世界経済フォーラムの取り組み

分断の流れを食い止めるとき

グローバルな協力体制の強化は、現在の過剰な危機に対する解決策を提供することができます。

グローバルな協力体制の強化は、現在の過剰な危機に対する解決策を提供することができます。 Image: Getty Images/iStockphoto

Mirek Dušek
Managing Director, World Economic Forum
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本稿は、以下会合の一部です。世界経済フォーラム 年次総会2023

世界は、複雑で相互に関連する課題を抱え、分断が起こりつつあります。この数年間、グローバルな協力体制は弱体化し、その傾向は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)とウクライナ危機が引き金となり加速する一方です。世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書2023年版によると、多様な国際ネットワークの専門家の5人に4人が、この不安定な状況が今後2年間は続くと予想しています。

どうすればこの分断の流れを食い止めることができるでしょうか。求められるのは、私たちが今すぐに行動を起こすことです。

1月に開催される世界経済フォーラム年次総会2023は、各国政府、企業、市民社会から2,500人以上のリーダーたちが、世界の最も差し迫った課題に取り組むためのアイデアを共有し、計画の概要を示し、パートナーシップを形成します。今年の年次総会では、世界の隅々にまで及んでいる緊急の危機をどう対処するか、そして、2020年代末までに、よりサステナブルでレジリエント(強靭)な世界をつくるための基盤をどのように構築するか、の2つの視点で議論が進められていくことが求められています。

最も重要なのは、エネルギーと食料という重なり合う資源のグローバル危機と、厳しい経済の見通しに対処するために、有意義なソリューションを見出すことです。こうした逆風の中で、成長、貿易、投資の再開に力を注ぐことが急がれます。

今起きているエネルギー危機は、家庭、企業、政治、経済と広範囲に脅威を与えています。世界のリーダーたちは、人々を寒さから守り、工場を稼働させ続けるという短期的な対策に取り組むと同時に、経済の競争力を損なわずにネットゼロへの移行を加速させるという長期的な目標も達成させるという、難しい局面に立たされています。また、エネルギー価格の高騰により食料安全保障が脅かされるリスクもあります。深刻な食料不安に直面している人の数は2019年以降2倍以上に増えており、国際システムが相互に結びついていることを反映しています。

さらに、雇用とビジネスが、高インフレ、低成長、債務増大の影響を受ける中で、世界は今後数カ月にわたって困難な経済状況に直面していくことになります。世界経済フォーラムの最近の報告書によると、中小企業(SME)や中堅企業の3分の2以上が、生き残りをかけて闘っていることが分かりました。同時に、生活費の高騰危機により、世界中で数百万人もの人々が貧困に追いやられています。

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世界が直面している危機が均一化するにつれ、その解決方法も収斂していきます。私たちは、エネルギー転換のモメンタムを維持し、人口増加に伴うニーズに対応する持続可能な食料システムを構築し、経済的打撃の影響を最も受けやすい人々を確実に保護しなければなりません。そのために、政策立案者は、この危機で露呈した構造的な弱点に対処しつつ、経済のレジリエンスと持続可能性の強化を目的とした政策改革を進める必要があります。

こうした取り組みにおいては、有望なイノベーションを見極め、新しい技術を最高水準に高めていくことが重要です。近年、技術の進歩は世界が直面している多くの課題解決に希望を与えていますが、その開発と導入が需要に追いついていないのが現状です。ニュー・チャンピオンテクノロジー・パイオニアアップリンク(UpLink)などは、協調的なコミュニティの中でこのようなイノベーションの水準を高め、前進させるための青写真を提供しています。

また、これまで、組織のリーダーシップには「言うは易く行うは難し」という考えが当たり前でした。産業や地域を越えて点と点を結ぶことは複雑な課題であり、往々にして強いストレスや相反する要求に直面するものです。しかし、このような複雑な状況にあるからこそ、早急に行動を起こすことが必要なのです。包摂的なアプローチでソリューションを見出し、発展させていくとともに、リーダーたちが建設的な議論を通じてベストプラクティスを共有し、互いに学び合うことのできる場を設けなければなりません。

介護士や医療従事者といった、社会包摂型の経済を支える仕事や、環境に優しい経済への移行を支える環境エンジニアなどの職の創出に努めること。そして、テクノロジーが産業を変革していく中で、新たな経済機会を最大限に活用し、変化する市場の需要に応えるための、労働者のリスキリング(新たな学び・研修)に投資するグローバルな取り組みが必要です。

こうした取り組みを補うために、官民のパートナーシップを構築、強化しなければなりません。企業は、すばらしいアイデアを取り入れ、迅速かつ包摂的に実行に移すことができる専門知識や理念、イニシアチブを持っています。政府がそうした企業の力を頼ろうとする動きが高まってきています。例えば、2021年にジョー・バイデン米大統領とのパートナーシップの下で立ち上げられたファースト・ムーバーズ・コアリション(First Movers Coalition)は、アルミニウム、航空、化学、コンクリート、海運、鉄鋼、トラック輸送という、7つの「排出削減が困難な産業」に属する企業を一つに束ね、2030年までに低炭素技術の向上と確保に取り組んでいます。

地球規模課題への対応は、ゼロサムゲームではありません。力を合わせることで、これから先の困難な一年を乗り切り、未来に投資することができるのです。

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