サステナビリティ・プログラムを次のレベルへ、CEOが取り組むべき3つの方法
サステナビリティ・プログラムをより効果的に実施する方法とは Image: Getty Images/iStockphoto
- デジタルトランスフォーメーションとサステナビリティの関連性は、見落とされがちです。
- デジタル化は、環境に優しい経済と社会の実現を加速させます。
- 最高経営責任者(CEO)は、サステナビリティ・プログラムをより効果的なものにすることができます。
ポスト・グリーンウォッシュの時代に突入し、環境への深刻な影響に関して「話す」「測る」から「行動する」へと変化が求められています。そのため、多くの企業がサステナビリティ・プログラムの導入やパートナーシップの構築により、社会・環境課題に取り組んでいます。同時に、デジタルテクノロジーは、ソーシャルインパクトに対するフォースマルチプライヤーとして機能するまでに成熟しています。しかし、こうしたテクノロジーを活用し、企業がサステナビリティへの取り組みをより効果的に実施する機会は、往々にして見落とされています。
多くの経営者は、サステナビリティとテクノロジーを別々の優先事項として、さらには対立する目標として捉えています。しかし、実際はその逆で、デジタル化とサステナビリティが相互に作用し合うことで、環境に優しい経済と社会の実現に向けた素晴らしい機会が生まれるのです。
実際、サステナビリティトランスフォーメーションは、デジタル化の最大のユースケースとなる可能性を秘めています。同時に、デジタルトランスフォーメーションは、グローバルな経済社会のあらゆる側面を根本的に変えてしまうため、サステナビリティのパラダイムの解釈そのものを変えることになるでしょう。
デジタルテクノロジーが持続可能な開発目標(SDGs)の実現を推進
- サステナビリティの進捗を正確に把握するためのスマートデータ。デジタルテクノロジーを活用して、多様で異なるソースからデータを取得。それらを変換して一貫性のある分類を行い、高度な機能を駆使して分析することで、明確な基準設定とサステナビリティの進捗の測定が可能になります。日本の総合商社である丸紅は、IT・物流部門において、包括的なデータの取得、データクレンジング、整合のためのプロセスを確立し、概念の実証という形で、自社の環境フットプリントをすべて示す唯一の信頼できる情報源を構築しました。そこには、66か国にある310の子会社(12業種)におけるScope 1と2の排出量、エネルギー、水、廃棄物、有害物質などの情報が含まれています。
- ブロックチェーンがサーキュラリティ(循環性)を可能に。サーキュラー・エコノミーへの移行を実現するには、ループを結んで改善し、すべてのステークホルダーのためにループから価値を生み出すことが必要です。デジタルレベルでは、ループ内に存在するステークホルダーの間で、分散した様々なシステムや帳簿で製品情報を共有し、追跡することが必要です。インドのアルミニウムメーカーであるノベリス社は、生産時のスクラップや消費者から返却された材料をリサイクルすることで、原材料の消費量と二酸化炭素排出量を大幅に削減しています。スマートコントラクトはすべてのアクター間でサプライチェーン上の取引を可能にし、例えば、二酸化炭素排出量(t-CO2)について、材料組成に関する機密情報を共有することなく取引を行うことができます。これにより、製品の原産地や真正性に対する顧客の信頼を高め、規制の遵守を確実なものにしています。
- サプライチェーンモデリングのためのデジタルツイン。サプライチェーンにおけるリソースと製品の透明性およびトレーサビリティを確保するためには、エンドツーエンドのバリューチェーンネットワークのデジタル版である、デジタルツインが中心的な役割を担います。技術的には、AI(人工知能)がサポートする統合的な計画アプローチへの移行が必要です。このような「インサイドアウト」モデリングプロセスは、多くの場合、スコープ1および2の排出量、環境フットプリントから始まります。次のステップでは、デジタルツインによって、生産と輸送のプロセスを高いレベルで精査し、排出量の測定値を特定の製品のカーボンフットプリントに割り当てることができるようになります。このようなモデルを念頭に、日本のJFEスチールは、製鋼工程の一次データを用いて製品のカーボンフットプリントを追跡・管理するR&Dイニシアチブを確立。2030年の二酸化炭素排出量30%削減という目標を達成するため、低炭素化技術に総額72億ドルを投資する計画です。
- グリーン・コンピューティング。企業はテクノロジーの普及に伴って生じる、エネルギー需要の増加といった環境的な側面にも配慮する必要があります。環境への影響を抑える方法としては、グリーンデータセンター、グリーンクラウドテクノロジーサービス、テクノロジーコンポーネントの再利用などが挙げられます。3番目の点について、グーグルはデータセンターのシステムコンポーネントをライフサイクルの最後にリサイクルして再利用しています。デジタルツインと意思決定インテリジェンスにより、サプライネットワークに材料が戻る逆の流れを予測し、スケジュールを立てることが可能になります。グーグルの再利用率は約23%に達し、転売されるコンポーネントは大幅に増加しています。
次のレベルのサステナビリティ実現に向けて、CEOが取り組むべきこと
デジタル化は、責任を持って活用されることで、真のサステナビリティの実現を大きく加速することができます。日のサステナビリティ・プログラムをさらに効果的なものに変えるために必要となる、3つの方法を紹介します。
1. ビジネスモデルロジックの再考
