データも不足しています。
社会的統合のためにスポーツを提唱することは、新しいことではありません。世界の多くの都市が、この目的でスポーツプログラムを実施しています。ロンドンの「スポーツ・フォー・オール (Sports for All)」政策は、社会統合をスポーツ政策課題の明確な成果に位置付けた、初の政策の一つです。
しかし、ロンドン・トゥゲザー (London Together)は、社会統合にスポーツを活用することには、多くのメリットだけでなく、デメリットもあることを明らかにしました。スポーツに伴う支出が高額、参加者に費用負担がかかる、競争が激しい、ジェンダーによる影響を受ける、文化的ステレオタイプに傾きやすい、といったスポーツもあるためです。
こうしたデメリットを補うことができるのが、インフォーマルスポーツと包摂的なデザインの公共スペースを融合した場です。さまざまな住民が利用しやすい共有された環境で、低費用と非競争を重視したスポーツを奨励することで、デメリットを埋め合わせることができるでしょう。
当然のことですが、必ずしも都市計画者が考案するような方法で、公共スペースや公共施設がインフォーマルスポーツへの参加を活性化させるとは限りません。公共スペースがより多くの利用者に役立つように、継続してその水準を引き上げていく必要があります。例えば、メイク・スペース・フォーガールズ(Make Space for Girls)は、英国議会、開発業者、資金提供者を対象に、スケートパークを若い女子にさらに利用しやすくする方法を検討するための、有用なガイド公表しています。ガイドでは、あらゆる車椅子スポーツに適した設計にする、初心者限定のエリアを設ける、照明を改善する、トイレ施設の近くに配置するなどの方法が挙げられています。
変化するインフォーマルスポーツの受け入れるため、各国政府や地方自治体は、ライフスタイルの変化に対応したシステムやスペースを設計しなければなりません。政策立案者は、インフォーマルスポーツをスポーツのひとつの分野として認める必要があります。加えて、スポーツの種別や、その参加者の構成、スポーツが行われる公共スペースの特徴の間にある関係について理解を深めるためのリソースを割り当て、最終的に社会統合という価値に転換するべきでしょう。スケートには、多くの可能性があるのです。
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