Health and Healthcare Systems

健康先進国の日本が舵を取る、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの主流化

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現に向け、世界の国々は日本の医療システムから何を学べるでしょうか。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現に向け、世界の国々は日本の医療システムから何を学べるでしょうか。 Image: Unsplash/Annie Spratt

Naoko Kutty
Writer, Forum Agenda
Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
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日本

  • 国民皆保険制度をはじめとする日本の優れた医療システムは、世界の注目を集めています。
  • 経済的、社会的安定とグローバルな健康保障の基盤として、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の必要性が高まっています。
  • 優れたアプローチとして注目されているUHCの持続可能性を高めるためには、運用予算や人材の確保が課題です。

世界で最も健康寿命が長い国である日本は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を早期に実現した国として、世界から注目を集めています。その理由のひとつは、半世紀以上にわたり国民皆保険制度を維持し、日本に住む人が適切な保健医療サービスに負担可能な金額でアクセスできることです。日本の医療システムの特徴は、患者が自由に受診したい医療機関を選ぶことができるフリーアクセス制度が導入されていることで、日本全国どこでも統一された価格で医療サービスが提供されています。加えて、1973年に閣議決定された「1県1医大構想」により、全ての県に医科大学・医学部が設置されたことも、日本の質の高い保健医療サービスが支えられてきた一因と言えるでしょう。

日本政府が進める国際社会でのUHC主流化

こうした保険医療の歴史とシステムを有する日本は、2015年に「平和と健康のための基本方針」を発表し、自国の経験をもとに、国際社会でのUHC主流化のために必要な支援を強化していく姿勢を示しています。2016年に開催された、G7伊勢志摩サミット・G7神戸保健大臣会合では、日本はG7として初めて、首脳級の会談でUHCの推進を主要テーマに設定。アフリカ、アジア等でのUHCの確立を国際社会・国連機関と連携して支援することや、国際的議論において主導的な役割を果たしていくことを表明しました。

その後、2017年には、日本政府が、世界銀行、世界保健機構(WHO)、国連児童基金(UNICEF)と「UHCフォーラム2017」を共催。30カ国以上の政府のリーダーをはじめ、国際機関の代表や専門家が集まり、各国のUHC推進に向けた議論を行い、2030年までのUHC達成に向けた取り組みを加速させる旨が盛り込まれた「UHC東京宣言」が採択されました。

そして、今年5月には、新型コロナウイルス感染拡大への対応の経験を踏まえた「グローバルヘルス戦略」を策定。より強靭で公平、かつより持続可能なUHCの達成を日本の保健分野における国際協力の中心に位置づけたこの戦略では、グローバルヘルス・アーキテクチャーの構築や、パンデミックを含む未来の公衆衛生危機へ備えるための、保健システムの強化に向けた取り組みの指針が示されました。

UHC実現に向けた企業の貢献

日本の食品企業、味の素は、乳幼児の栄養改善プロジェクトを2009年からガーナで展開。JICAと共同で、乳幼児の栄養不足による死亡率を低減するために、栄養サプリメントの開発と普及を行っています。

また、株式会社リーバーは、病院へのアクセスが難しい地域に暮らす人々が、気軽に病院へ通えないという課題を解決するために、医療相談アプリを開発・提供しています。日本最大級の医師ネットワークを持つこのアプリは、医師相談の他に、体調管理としての機能も兼ね備えています。

仕組みの維持と運用が課題

優れたアプローチとして注目されているUHCですが、実現した後に、それをいかに維持・運用していくかが重要な課題となっています。UHCの持続可能性を高めるためには、運用予算の確保や、知識を持つ人材の育成が欠かせないでしょう。

UHC先行国である日本においても、近年の急速な高齢化の進展に伴う医療費の増加や、経済成長の鈍化による所得の伸び悩みなどにより、従来の国民皆保健制度は将来的に崩壊するリスクがあるとの見方が強まってきています。今後、日本の保健医療機能をさらに発展させていくためには、人口構造の変化に対応できる持続可能な医療システムの再構築が急がれます。この課題に取り組むために、厚生労働省は「保健医療2035」を立ち上げ、2035年までに達成すべきビジョンを掲げて、日本の保健医療のパラダイムシフトに向けた議論を進めています。

持続可能な社会の基盤に、急がれるUHCの実現

新型コロナウイルスの流行から間もなく3年。ウイルスは変異を続け、感染爆発と収束を幾度となく繰り返し、世界中の国と人々の経済に長期的な打撃を与えてきました。保健問題が経済・社会問題と密接に結びついていることを私たちが痛感したと同時に、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の目標3「健康と福祉」の重要性が改めて浮き彫りにもなりました。

13のターゲットで構成されているSDGsの目標の注目すべき点は、UHCの達成が、すべてのターゲットに関わり、目標全体の土台となるものとして掲げられていること。顕著化している世界の健康格差を是正するだけではなく、経済的、社会的安定とグローバルな健康保障の基盤としても、UHCの必要性が一層高まっているのです。

これまで先進国は、開発途上国における人々が適切な保健医療サービスへアクセスできるよう支援を拡大してきました。一方で、パンデミックにより、先進国の医療体制も崩壊の危機に追い込まれました。2023年、G7広島サミットが開催されます。またこれに伴い、5月には長崎で保健大臣会合が開かれます。同サミットの議長国を務める日本が、さまざまな危機を乗り越えて、各国が協力体制をどのように再構築するかの議論を主導することに期待が寄せられています。

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