世界経済フォーラムの取り組み

すべての人のためのAIの未来を構築するために、今こそ連携を

AI(人工知能)ガバナンスの枠組みは、産業界のリーダー、政府、アカデミア、市民社会の組織を巻き込み、共同で構築される必要があります。

AI(人工知能)ガバナンスの枠組みは、産業界のリーダー、政府、アカデミア、市民社会の組織を巻き込み、共同で構築される必要があります。 Image:  Getty Images/iStockphoto

Cathy Li
Head, AI, Data and Metaverse; Member of the Executive Committee, World Economic Forum
Jeremy Jurgens
Managing Director, World Economic Forum
  • 生成AIは、経済と産業に変革を起こそうとしています。
  • この変革を、公正かつすべての人のためになるよう導くためには、AIガバナンスの枠組みを構築・実施することが不可欠です。
  • こうした状況を受け、世界経済フォーラムは、AIガバナンス・アライアンスを立ち上げ、産業界のリーダー、政府、アカデミア、市民社会の組織を結集させ、透明性と包摂性のあるAIシステムの責任あるグローバルな設計および展開を推進しています。

生成AIは、膨大な量の情報を素早く合成し、人間が持つような創造性をテクノロジーと融合させながら、さまざまな媒体で多様なコンテンツを生成します。この新たな分野は、業界を横断して仕事の世界に革命を起こし、作業を自動化させ、創造性を育み、意思決定を改善する大きな可能性を持っています。

しかし同時に、倫理的な配慮や公平性の概念から、知性に関するより深い議論や、テクノロジーが制御不能になる仮想の未来である「シンギュラリティ(技術的特異点)」を迎えることへの懸念に至るまで、課題も生まれてきています。具体的には、仕事の置き換え、悪意ある搾取、人間の価値観との不一致など、潜在的なリスクをもたらすことから、所有権や知的財産権、オープンモデルとクローズドモデル、イノベーションと安全性のバランス、多言語モデルと主権国家言語モデルの間の緊張関係などに至るまで、多岐にわたります。また、機会や資源の不平等な分配を招くことで、デジタル・デバイドを悪化させるのではないかという差し迫った懸念もあります。

高まるAIガバナンスの枠組みの必要性

このような不確実性は、責任ある有益な結果をすべての人に保証するための、強固なAIガバナンスの枠組みを緊急に構築する必要があることを示しています。AIガバナンス戦略は、チャンスとリスクを評価し、生成AIの可能性を活用することと、倫理的配慮を守ることの間でバランスを取りながら前進する方法を提案するものでなくてはなりません。テクノロジーが進歩し、その範囲が拡大し続けるにつれて、その開発と展開が人間中心の原則に沿ったものであり、あらゆる場面で社会の進歩を促進するものであることを保証することが重要になります。

国連、OECD、G7広島AIプロセス、G20 AIポータル、EU・米国合同貿易技術理事会などは、AI技術開発と展開における倫理原則、透明性、安全性に関する提言を打ち出しています。また、各国は、産業界主導の自主規制から正式なガバナンス・モデルまで、規制的アプローチを模索しているところです。これらの取り組みは前向きなものですが、十分とは言い難いのも実情です。生成AI開発が、急速なスピードで広範囲に拡大していることを考えると、グローバルな官民連携による対処が必要です。

AIガバナンス・アライアンス

こうした状況を受けて、世界経済フォーラムは、AIガバナンス・アライアンスを立ち上げ、産業界のリーダー、政府、アカデミア、市民社会の組織を結集させ、透明性と包摂性のあるAIシステムの責任あるグローバルな設計および展開を推進しています。このイニシアチブは、既存の枠組みに基づき、世界経済フォーラムが4月に主催した「責任あるAIリーダーシップ:生成AIに関するグローバルサミット(Responsible AI Leadership: A Global Summit on Generative AI)」からの予備的な提言を取り入れています。

AIガバナンス・アライアンスは、50年以上にわたり、世界経済フォーラムがマルチステークホルダー・パートナーシップを築いてきた専門知識に基づいて構築されています。同アライアンスは、企業の知識、パブリックセクターのガバナンス・メカニズム、市民社会の目標を結集し、生成AIシステムの変革的な性質に対処するために取り組んでいます。世界経済フォーラム第四次産業革命センター(C4IR)の支援を受けて、さまざまな地域と積極的に関わりながら進められているこの取り組みは、生成AIシステムの変革的性質に対処するためのグローバルなアプローチの形成に貢献しています。

責任あるAIのための3つのミッション

AIガバナンス・アライアンスのミッションは、責任ある安全なAIの開発と展開を確保するために取られるべき3つの基本的な行動を強化しています。

第一に、安全なシステムと技術を優先する必要があります。ユーザーの安全性とリスク軽減を確かなものとするため、堅牢で安全なAIシステムにリソースを投資することが求められます。これには、共有用語、基準、トレーサビリティの確立といった技術的側面だけでなく、開発と展開の過程全体を通じて責任ある実践を実施し、強固な評価方法を確保することなどが含まれます。

第二に、私たちは持続可能な応用と変革を保証し、生成AIを長期的な社会目標と一致させ、バイアスの解消や透明性の促進を図ることが重要です。企業や政府のリーダーに、それぞれの組織内で効果的かつ責任ある方法で生成AIの力を活用するために、必要な知識と先見性を身につけさせること、それに伴うリスクを軽減することも不可欠です。

第三に、強靭なガバナンスと規制が鍵を握っています。同アライアンスは、政策立案者やステークホルダーと協力して、生成AIに特化した倫理的な枠組みや規制措置を制定します。これには、潜在的なリスクを予測し、開発を導き、責任あるAIの実践について世界的に調和の取れた理解を確保することを目的に、社会的影響を評価し、公平性と包摂性を支持し、本質的なガバナンスの青写真を共同設計することが含まれます。

イノベーションを促進し、AIの恩恵を最大限に引き出す一方で、リスクを最小化するために、私たちは一致団結する必要があります。私たちが、多様な見識と健全な戦略を結集して、AIを正しい道へと導くことができれば、生成AIは、個人をエンパワーし、社会を進化させる力となり得るのです。

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