生みの親が描く、メタバースの未来像

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メタバースは、ビジネスや教育、社会生活を大きく変える可能性を秘めています。

メタバースは、ビジネスや教育、社会生活を大きく変える可能性を秘めています。 Image: Image: REUTERS/Nacho Doce

Kelly Ommundsen
Head of Digital Inclusion; Member of the Executive Committee, World Economic Forum
Jaci Eisenberg
Head of Content Curation, Global Collaboration Village, World Economic Forum
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  • 世界経済フォーラム、アクセンチュア、マイクロソフトが共同で立ち上げたメタバース「グローバル・コラボレーション・ビレッジ」は先ごろ、作家のニール・スティーブンスン氏を招き、メタバースへの考えを聞く機会を設けました。
  • スティーブンスン氏は「メタバース」という言葉の生みの親であり、メタバースの責任ある開発と普及において重要な役割を果たす人物の一人です。
  • このセッションでは、メタバースが社会に与える影響とメタバースを有効活用するために必要なことについての意見も述べられました。

ニール・スティーブンスン氏が著した「スノウ・クラッシュ(Snow Crash)」は、ハッカーやマフィア、コンピューターウイルスが複雑に絡み合うメタバースの中で主人公が活躍する姿を描いた独創的な小説。「メタバース」や「アバター」という言葉を有名にした作品であり、今なおシリコンバレーのテクノロジー企業に大きな刺激を与え続けています。

主人公のヒロが、メタバースを利用しているという設定のこの作品は、1990年代の初めに発表されるとSF小説として絶賛を浴びましたが、その世界観が今、現実のものとなりつつあります。

グローバル・コラボレーション・ビレッジGlobal Collaboration Village)の一環として先ごろ開催されたセッションでは、世界経済フォーラムがニール・スティーブンスン氏をゲストに招き、没入感のある仮想空間であるこのメタバースでの交流が秘めた可能性について、考えを聞きました。

オープンで協調的なメタバース

ディスカッションが始まると、スティーブンスン氏は早速、オープンで協調的なアプローチを進めていくことが、メタバースを開発する上で重要であると強調しました。

「メタバース開発においては、オープンで責任あるアプローチが可能であり、そのようなアプローチを推進していく必要があります。インターネット空間では、この数十年間、驚くほど素晴らしいイノベーションが多く誕生しています。世界中の人々の生活を豊かにしたり、世界中にちらばる個人と個人につながりを持たせたりできる。そのような大きな力を持った技術がそこに存在しているのです」。

続けてスティーブンスン氏は、テクノロジーの可能性については基本的には楽観的であると述べつつも、その可能性を最大限に引き出し広く普及させるには熟慮を重ねた取り組みが欠かせないという持論を展開しました。

「メタバースの開発や普及に、時間とお金を費やすことに前向きな起業家やイノベーター、企業は、膨大な数の人がなぜ、そしてどのようにしてメタバースを進んで利用しようとするのかを熟考しなければなりません。このようなことは言うのはためらわれますが、メタバースを利用しようとする人は、それ自体が目的なのだろうと思います。新しい物事を試してそれを利用し続けるのは、それが楽しいから、あるいはそれが必要だからと感じる場合がほとんどです」。

エンターテイメントをメタバース構築のツールに

膨大な数の人々をメタバースの世界に引き込むにはどのような手段をとるのが最も効果的かを問われると、スティーブンスン氏からはエンターテイメントの威力という答えが返ってきました。

「メタバースにエンターテイメントが持つ魅力を組み合わせれば、数多の人々を引き込むことができるでしょう。エンターテイメントがどのように変化してきたかを振り返ってみてください。今、私たちは、多くのクリック数や視聴回数、注目を次の世代から獲得するにはどうすればよいかに知恵を絞るようになっています。今後は、ミュージシャンやクリエイターと、楽しませる対象を直接つなげるにはどうすればよいかが多くのメタバースのモデルにおいてポイントになっていくでしょう」。