サステナビリティを企業戦略や企業価値創造システムに組み込む上で、最高経営責任者(CEO)が影響力を持ち、中心的役割を担っていることは間違いありません。この点を踏まえると、会社のトップが「模範を示している」と答えた従業員がわずか33%であることは驚くべきことです。従業員は、単に姿勢を示すだけのリーダーを求めていないのです。役員室からサステナビリティを推進するには、コミットメントを行動に移すことが必要です。リーダーたちが変わらなければ、組織も変わることはできません。
最高経営責任者(CEO)の本来の役割は、会社のビジネスモデルを見直し、価値を創造、提供、獲得する新たな方法を見出すことです。しかし、多くの既存企業は、従来のビジネスモデルのロジックに頼っているのが現状です。まずは、サステナビリティにはコストがかかるという前提を覆す必要があります。「ビジネスをする、収益が上がる、コストがかかる、利益を出す、そして利益が出た後、その利益の中からどれだけ善いことに使うかを決める」という従来のロジックは、もはや十分ではありません。これはつまり、利益の一部を社会のために使うなら慈善活動をしていることになり、一方で、利益が順調に出ないと、そうしたことへの取り組みをしないということになります。
私たちは今、サステナビリティがビジネスにとって良い方法であるといえる段階まできています。そのため、利益をどのように使うかではなく、そこからどのように稼ぐかが重要なのです。このような、サステナビリティに焦点を当てたビジネスモデルは、ビジネスとサステナビリティの両方のインパクトを拡大させる機会をもたらします。統合的なデジタル・サステナビリティへの変革を求める企業の61%は、すでにこれらの新しいビジネスモデルから収益の10%以上を生み出しており、80%近くが3年後にはそのようになることを期待しています。
2. サステナビリティへのスマートな投資
私たちは、サステナビリティと技術革新を統合的にアプローチすることを提唱していますが、これは投資の観点からも有益です。企業はこれらを別々に優先させるよりも、むしろ戦略的に統合することで大きな相乗効果を発揮し、イノベーションへの投資に対して、金銭的にも非金銭的にも高いリターンを達成することができます。例えば、研究開発への投資の一定割合をサステナビリティとテクノロジーに一緒に割り当てることで、個別の最適化ではなく、統合的な最適化を実現することができます。一例として、フォルクスワーゲンはハイブリッド車の開発費として2020年に110億ユーロを当てています。
エンドツーエンドのバリューネットワークのデジタルツインがあるなら、スナップショットを取り、財務指標を適用し、戦略的オプションを評価することで、重要な投資の問題に対処するためのシナリオ分析を行うこともできます。例えば、新しいテクノロジーを踏まえて、どの時間枠でどの程度のCAPEX(資本的支出)投資が必要か。クリーンな輸送や生産プロセスの技術に投資した場合、営業費用のイメージはどのように変化するか。炭素市場の出現はこのイメージにどのような影響を与えるのか、また、どれくらいの炭素価格を想定するとよいのかといった課題の解決を促します。
デジタルによるオペレーティングモデルにより、最高経営責任者(CEO)は自らの意思決定が組織に及ぼす影響を予測し、情報と意思決定の権限を社内のより多くの部分にまで拡大することが可能となり、変革へのコミットメントを高めることができるようになります。
3. 水平につながり、協調しながら行動する
サステナビリティは単独で取り組むことができる課題ではありません。最高経営責任者(CEO)は、ビジネスによる社会的インパクトを創造し、テストし、拡大するために補完的な役割を果たすパートナーと共に、協調して取り組む必要があります。同時に、デジタル化は水平方向の現象として、産業における従来の垂直方向の境界を曖昧にしつつあります。
自動車、金属、鉱業は、持続可能なサプライチェーンの運営モデルへの移行において密接に関連しており、最終的なつながりは大規模な電気自動車生産です。自動車産業は2030年から2035年にかけてネットゼロという野心的な目標を掲げており、これを実現させるためには低炭素の部品や材料を調達する必要があります。
金属業界では、低炭素化あるいはゼロ炭素化のテクノロジーを活用して、鉄鋼やアルミニウムの生産・輸送プロセスを一新し、脱炭素化に向けて懸命に取り組んでいます。鉄鉱石やボーキサイトの供給者である鉱業界も、市場全体の使命に応えるために、同様に脱炭素化を進めなければなりません。
デジタル・プラットフォームは、企業や市場を超えて大規模に気候変動対策を実施するためのエコシステムを編成する、中心的な手段となっています。また、デジタルプロセスフローはセクターを超えた協力関係を可能にする重要な手段です。つまり、業界を超えたサステナブルな変化は、デジタルテクノロジーなしには不可能なのです。
今こそリーダーシップを重視する時
これらのイニシアチブを実行するには困難を伴いますが、すべてのステークホルダーにとって長期的な価値創造の機会を拡大させることに繋がるため、非常に有益なものとなるでしょう。今、地球規模課題の解決への貢献がますます求められていることを理解している最高経営責任者(CEO)は、これらのイニシアチブを取りやすい立場にあるといえます。
今こそリーダーシップの本質、つまり、より多くの夢を持ち、学び、行動し、コラボレーションを実現し、次世代のリーダーたちを育てることに焦点をあてる時です。そうすることにより生み出されるモメンタムは、サステナブルな未来へ向けて、私たちをより速く前進させてくれるでしょう。
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Naoko Tochibayashi and Mizuho Ota
2024年11月23日