気候変動による蚊媒介感染症の蔓延を食い止めるには
蚊媒介感染症は、世界的な脅威となっています Image: Syed Ali on Unsplash
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- 都市化と気候変動は、蚊が媒介する感染症の蔓延を助長しています。
- 現在、40億人がデング熱の危険にさらされており、今世紀末にはその数は倍増する可能性があります。
- 蚊媒介感染症を予防し、撲滅するためには、イノベーション、コラボレーション、公平なアクセスの提供が不可欠です。
50年来の警告にもかかわらず、地球温暖化による影響がますます顕著になり、環境の持続可能性は、各国政府、産業界のリーダーたち、そして一般の人々にとって最重要課題となりました。
干ばつや海面上昇、異常気象の影響拡大を軽減するための取り組みが行われていますが、地球温暖化の影響として見過ごせないのが、蚊が媒介する衰弱性疾患や致死性の疾患の蔓延です。しかし、その影響は過小評価されています。
デング熱、ジカ熱、ウエストナイル熱、チクングニア熱といった蚊媒介感染症は、最近まで、蚊の生息数が多い温暖な地域で主に発生していました。しかし、気温と海水面の上昇により、蚊の生息に適した場所が新たにつくられ、これらの感染症は地理的に拡大しています。蚊は、他の昆虫と同様に冷血動物であり、暖かい気候のもとで繁殖します。地球温暖化による気温や水温の上昇、降雨や洪水の増加により、蚊の繁殖に適した環境が増えつつあるのです。
例えば、デング熱の発生は、従来、中南米や東南アジアの一部に限られていましたが、50年前にはわずか9カ国でしか確認されていなかったものが、現在では125カ国以上で流行しています。蚊が媒介するこの病気により、推定で年間50万人が入院し、医療システムに大きな負担がかかっています。
地球温暖化がデング熱の流行の主な原因であることは間違いないでしょう。米国国立衛生研究所による2020年の調査は、地球の温度が1℃上がるごとに、デング熱の患者が35%増加すると結論付けています。実は、デング熱はすでにこの50年間で30倍にも増えているのです。
一方、小頭症をはじめとする脳や発育の障害を引き起こす蚊媒介感染症であるジカ熱は、50年前にはほとんどヒトに感染していませんでした。2016年に、南北アメリカで急速に広まって以来、ジカ熱は蔓延し続け、現在では86カ国で確認されています。
このままでは、今世紀末には、推定112億の世界人口のうち84億もの人がこれらの病気にかかる可能性があると予測されています。最も深刻な影響を受けるのは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)対策で医療システムに打撃を受けた国々です。国連開発計画の試算によると、開発途上国は、新型コロナウイルス感染拡大により少なくとも2,200億円の収入を失うことになります。健康面でも経済面でも、もうこれ以上失敗をすることは許されないのです。
新薬とワクチンが、人類のサステナブルな健康の鍵に
少なくともある程度の気温上昇は避けられないとすると、蚊媒介感染症の影響を軽減するためには、こうした傾向に対し総合的に対処する必要があります。そのためには、医療インフラの整備、社会習慣の変革、公平なアクセスの確保、蚊の繁殖を抑えるための新しいソリューションづくりといった適応策と、医療の新しいイノベーションが欠かせません。
これらの蚊媒介感染症は、現時点では、媒介虫を駆除する以外に予防方法があまりありません。しかし、ここ数十年の医療・バイオ医薬品業界の目覚しい進歩により、武田薬品のワクチン開発のように、新たな予防策に手が届くようになりました。科学技術の革新は、最終的に疾病による負担を軽減し、より多くの人々を守るための予防策に役立つ進歩をもたらします。
バイオ医薬品のイノベーションには、コラボレーションが不可欠
課題をすべて解決するには、一企業の努力では不十分であることは周知の事実です。また、研究開発段階であれ、医薬品やワクチンの提供であれ、科学の大きな飛躍は、企業の協力により、一層迅速し、成し遂げられることもまた事実です。
コラボレーションにより、医薬品やワクチンのイノベーションとアクセスを加速できることは、新型コロナウイルス感染拡大への世界的な対応を見れば明らかです。国際的なバイオ医薬品会社は、すでに研究開発や臨床試験などで協力しており、各国政府は今後もインセンティブを使ってそのような活動を奨励しなければなりません。
また、公的支援も重要で、各国政府、大学、NGO、そして営利目的のバイオ医薬品企業は、新しい治療法やワクチンの開発に大規模かつ継続的に投資する必要があるでしょう。
各国政府は、直接資金を提供するだけでなく、国際的なコラボレーションを促進し、短期的な国益よりも一丸となった取り組みを優先させることで、これらの努力を支援することができます。また、薬品の購入保証や臨床試験への資金提供など、他の手段を活用したり、弱い立場にある人々にリスク要因について教育し、ワクチン接種を奨励したりすることも可能です。
さらに、政府は、特に開発途上国において新たに発生する健康危機を、それが拡大する前に特定し、地域レベルでの臨床医療に投資して公衆衛生システムを強化することもできます。
ポストコロナの誘惑とチャンス
新型コロナウイルスの感染拡大が、主に集団ワクチン接種の成功により、少なくとも部分的には後退したため、政府は、新しいバイオ医薬品の研究への資金提供を控えたいという誘惑にかられるかもしれません。
しかし、これは間違いでしょう。新型コロナウイルスのパンデミックの縮小は、ワクチンが私たちの日々の健康に極めて重要な役割を担っていることを示しています。バイオ医薬品の研究とイノベーションに資金を提供し、それに報いることがなぜ重要なのかを実証してくれる好例と言えるでしょう。気候変動とパンデミックの増加との関連性が明らかになる中で、バイオ医薬品業界が新たな脅威を食い止めるためには、各国政府とNGOからの継続的な資金提供が不可欠なのです。
「サステナブル」という言葉を聞くと、温室効果ガスの排出削減を思い浮かぶでしょう。もちろん非常に重要なことですが、私たちがより長く、健康的に生活できるように、新たに出現する、あるいはすでに存在している脅威に適応するためのソリューションを提供することもサステナブルなことなのです。地球温暖化により、蚊媒介感染疾が新たな地域に広がることは避けられませんが、適切な支援があれば、バイオ医薬品産業は必ず、人類がこの緊急課題に持続的に備え、予防し、そして克服する上で主導的な役割を果たしてくれるでしょう。
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