マシュメロやトラビス・スコット、ジャスティン・ビーバーといったミュージシャンは、すでにバーチャルでライブを行っています。エンターテイメント業界ではメタバースのムーブメントが加速しつつあるのです。


一方、メタバースのテクノロジーの普及において一歩先を行くのがゲーム業界。『Roblox』『マインクラフト』『フォートナイト』などのメジャーなゲームではすでに、仮想空間でのコラボレーションや交流という要素が強く感じられるようになっています。メタバース開発においてトップスキルを開発・維持して主導的な役割を果たし続けているのもゲーム業界です。

スティーブンスン氏は次のように語っています。「ゲーム業界は、メタバース開発おいていろいろな意味で変化をリードしており、この業界には、ゲーム以外の分野でメタバース関連のソリューションを展開していくのに必要な才能が数多く集まっています。強力な牽引力を発揮して、エンターテイメントを通じて多くの人をメタバースに引き込んだゲーム業界の手法は見習うべきでしょう。メタバースを社会の他のセグメントにも展開するとするならば、ゲーム業界のスキルと、他のセクターのためのメタバース・ソリューションを考え出す彼らの意欲の両方が不可欠です」。

いわゆる「シリアスゲーム」が他の業界にどのように役立ち、さまざまな事業でのメタバース普及を実現していくかについては、スティーブンスン氏は次のように考えています。「シリアスゲームはまだ誕生して間もないテクノロジーです。エンターテイメント性を高めて魅力的なものにすることができれば、どの業界でも普及させることができるでしょう。シリアスゲームとバーチャルリアリティ(VR)は、安全・危機管理のトレーニングなどにも取り入れることができ、核などの重大な分野でも技術者のトレーニングに応用できるでしょう。ただ、科学的に正確なシミュレーションが求められるので、その実現にはかなりの時間が要するかもしれません」。

メタバース、AI、そしてアート


グローバル・コラボレーション・ビレッジの他のセッションには、アーティストのレフィク・アナドル氏が招かれました。創作活動にAI(人工知能)を取り入れている同氏は、どのようにしてメタバースの中でAIを駆使して斬新で魅力的なアートを生み出しているのかを話しました。

AIは、アナドル氏などのアーティストのアイデアをさらに発展させるかたちでメタバース開発に利用できる可能性を秘めていると考えるスティーブンスン氏は、メタバースアーティストの有用なツールとしてAIソリューションをどのように応用できるかについて次のように語りました。

「AIを活用すれば、メタバース用のAIエンターテイメントや、AIキャラクターを生み出せるでしょう。AIに情報を与えることでAI自体がアートに変化するとは、想像するだけで心が躍ります。ただし、メタバースの中でのアート制作のツールとしてAIを利用する場合は、人間の社会的な要素と感覚が失われないようにするのが大切です。AIとメタバースというテクノロジーを融合させれば素晴らしいコンセプチュアルアートを創造できるでしょう。しかし、それを本当の意味での『アート』にするためには、そこに人間らしさを残さなければなりません」。

メタバースの未来

メタバースという言葉自体は、30年以上前に「スノウ・クラッシュ」から生まれましたが、企業や政府、個人によってメタバースソリューションが浸透する段階にはまだ至っていないというのが現状です。企業がこのようなバーチャルな可能性を模索する中で、そこにエンゲージメントやエンターテイメント性を確保するとともに、価値を示していくことが重要になるでしょう。

スティーブンスン氏は最後に次のように語り締めくくりました。「人間の生活に真に価値をもたらすものを創り出すことは、私たち全員の責任です。メタバースは、ビジネスや教育、社会生活を大きく変える可能性を秘めています。それが、単なる目新しさを超えて、人間の実生活の一部になるまでに普及させていくには、相当の努力が求められるのです」。

ライセンスと再発行

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著者:

Chief of Staff; Head, Global Collaboration Village; Member, Executive Committee, World Economic Forum

Head of Content Curation, Global Collaboration Village, World Economic Forum

この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。

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オープンで協調的なメタバースエンターテイメントをメタバース構築のツールにメタバース、AI、そしてアートメタバースの未来

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