需要を形成しネットゼロ達成を加速する、革新的なマーケティング
革新的なマーケティングは、社会的責任を果たす選択を消費者に与えることができます。 Image: Joshua Rawson-Harris/Unsplash
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デジタルエコノミー
- マーケティング部門は、ビジネスの需要に関して消費者行動を形成することができる立場にあります。
- 多くのマーケティング部門は、組織のサステナビリティ目標の達成やプログラムの実施にあたり、中心的な役割を十分に担えていません。
- ネットゼロを達成するためには、マーケティング部門がイノベーションを起こすために必要なツールと情報を与えることが重要です。
昨年11月にエジプトのシャルムエルシェイクで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)は、気候変動の打撃が大きい開発途上国を支援する「損失と損害」基金の創設することで歴史的な合意に至り、閉幕しました。しかし、地球温暖化による気温上昇を1.5℃以内に抑えるという、一段と厳しいコミットメントを協定に盛り込むことはできませんでした。
今、改めて明らかにしておくべきことは、各国の国内での規制や交渉を越えた構造的な変革なくして、気候変動による最悪のシナリオを避け、必要な目標を達成することはできないということです。つまり、私たち全員が、今すぐ行動しなければなりません。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書(6th assessment report)は、需要サイドの対策に大きな可能性があることを指摘。なかでも、消費者に特定の意思決定を促す手段としての「選択アーキテクチャ(choice architecture)」が、世界の温室効果ガス排出量(GHGs)の削減をもたらすと強調しています。報告書では、これらの緩和対応策を、社会文化的規範、インフラ、エンドユーザーによる採用という3つの領域に分類。これら領域が相互に交差しているとしています。
こうした需要サイドの対策は、供給サイドの脱炭素化と密に結び付いていますが、革新的な技術や政策、行動の変化があれば、こうした対策が1.5℃目標の達成に大きな役割を果たし、世界の温室効果ガスを推定で40~70%も削減できると、複数の調査は示しています。
企業は、人々のライフスタイルや行動にプラスの変化を促す技術、製品、ビジネスモデルを生み出し、こうした新しい規範や生活様式が広く受け入れられるようにすることで、これらの対策を活かすことが可能です。また、企業にはその責任があります。
消費者も同様に、常に情報を入手し、より良い、よりサステナブルな決定を行う責任があります。しかし、情報へのアクセスにばらつきがあり、価格、体験、利便性が、サステナビリティの利点より重視される過剰消費の文化が浸透する中で、消費者はどちらかといえば無力な存在です。
こうした状況を踏まえると、私たちのサステナビリティの道を成功に導くためには、その責任の大部分を企業が担わなくてはなりません。企業の中では、消費者と幅広いビジネスの橋渡し役となるマーケティング部門が、新しい行動に影響を与え、そうした行動を広げることのできる立場にあります。また、サステナブルな地球の実現に向けて、一貫したイノベーションを組織内で推進し、導くこともできます。
私たちが直面している差し迫った現実を考えると、マーケターは、気候変動のソリューションの需要サイドの進展を加速させる鍵を握る、世代間の変革推進者であるといえます。しかし、企業が掲げるサステナビリティの目標と、それを実現するマーケティング部門の能力の間には、根本的な乖離があります。
電通とカンターが最近実施した、アジア太平洋地域の企業のサステナビリティの現状に関する調査では、この「組織の意図と行動のギャップ」が、マーケターが企業のサステナビリティ課題の解決を効果的に推進し、世界における気候変動との闘いを前進させることを妨げている主要な構造的課題であると、指摘されています。
この調査では、アジア地域の企業が、重要な環境・社会課題に関して消費者と足並みを揃えることに苦戦していることが明らかになりました。その一因として、サステナビリティプログラムに影響を与えていること、それを評価するスキルやツール不足しているため、企業のサステナビリティ変革において中心的役割を果たす権限がマーケティング部門に与えられていないことが挙げられます。
企業戦略やサプライチェーンなどの事業部門は、サステナビリティへの貢献が順調に進捗していることを報告している一方で、マーケティング部門は大きく後れをとっています。調査対象となった71社のうち、マーケティングおよびインサイトチームが「サステナビリティ計画を実行し、進捗を評価している」と回答したのは、34%でした。サプライチェーン部門の46%、企業戦略部門の51%と比較すると、見劣りする結果です。
