給与の透明化は、職場における賃金格差解消の一助となるか
給与情報を透明化する動きは、この三年間で、米国だけでなく世界各国に着実に広がっています。 Image: Getty Images/iStockphoto.
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ダボス議題
- 近年、給与情報を透明化する動きが広がる一方、国や業種によっては大きな格差が残っています。
- 米国の調査によると、給与情報の開示を義務付ける州や地方の法令が採択されたことで、こうした動きが加速しています。
- 賃金格差を解消し、求職者が公平な給与を交渉できる環境を整備するには、さらなる対策が必要です。
給与情報の透明化(企業が現在の従業員の給与に関する情報を開示し、求人情報に賃金や給与のデータを含めること)は、特に、人種や性別による長年の賃金格差の解消に役立つ可能性があります。給与情報開示法の制定は、不公平の是正に力を入れる政策立案者にとって有効な手段となり得ます。一方、給与情報を透明化する動きが全世界で統一されていないため、賃金格差が解消されることなく続く恐れがあります。
2022年、ピュー研究所が先日実施した分析によると、米国では男性が1ドル稼ぐのに対して、女性は82セントという差があったということです。また、米国労働省の統計によると、米国の白人労働者が1ドル稼ぐのに対して、黒人は76セント、ラテン系は73セントという差があります。
こうした給与の格差は初任給から始まり、就労している間、常につきまとう問題です。給与の透明化は、賃金交渉の権利を雇用者から被雇用者や求職者に移し、意識的・無意識の雇用の偏りをなくすと同時に、公平な賃金制度の導入に対する雇用者の責任を強めます。
一方、近年、給与の透明化が進んではいるものの、米国だけでなく世界各国のオンライン求人広告の大部分が、給与に関する重要な情報を求職者に開示していません。給与情報の透明化を強制する規制が拡大しても、それだけで、賃金の格差がただちに解消されるわけではありません。調査の結果によると、厳しい透明化の規制が導入されても、多くの企業にとっては慣行遵守の強制力にはならないことが明らかになっています。特に、テレワーク体制が続くことで、規制の緩い地域の雇用者が、規制の厳しい地域の労働者獲得に向けて競い合うようになります。
給与の透明化による賃金格差の解消
給与の透明性(インディード社のオンライン求人情報で明確な給与情報を記載している記事件数の割合で計測)は、この三年間で、米国をはじめとする各国で着実に向上しています。
インディード社が掲載した米国の求人広告のうち、給与情報記載を雇用主が指示した広告件数は、2020年2月から2023年2月の間で18%から44%へと倍以上に増加しました。同時期のドイツにおける給与の透明性は、8%から20%に増加しています。カナダとフランスでは、2020年2月から2023年2月にかけて、給与情報が記載された広告の割合がそれぞれ86%、54%上昇しています。
インディード社が、最近実施した米国の求人情報の分析によると、この数年間で求人情報における給与の透明性が向上した背景にはいくつかの要因があることがわかりました。これらの要因は、他の国でも共通して見られるものです。労働市場がひっ迫し、応募者の数を増やすため、雇用者が給与情報を積極的に開示する必要に迫られていることが挙げられます。また、特に競争の激しい市場では、提示された給与に応じない応募者を除外することで、雇用者/雇用者のマッチングプロセスのスピードアップにつながります。テレワークが普及し、定着したことで、こうしたデータにアクセスが期待できる、またはこうしたデータにアクセスすることが一般的な地域の候補者を惹きつけるため、給与情報を掲載せざるを得ない雇用主が増えたことも一因と言えるでしょう。
一方、少なくとも米国では、給与の透明性が向上している最大の要因は、給与情報の開示を義務づける法律が施行されているからでしょう。2019年、コロラド州では、2021年1月1日から、求人情報に給与情報を記載することを雇用主に義務付ける法案が可決されました。法案が成立した当初、米国では給与情報を記載していた求人広告は全体のわずか16%でした。その後、カリフォルニア州、ワシントン州、ニューヨーク市が同様の条例を制定し、今年後半にはニューヨーク州の他の地域も追随する予定です。
そして、この法律は効果をもたらしたようです。この分析に含まれる米国の大都市圏のうち、透明性が最も高い10都市はすべて、給与開示法の対象となる州に位置しています。
給与の透明化を義務づける条例が正式に制定されていない地域でも、給与透明化法が施行されている管轄区に隣接していれば、進展を促す効果が十分にあるようです。給与情報開示に関する法律が施行されている州や都市を除外すると、ユタ州の三大都市圏(それ以外の都市には州全体を対象とした透明化の条例がない)が最も透明性の高い市場のトップにランクインしたのは、ユタ州がコロラド州に隣接していることによる波及効果なのかもしれません。
また、今後条例が制定される可能性があれば、透明性向上に十分な効果をもたらすようです。ハワイでは、1月に給与情報の開示を義務づける法案が提出されましたが、給与情報を記載したホノルルの求人広告の割合は、この一年で77%も増加しています。コネチカット州とマサチューセッツ州でも給与透明化法案が提出され(まだ可決されていませんが)、両州の市場でも同様に、給与情報を掲載した求人広告が急速に増えています。以下のリストに記載されている都市圏は、給与透明化法案が可決された、あるいは提出された州に隣接しています。
最後に、給与透明化法が施行されている、あるいは施行地域に隣接しているだけで、雇用者の透明性向上が奨励されるのは事実ですが、逆もまた然りと言えます。開示を義務づける法律がない地域では、透明性自体が失われる恐れもあるのです。米国の求人情報における給与の透明性が最も低い20の都市圏のうち、18の都市が給与の透明性に関する条例の制定率(条例全体)が他の地域より低い米国南部にあります。地域による職種の違いを考慮しても、この傾向は根強く残っています。
あらゆる業種の給与がすべての人に開示される世界が非現実的だとしても、全体としては、透明性の向上は確実に望ましいことです。近年、急速に進化しているとは言え、世界にはまだまだ改善の余地があるはずです。例えば、米国、ドイツ、カナダ、オーストラリアのインディード社の大半の求人広告には給与情報が記載されていません。
「同一労働同一賃金」とは、給与の透明化で終わるものではなく、そこから始まる崇高な目標なのです。正しい情報をより多く開示し、適切なタイミングで適切なデータへのアクセスが増えれば、さまざまな経歴の労働者の雇用機会が増え、給与を決定する権限のバランスが求職者に移行する可能性が高くなるでしょう。
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