クリーンで静かなマイクロモビリティ、その普及に必要なこととは
電動キックボードなどのマイクロモビリティには、自動車に比べて静かでクリーン、そして多くの場合より早く目的地まで移動できるというメリットがあります。 Image: REUTERS/Nick Carey
Nikolaus Lang
Managing Director and Senior Partner; Global Leader, Global Advantage Practice, Boston Consulting Group最新の情報をお届けします:
モビリティ
- 電動自転車や電動キックボードなどのマイクロモビリティは、静かでクリーン、そしてファーストマイルとラストマイルの問題を解決できる移動手段ですが、その普及は現時点ではいまひとつ進んでいません。
- 最近の調査によると、マイクロモビリティ利用者の55%が徒歩や公共交通機関の代わりにマイクロモビリティを利用していると回答。そのメリットが十分に活用されていないことが明らかになっています。
- 本当の意味での住みやすい街を目指すには、マイクロモビリティを競合するものではなく、公共交通システムの一部として機能させる必要があります。
電動自転車や電動キックボードなどのマイクロモビリティには、楽しみながらあちこちに移動できること以外にもさまざまなメリットがあります。
交通渋滞、排出ガス、騒音という街を悩ます問題を軽減する役割が期待できるほか、ファーストマイルとラストマイルという交通アクセス問題に対して非常に現実的な解決策になるのです。
そのマイクロモビリティを広く普及させるためには、その利用者と非利用者の状況について、さらにはその両者のニーズについて、理解をより深めていく必要があります。
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利用者の特徴と利用する理由
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)(Boston Consulting Group)とUniversity of St. Gallen(ザンクトガレン大学)は先ごろ、ヨーロッパ、中国、日本、米国の23の大都市圏に住む11,400人を対象に共同調査プロジェクトを実施。その結果、以下の事実が明らかになりました。
- マイクロモビリティ利用者の42%はレジャー活動に、39%は通勤・通学に、36%はその他の用事にマイクロモビリティを利用。
- 回答者の30%以上は少なくとも週に数回、自転車を利用。また、回答者の20%は月に数回、自転車を利用。
- 所得水準が高いほど、マイクロモビリティ利用率も高くなっている。
- 低所得者層では、総じてマイクロモビリティ利用率が低くなっている。マイクロモビリティを利用しているか否かの要因としては、コストや文化が挙げられ、また一部の都市圏では、単純に都心以外では利用できる環境が整備されていないことがマイクロモビリティを利用していない最大の理由となっている。
マイクロモビリティを利用する理由として上位に選ばれたのは、「フレキシブルに使える」「使い勝手が良い」「無理なく買える価格である」「暮らしている街の天候が安定している」「安全に利用できる環境が整備されている」「移動時間を短縮できる」でした。また、これらの理由はどれも、利用者からはほぼ同じくらい重要だと考えられています。フランスとドイツで圧倒的に多く選ばれたのは「使い勝手が良い」。スイスでは「フレキシブルに使える」が最も多く選ばれました。一方、米国では「暮らしている街の天候が安定している」と「安全に利用できる環境が整備されている」が最も多く選ばれています。
マイクロモビリティの利用を躊躇する最大の理由は、調査対象者の44%が回答した「暮らしている街の天候が悪い」。次に多かったのが「価格が高すぎる」で、36%が回答しました。以下「利用できる環境が十分に整備されていない」「貸出や返却ができるポートが少ない」と続いており、それぞれ対象者の35%と34%が回答しています。
マイクロモビリティの利用率を種類別にみると、都市部において圧倒的に利用率が高いのはやはり自転車でした。中国でも自転車の利用率は2番目に高く、電動バイクに次ぐ人気を誇っています。中国の都市部では、すべての種類のマイクロモビリティが他のどの国の都市部よりも頻繁に利用されています。フランスでは、電動キックボードの利用率がヨーロッパの中で最も高くなっています。いくつかの国では電動自転車の利用率が増加していることもわかりました。
マイクロモビリティへの代替がもたらす弊害
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は社会に大きな変化をもたらしましたが、そのひとつとして挙げられるのが個人の安全と健康の重要性を再認識したことです。その意味では、2年間に及ぶパンデミックがマイクロモビリティの利用増加を促したといえるでしょう。