また、マーケターが社内のステークホルダーにサステナビリティの価値を伝え、プログラムがポジティブで測定可能なインパクトを持っていることを証明することに苦戦しているということも、明らかになっています。調査対象者の約44%が、消費者が自社ブランドのサステナビリティへの取り組みをどう捉えているかわからないと回答し、37%が、自社のサステナビリティ構想に真実味がないと捉えられることを懸念してることがわかりました。
マーケティング部門が、世代交代の担い手として本来の役割を果たすためには、企業が根本的な意識改革を行い、サステナブルな変革を組織原理として確立する必要があります。その前提条件は、地球や私たちのウェルビーイング(幸福)へのインパクトに関係なく「確実な収益源」の売上を最大化するための四半期ごとの重要業績指標(KPI)から、マーケティング部門を解放することです。
これは、マーケティング部門にイノベーションを起こす権限を与え、確実な前進を目指すことを意味します。企業は、コミュニケーションやキャンペーンレベルのイノベーションの支援を今すぐ始めることができます。マーケティング部門が、情報に基づいたメッセージングやキャンペーンを行うためのスキル、ツール、能力を備えれば、企業が消費者を教育し、地球にとって最も良い選択ができるよう促すことができるようになるでしょう。マーケティング部門へのそうした支援には、マーケターがサステナビリティのメッセージングや手法を検証するための調査に投資することも含まれます。
より長期的には、ブランドは、外から内へのイノベーションアプローチを推進するための機会をマーケティング部門に最大限与えられるような仕組みとインセンティブを導入することで、その真の潜在力を引き出すことができます。このアプローチは、製品レベルでも、ビジネスモデルやカテゴリーレベルでも、人を意思決定の中心据えることが鍵となります。マーケティング部門は、社内ではほかの事業部門と協力する権限を、社外ではエコシステムのパートナーと協力して、真の違いを生み出す消費者志向のイノベーションを加速させる権限を持つ必要があります。
企業が、社会的責任を果たすための基盤を築くには、スタートの時点での明確さが必要です。規範、ライフスタイル、行動を変革するという社内のコミットメントをはっきり掲げることは、リーダーシップの観点から必須であり、これがすべての部門に正しいマインドセットを形成することになります。企業はこれと並行して、検証された科学的根拠に基づくネットゼロ目標を設定し、明確なゴール地点を設ける必要がるでしょう。これにより、1.5℃目標達成に向けた信憑性と誠実さを組織の内外に示すことができるのです。
重要なのは、企業全体でのサステナビリティの誓約を、マーケティングの目標も含め、各部門の明確な目標に置き換えなければならないということ。サステナビリティについて、ほとんどの企業がすでに多くを評価や検討していることは、間違いないでしょう。ただ、特にサステナビリティーマーケティングとの関連では十分な評価が行われておらず、この点が主要な課題です。マーケティング上のサステナビリティ戦略とビジネスの成果との関連を明らかにするための真摯な取り組みが求められます。
過剰消費文化が浸透している中で事業が行われているという考えに立ち返り、企業に対して自らの存在意義を問い直すことや、従来型のビジネスが地球に与える影響を検証するよう求める声はますます高まっています。地球温暖化に関して私たちが今進んでいる道は、この先に、政策または市場のどちらかが従来型のビジネスを擁護できなくなる転換点が訪れることを意味しています。
そうした転換点において、消費者は旧来の方法(または製品)からサステナブルな新しい方法への切り替えをしっかり行うことでしょう。これを持続させるためには、企業がこのシフトの可能性をすぐに考察し、イノベーションに投資することが必要です。さもなければ、企業は巻き返しを迫られることになるでしょう。
企業は、世界中の人々に新しい生活様式へのインスピレーションを与えることに、注力する必要があります。マーケターは、マーケティングの構成要素をつくり直し、セクターのバリューチェーンとカーボンフットプリントを共有するエコシステムのパートナーを取り込まなければなりません。マーケターとブランドが、より大きなエコシステム、顧客と自社を結び付け、支持する役割を自認することで、彼らが舵を取るブランドは大きな影響力を持つ適切なイノベーション、つまり、私たち全員のためのサステナブルな未来を保証する一助となるイノベーションを推進できるのです。
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