データ、デジタル・プラットフォーム、そして連携によって、システミックレジリエンスを高めるには
豊富なデータとデジタル・プラットフォームは、重大なリスクに対する備えとレジリエンスを構築する上で不可欠な手段です。 Image: Pexels
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保険とアセットマネジメント
- 気候変動、ウクライナ情勢、新型コロナウイルス感染拡大から、システミックリスクに対し、世界全体がどのように協調して対応すべきかが明らかになりました。
- 豊かなデータとデジタル・プラットフォームは、重大なリスクに対する備えとレジリエンスを構築する上で不可欠な手段です。
- 各国政府と企業が協力して行動計画を策定して、次のシステミックリスクに備えなければなりません。
保険会社が「リスク」について語ると、きわめて抽象的な話に思えることが多いかもしれません。特にシステミックリスク、つまり経済全体を根本から混乱させるリスクについてはそう言えます。これまでの2年間、私たちはきわめて現実的かつ厳しい状況下でシステミックリスクを経験してきました。
最初のシステミックリスクは新型コロナウイルス感染拡大。公衆衛生への影響や世界経済全体に及ぼした損失のみならず、個人レベルでもさまざまな影響を及ぼし、多くの人々を今でも苦しめています。
世界全体が、現在も続くこの共通の経験を通して多くの教訓を得ました。人類が脆弱であることを再認識しただけでなく、前例のない共通の脅威に対し世界全体がどのように協力して取り組めるのか、という課題への認識も深められました。
次はウクライナでの戦争勃発。包摂的な多文化思考を持ち、さまざまな価値を重視する欧州で育った人々にとり、ウクライナ侵攻はまさにディストピアそのものです。
私は23年前にウクライナ人と結婚しましたが、ここ数週間、一夜にして生活が激変し心的外傷を負ってしまった戦争避難民を目の当たりにしてきました。私たちはウクライナにいる家族を引き取り、スイスの安全な場所へ避難させました。それでも、ウクライナに残らざるを得なかった人々に対する心配と不安に苛まれる毎日です。
私の母国であるスイスの整ったサポート体制や、友人や同僚からの多大なる共感が、どれだけの精神的な安心感をもたらしたか計り知れません。
三つ目は気候危機。日常的に起こる気候変動はもはや避けられないものになり、気候危機は大きくなる一方です。2021年には世界中で50以上の大洪水が発生し、経済的損失は総計800億ドル以上に上りました。残念ながら、洪水などの事象は世界人口のおよそ3分の1に影響を及ぼし、発生頻度が高まっているにもかかわらず、その破壊力への対応はほとんどできていません。
私は、社会的なレジリエンス(強靭性)を構築するために、(再)保険業界が果たせる役割と、(再)保険業界と他業界が専門的な能力をどのように協力活用できるかを常に考えています。(再)保険業界がどのように支援すれば、各国政府、企業、個人が最善を尽くし、重大な局面で効率と効果を確保できるようになるのでしょうか。私が今言えることは、大規模にデータを統合して、ホリスティック(全体論的)なリスクマネジメントサービスに投入する必要があるということです。
官民連携計画を再考する
持続可能な社会の実現に向けた要求が高まっています。保険業界は、このような社会の感覚の変化を踏まえて、各国政府と協力して将来のリスクに対する備えを確保しなければなりません。
政府関連のステークホルダーと共に私たちができることは、パブリックセクターのリスク管理能力を高め、リスクファイナンスの選択肢を広げ、リスクの適応格差解消への効果を劇的に高めるさまざまなアプローチを、新たな信念を持って検討することです。
実際、私たちはゼロからスタートするわけではありません。いくつかの先行事例があり、レジリエンスの構築途上であることを認識しながら、この3年間の教訓を受け入れていくことが必要です。
その行動計画とはどのようなものなのでしょうか。
レジリエンスを高める最初のステップは、システミックリスクを特定することです。しかし、新型コロナウイルス感染拡大から明らかになったように、特定だけでは不十分であることも認識しなければなりません。多くの先見的な欧米諸国は、数十年前にパンデミック(世界的大流行)の対応計画や枠組みを策定しましたが、新型コロナウイルス感染拡大による死者数は未だに減少していないのです。
それはなぜでしょうか。それは、リスクは特定されたものの、迅速かつ効果的に展開するためのリスク管理の枠組みの整備や、有意義な試用がこれまで実施されてこなかったからです。また、当面の手段では進化し続けるパンデミックには対応しきれず、巻き返しに数か月を費やしたことも一因です。
今日の時点で、ホリスティックなリスク管理の枠組みを有し、専任のリスク担当官や記録官を置き、対応力とリスク緩和策を改善し続けている国はごくわずかしかありません。これは早急に解消しなければならない構造的な格差です。昨今の世界情勢を見てもわかるように、システミックリスクは、国家や各国の代表者が、レジリエンスの構築を計画し、共同で取り組んで初めて克服できるものなのです。
そして、私たちはさらに統合し、適応性を高め、機敏に対応していかなければなりません。
備えと対応を強化させるデジタル・プラットフォーム
スイス・リー社は現在、各国政府と協力し、自然災害時に協調して緊急対応を行えるように、オーダーメイドのデジタル・プラットフォームを構築しています。住宅所有者を保護するための強制保険プールの整備や、保険会社が損失調整で支援することを約束している国もありますが、国と保険会社によるデジタル・プラットフォームの共同策定は、まったく新しいアプローチ。このようなデジタル・プラットフォームは、運営を開始し、有効に使えるようになれば、迅速、安全に情報を伝達でき、幅広いステークホルダーへの緊急対応を監視、円滑化できます。当然ですが、シナリオ分析と事前準備は、デジタル・プラットフォーム設計の要となります。
我々の連携は、物理的なリスクに対するレジリエンスにとどまる必要はなく、これらのプラットフォームは他のシステミックリスクにも取り組めるよう拡張可能です。重要なのは、最小経費で複数の方向へのスケーラビリティを可能とする適応性のある設計をして、資産と能力の中核となる部分から取り組み始めること。
リスクレジリエンスの所定の枠組みをすでに構築しているいくつかのパイロット国との共同作業が開始されましたが、私たちの願いは、より多くの国々がこのアプローチを利用して、構造的な格差を克服できるようにすることです。
スイス・リー社の目的は、リスク・インサイトやリスク移転のパートナーとして世界をさらにレジリエントにすることであり、現在、それはこれまで以上に現実味を帯びてきています。多くの人々が私たちの熱意に賛同し、行動を起こしてくれることを願っています。5月にスイス、ダボスで開催される世界経済フォーラムの年次総会は、パブリックセクターのパートナーとこのような対話を続けるための理想的な機会となるでしょう。
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