パンデミック後の全体的な人の移動量は以前と比べて10%減少したままの状態ですが、燃料費の高騰や社会での環境意識の高まりから、マイクロモビリティは変わらず移動手段として魅力的な選択肢となっています。
ただし、それは必ずしも良いことではありません。代替の移動手段としてマイクロモビリティを選ぶことは、たとえ環境を意識した行動であっても実際には想定外の結果を招くこともあるのです。
自家用車の代わりとしてマイクロモビリティを「よくまたは非常によく利用する」と回答したのはマイクロモビリティ利用者の32%にとどまりました。一方、徒歩や公共交通機関の代わりとしてマイクロモビリティを利用すると回答したのはそれよりも多く、55%にのぼりました。これはすなわち、代替の交通手段としてのマイクロモビリティの効果はせいぜい「可もなく不可もなく」といったところであることを意味します。現状では徒歩と公共交通機関という環境に最も優しい2つの移動手段の代わりによく利用されているケースが多く、自家用車の代替手段として十分活用されているとはいえないのです。
電気を動力源とするマイクロモビリティでは、材料調達から製造、廃棄までのライフサイクルの全段階で排出ガスが発生します。また、その利用規模が拡大されていくと、従来とは異なる問題が生じ、従来とは異なる交通渋滞を招くおそれがあります。これに対して、公共交通機関の車両では、ライフサイクルの一部の段階でしか排出ガスが発生しません。しかも、その影響は製品寿命の長さと規模の効率性の高さのおかげで大部分が相殺されます。つまり、利用者が増えるほどより環境にやさしい車両になるのです。
マイクロモビリティを公共交通システムの一部に
結局のところ、交通渋滞の緩和と排出ガスの低減に最も効果的なのは、マイクロモビリティを他の公共交通機関と組み合わせる「インターモーダル」な戦略です。
1枚の乗車券で電車や地下鉄から電動キックボードまで利用できるシステムも、ファーストマイルとラストマイルという交通アクセス問題の解消につながります。さらに、予約のほかルートや利用可能状況のリアルタイム検索などが可能なデジタルプラットフォームも導入すれば、先述の調査で明らかになった、マイクロモビリティでの通勤を考えている人の割合が5人に1人という現状を改善できる可能性があります。
大部分の人にとって交通手段を選ぶ決め手となるのは、最終的には料金です。BCGとザンクトガレン大学は先述の調査の一環として、マイクロモビリティと他の公共交通機関を組み合わせた場合、どのくらいの料金であれば利用者に受け入れられるかを把握するために、2つの組み合わせオプションを提示してアンケート調査を実施しました。2つのオプションはそれぞれ異なる組み合わせ内容ですが、どちらもそれぞれの交通手段を別々に利用するよりも安くなるように料金を設定されています。
オプションのひとつは公共交通機関の1回券で、マイクロモビリティ10分間利用も含まれるもの。このオプションについては、現在の公共交通機関の運賃より25%高くても利用者に受け入れられると多くの回答者が考えていることが明らかになりました。もうひとつのオプションは公共交通機関の一ヶ月券で、複数の異なるマイクロモビリティも利用できるものです。このオプションについては、現在の公共交通機関の運賃より22%高くても利用者に受け入れられると多くの回答者が考えていることがわかりました。
先述の調査では、回答者のおよそ3分の1がすでに週に数回、自転車と公共交通機関を併用していることが明らかになりました。この点については中国が最も顕著で、73%が自転車と公共交通機関を組み合わせて利用していると回答しました。この割合が次に高かったのはフランスで、42%という結果が出ています。
マイクロモビリティと公共交通機関を組み合わせた利便性の高いシステムについて利用者に受け入れられると考えられる料金を調査した結果からは、マイクロモビリティへの需要があることがうかがえます。ただし、いくつかの条件は満たされなければなりません。専用レーンや車両の保管施設などのインフラを整備、サービス提供エリアを拡大すれば、マイクロモビリティの利用率は向上していくでしょう。サービスが魅力的であればあるほど、利用者は増えていくものです。そして経済が良好になればなるほど、行政もサービス提供者もサービス環境の改善を継続的に行いやすくなります。
天候の悪さはどうにもできませんが、マイクロモビリティをスマートに利用できる環境づくりのための手段はたくさんあります。何よりもまず必要なのは、マイクロモビリティを公共交通システムに組み入れること。それがマイクロモビリティを効果的に活用できるようにするための最善策です。そしてマイクロモビリティを効果的に活用できるようになれば、利用者だけでなくすべての住民がよりクリーンで静かで住みやすい街という恩恵を得られるのです。
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