スキルベースの組織で、責任あるAIを活用するための4つの柱
責任を持ってAIを活用することが、スキルの掘り起こしに役立ちます。 Image: Karolina Grabowska
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ダボス議題
- 世界ではスキルベースでの従業員評価が進んでおり、これに伴って評価支援にAIを利用する企業が増えています。
- そのため、責任を持ってAIが活用されることが非常に重要です。十分な監視が行われなければ、従業員に対するシステム上のバイアスが深まり、従業員の信頼が失われることになります。
- 責任を持ってAIを使用するための、4つの重要な柱となるポイントを組み込むことで、スキルベースの組織は透明性の高いアプローチを実践でき、従業員と雇用者にメリットをもたします。
「仕事」が急速に変化しているため、従来型の労働力モデルはこの変化に対応できていません。これが「スキルベースの組織」という新しい言葉を生み出しました。調査によると、現在、企業エグゼクティブの90%がスキルベースの組織づくりを試みています。
仕事からスキルへの移行は複雑です。この移行のためには、役割をスキルベースの細かなレベルまで解きほぐす必要があります。時間を要するこの作業は、人事システムや学習システムがしばらく更新されていない場合、データが欠落する可能性もあります。加えて、組織が持つスキルの数は、役割や仕事の数のおよそ2倍にもなります。
絶えず進化している何千人もの従業員が持つ多数のスキルを、マニュアル作業で追跡することが現実的ではないと認識した組織は、AI(人工知能)に目を向けました。これは正しい方向へ向かうステップであり、スキルベースの組織の可能性を確実に受け入れることができる唯一の方法です。ただし、慎重に進める必要があります。
人々の生計にAIが関わることになる場合、その生活に影響を及ぼすAIは、できるだけオープンで、透明性が高く、倫理的でなければなりません。AIがうまく機能しなかったという話は、残念ながらあまりにも頻繁に耳にします。アマゾンは、女性に対する偏見を理由に、AI採用モデルを取りやめざるを得ませんでした。ごく最近では、採用や選考のアルゴリズムが障がいのある人を差別しているという懸念も生じています。
責任を持ってAIを活用するための重要な柱
スキルベースの組織では、AIを適切に活用することが極めて重要です。それを怠ると、仕事からの移行に投じられた努力がすべて無駄になるでしょう。このアプローチは、責任を持ってAIを活用するための4つの重要な柱を基盤としています。
第一の柱:データソースを知ること
AIツールが有用なのは、扱うデータのソースが適切なものである場合に限られます。AIに与えるデータが正確でなければ、その結果も不正確なものになります。AIを組織的な規模で使用する場合、偏ったデータや不完全なデータを基にモデル化すると、偏見を大きく増幅させるおそれがあります。学習用のスキルデータをAIに与え始める前に、それができるだけ正確で標準的なものであるよう監査を行う必要があります。
最終的に、すべてのデータが客観的で公平なものになるとは限りません。例えば、テックウルフの調査では、男性従業員は、自分のスキルに対して過大評価した報告をする傾向がある一方、女性従業員は逆の傾向があることが明らかになりました。スキルデータを使用する際、背景にあるこうした要素を理解していないと、重要な人材を排除する仕組みとなってしまいます。これでは、スキルベースの組織の意義がすべて損なわれてしまいます。
データソースを評価する際に、組織は4つの特性を念頭に置く必要があります。
従業員のプライバシーを害さないよう、テックウルフでは侵害性のないデータソースの使用を義務付けています。電子メールやプライベートチャットなど、詮索とみなされかねないデータソースを使用することは避けなければなりません。メールやスラックのメッセージなど、使おうとしているデータソースに上司がアクセスしても大丈夫かどうか、自分自身に問いかけてみるといいでしょう。
第二の柱:AIの判断が説明可能であること
ロバート・ジョーンズ氏は、運転中に何の疑いもなくカーナビの指示に従い、崖から転落したことで人々に記憶されています。AIの助言に従って行動する場合、その結論に至った経緯を理解する必要があります。その理論を説明するアルゴリズムの信頼性が高いほど、バイアスがかかりにくくなります。
一定レベルの説明可能性を求めることを目的とした法律が多数存在するのも、このためです。EUでは、アルゴリズムが自動処理されたデータをもとに従業員を測定または評価する場合、一般データ保護規則により従業員に「説明を受ける権利」を与えています。欧州議会でも、AI規則の審議が進められており、米国では、国立標準技術研究所が説明可能なAIの4つの原則を公表しています。
第三の柱:従業員がデータを所有する
日々の仕事で、書類を作成し、プロジェクトを進め、コースを修了するごとに、従業員はデータを生成しています。生成されたデータと構築されたスキルが、組織を超えて持ち運べ、個人がキャリアアップのために利用できるようにするのが理想的です。これが叶わなくとも、スキルを自分のプロフィールに含めるかどうか、そして、AIがそれを利用できるかどうかについては、個人に最終的な決定権があるべきです。
これを実現するには、スキルを活用して従業員に関わる決定を下すメリットを強調し、このメリットを守ることが重要です。ある調査では、働く人の79%が目的次第では自分のスキルデータを雇用者が収集することに抵抗がないと答え、さらに14%がそうしたデータを公開してもよいと回答しています。これは、こうしたアプローチが有効であることを示しています。
第四の柱:用途とメリットを共有すること
従業員は、自分のスキルデータを雇用主と共有することに前向きですが、自分にとってのメリットが明確である場合に限ると考えている人が多いです。従業員は、より公平な雇用やニーズに合った就業体験、成長の機会が得られるのであれば、進んでデータを共有します。さらに、自分のデータがどこからどのように収集され、AIがそれをどのように使用しているかについても、従業員に知らせる必要があります。全従業員にこれらの要点を理解してもらうには、説明する側にAIに関してのアップスキリング(技能向上)が必要かもしれません。
スキルベースの組織を支える4つの柱
世界がスキルベースのアプローチに移行しつつある流れの中で、従業員に関する意思決定においてAIが果たす役割は大きくなっています。スキルベースの組織にAIが登場するのは、時間の問題です。4つの柱を組織のAI戦略に組み込み、適切な基盤を構築を急ぐ必要があるでしょう。タイミングを逸すると、すべてが水の泡になってしまいます。
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