勢い加速する日本の宇宙ビジネス

勢い加速する日本の宇宙ビジネス

世界的にも注目される日本の宇宙ビジネスは、スタートアップが牽引しています。 Image: Photo by Nasa on Unsplash

Naoko Kutty
Writer, Forum Agenda
Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
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  • 2021年には4,690億ドル(約64兆円)に達した世界の宇宙ビジネスの市場規模は、2040年に1兆ドルに届く見込みです。
  • 日本における宇宙産業の市場規模は約1.2兆円で、日本政府は、2030年代初頭に2.4兆円までに倍増させたいとしています。
  • サステナブルな宇宙ビジネスの発展を実現するためには、官民の一層の連携が不可欠です。

宇宙ビジネスの成長が勢いを増しています。2021年には4,690億ドル(約64兆円)に達した世界の宇宙ビジネスの市場規模は、2040年に1兆ドルに届くと見込まれています。こうした中、これまで政府主導の事業領域であった日本の宇宙産業にも、先進的な取り組みを掲げるスタートアップなど、民間企業の参入が進んでいます。

現在、日本における宇宙ビジネスの市場規模は約1.2兆円。日本政府は、それを2030年代初頭には2.4兆円まで倍増させるビジョンを打ち出しました。同ビジョンでは、宇宙ビジネスを日本の経済成長に貢献する産業として位置づけ、AIやIoTといった新技術領域と宇宙との融合や、異業種との連携、そして宇宙ベンチャーの振興が大きな方針として掲げられています。

日本における宇宙飛行の歴史

これまで、10人を超える日本人宇宙飛行士が、数々の実績を残しています。1990年、日本人として初めて宇宙へ行った秋山豊寛氏は、宇宙船ミールに6日間滞在。その後、1992年には毛利衛氏が、2010年には山崎直子さんがNASAのスペースシャトルに搭乗。また2000年から5回にわたり宇宙飛行をし、累積宇宙滞在日数が日本人最長の504日を達成した若田光一氏は、3ヶ月前に国際宇宙ステーション(ISS)に157日間滞在した5回目の宇宙飛行から帰還したばかりです。

近年では、2021年に実業家の前澤友作氏が日本の民間人として初となる宇宙飛行を実現し、ISSに12日間滞在しました。誰でも宇宙へ行ける時代が着実に近づいてきていることを、多くの人が実感しました。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、14年ぶりに新たな宇宙飛行士候補者の選抜試験を実施。今年、世界銀行上級防災専門官の諏訪理氏と、外科医の米田あゆ氏が選抜されました。2人は今後、米国が主導する有人月探査「アルテミス計画」で月面に降り立つ可能性があります。

勢い高まる民間宇宙ビジネス

大企業から中小企業、スタートアップまで、さまざまなプレーヤーがこれからの宇宙産業を盛り上げていくと期待される中、日本郵船、SOMPOホールディングス傘下の損保ジャパン、ENEOSホールディングス、京セラ、三菱倉庫、セキュリティー会社のラックは、宇宙ビジネスの新たな創出を目指し、デロイトトーマツグループの宇宙関連ビジネスプログラム「GRAVITY Challenge JP」への参加を表明しました。

同プログラムは、社会課題の解決を目指す日本の大企業・政府機関と、技術・ソリューションを有するスタートアップ、大学、研究機関等を結び、宇宙産業分野の新たなサービス開発を目指すものです。2023年秋移行の事業化に向けた準備の始動を目指し、協業相手となるスタートアップや研究機関の選定が現在進められています。

日本郵船は、衛生データを活用して船舶運航の安全や効率化、環境負荷の低減を目指し、船舶が衝突や座礁などで止まっている時間を指す「ダウンタイム」の減少や、二酸化炭素や窒素酸化物などの排出量の精密な計測を行う予定です。

また、損保ジャパンは、宇宙旅行事業者向けのリスク管理サービスや、宇宙旅行社向けの旅行保険の開発を手がけるスタートアップと協業することを目指し、宇宙産業のビジネスモデルを分析して保険の作成に生かすとしています。

宇宙ビジネスを牽引するスタートアップ

5年前にはわずか10社程度であった日本の宇宙スタートアップは、現在50社を超えるほどに増え、日本の宇宙ビジネスの勢いを牽引しています。宇宙ビジネスの産業発展を支える一般社団法人SPACETIDEの共同設立者兼COOである佐藤将史氏は、日本の宇宙ビジネスの特徴を、宇宙と異業種のかけ算により価値創造を行うユニークなスタートアップが、多数存在感を発揮している点にあると言います

時給換算13万ドル(約1,800万円)の宇宙飛行士の作業コストを、汎用型ロボットで100分の1にする。そんな壮大なビジョンを掲げ、宇宙向けの自律制御ロボットを開発しているスタートアップのGITAIは、創業5年目の2021年にはNASAと契約し、ISSで同社が開発したロボットアーム「S1」を使った太陽光パネルの組み立てなどの作業実験に成功するなど、破竹の勢いでビジョンの実現へと進んでいます。宇宙空間でのロボットによる汎用作業は初の快挙で、日本のスタートアップが宇宙開発の新たな地平を切り拓きました。

S1は、宇宙ステーションなどの軌道上サービスや、月面基地開発における作業の自動化を目的とし、AIを用いた自立型制御と、地上のオペレータによる遠隔操作が組み合わされることで、従来のロボットアームでは困難だった難しい作業を行うことができます。

同社の売りは、人間の手の動きや力加減など、精密な動作を再現できる高精度なロボティックス。月面で科学的な実験やソーラーパネルなどの組み立て作業ができる月面ロボットローバーも開発しており、将来的には、月面の都市建設にも使用できるようになると見込んでいます。

また、人工衛星を使ったインターネット通信の普及、衛星データを活用した「超スマート社会」の実現など、宇宙利用による効果が幅広い産業に広がり世界的に人工衛星の需要が高まる中、人工衛星用地上アンテナのネットワーク化や設置支援サービスに取り組むインフォステラが、北海道大樹町に、アンテナを設置・運用するための地上局サイトを開設しました。

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官民連携が鍵、持続可能な宇宙ビジネスの未来

世界経済フォーラムのパートナー企業である日本のスタートアップispaceの、初の月面着陸ミッションが失敗に終わったように、すべてのチャレンジが成功するわけではありません。しかし、宇宙でのさらなる機会を開発するための努力は続いています。そして、官民が連携して持続可能な発展を目指すことなしに、こうした弛まぬ努力の成果を最大化させることは不可能でしょう。

2022年に開催された世界経済フォーラムのダボス・アジェンダに、宇宙から生中継で参加した宇宙飛行士のマティアス・マウラー氏は次のように語ります。「宇宙にアクセスできないような未来を望む人はいないでしょう。宇宙を綺麗なまま維持し、誰もがアクセスできるようにするためには、対策を講じる必要があります。私たちの経済や日常生活は、宇宙にあるものにあまりにも大きく依存しているのです」

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ライセンスと転載

世界経済フォーラムの記事は、Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International Public Licenseに基づき、利用規約に従って転載することができます。

この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。

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