• グローバル経済の見通しによって、原油価格は大きく左右されます。
  • 原油価格は、需給の変化や地政学的な緊張によっても変動します。
  • 秩序あるエネルギー転換により、原油価格の高騰に備えることができます。

2020年の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)時には、ロックダウンにより石油の需要が急落し、経済活動の大幅な停滞によって原油価格が史上初めてマイナスとなりました。

しかしロックダウン終了後、力強い景気回復によって原油価格は1バレル100ドル近くまで急騰。経済の成長にともない、石油の需要も増加。さらにロシア・ウクライナ間や中東における地政学的緊張の高まりによって、供給不安が煽られ、インフレ率の引き上げや景気回復に対する懸念が引き起こされているのです。

イメージ: Bloomberg.

石油はGDPの約3%を占めており、世界で最も重要な商品の一つです。石油製品は個人用防護具からプラスチック、化学薬品、肥料、アスピリン、衣料品、輸送用燃料、さらにはソーラーパネルに至るまで、あらゆるものに含まれています。

石油における需要の価格弾力性は低いものの、サステナビリティに向かうグローバルな潮流によって、いずれは変化すると考えられます。しかし、エネルギー転換が急速に進む中、需給要因が原油価格、ひいては経済全体に与える影響について理解することは重要です。

原油価格を決定する主な要因と、それがグローバル経済、そしてエネルギー転換に与える影響について、世界経済フォーラムのEnergy, Materials, Infrastructure Platform(エネルギー、材料、インフラストラクチャプラットホーム)のManager Oil and Gas Industry(石油・ガス産業担当マネージャー)Maciej Kolaczkowski(マチェイ・コラコフスキ)が概説します。

原油価格の上昇

現在、原油価格は1バレル100ドル近い水準にあります。何がこの価格高騰の原因でしょうか。そして原油価格はなぜこれほどまでに不安定なのでしょうか。

コラコフスキ:水晶玉で占うように、未来のことが分かる人はどこにもいません。明日になれば、原油価格は今日と真逆の動きをすることもあります。原油市場で不変なのは、価格は常に変化し、変動するという点のみ。しかし、その根底には重要な理由が3つあると言えます。

1. 好調な経済成長が石油需要を牽引

2年前、新型コロナウイルス感染拡大が始まった頃は、経済活動も石油の需要も落ち込んでいました。石油生産者は生産量を調整していましたが、石油埋蔵量や資本の調整以外にできることには限度があり、備蓄量も限られています。さらに、経済危機がどの程度深刻化し、いつまで続くのかという不安もありました。これらの複合的な要因によって、原油価格は過去数十年間で最も低い水準まで下落し、一時はマイナス40ドルまで急落しました。

このような困難な時期は数カ月間続きましたが、その後経済は驚異的な回復を見せ、原油と石油製品の需要は拡大しました。現時点での石油需要はパンデミック以前の水準に戻ったか、それを以上と推定されており、過去最高になっています。ここで注意しなければならないのが、二酸化炭素排出量も同じように増加しているという事実です。パンデミックが始まった頃は、二酸化炭素排出量も減少するのではという期待も大きかったように記憶していますし、実際、二酸化炭素排出量は2020年に数%減少しました。しかし、減少は長くは続かず、現在では二酸化炭素排出量はパンデミック前よりも増加していると推定されています。

2. 長期投資サイクルと慎重な資本配分による原油供給の制限

石油の供給は需要増に対応しきれていません。石油輸出国機構(OPEC)は原油生産を徐々に拡大していますが、余剰生産能力も限られている上、市場が再び供給過剰にならないようにするため、慎重に対応しているとみられます。余剰生産能力以外の要因としては、原油生産は投資サイクルが非常に長いということがあります。資源が確認された時点から最初の生産までに最大10年かかることもあるのです。一部の非在来型資源ではもっと早く生産できることもありますが、規模は限定的です。

さらに、生産者は例外なく資本配分に慎重です。第一に、原油価格がマイナス40ドルにまで下落した時に市場が供給過剰になり、これが教訓となっているのです。第二に、こちらの方が重要だと思われますが、新規油田は開発しないこと、生産を維持・拡大するための投資は抑制・減少させること、そしてその資金をグリーン投資に振り向けること、という強い圧力が業界にかかっていることです。

3. 地政学的な緊張

ロシア・ウクライナ間の地政学的緊張や中東の不安定な情勢によって、原油市場の緊張感はさらに高まっています。

インフレのコスト

原油価格の上昇はインフレにどのような影響を与え、それがグローバル経済にどのような影響を与えるのでしょうか。

石油は世界のGDPの3%を占めています。ですから、世界GDPの3%が一日で倍の価格になるようなことがあれば、確実にインフレに影響を与えます。しかし私は、インフレを推進する主要因は石油ではなく、実際に引き起こしているのは金融緩和政策であると考えています。

その意味で、原油価格はインフレの最大の要因ではないですが、重要な要因ではあります。それは、石油は基本的にあらゆるものに含まれているため、全体量に関係なく、あらゆるものの価格に影響を及ぼすからです。原油価格の上昇は、ガソリン価格上昇以外にも、私たちが利用するほとんどすべての財とサービスに反映されることになります。石油は原料であり、エネルギー源であり、そして多くの物品の輸送に使用されているのですから。

消費者にとっての真のコスト

多くの人は、車を給油する時に支払う金額といった観点からインフレを考えがちですが、原油価格について一般的に理解されにくい点、つまりガソリン給油のその先にある真のコストとはどのようなものなのでしょうか。

エネルギー源としての石油について言えば、住んでいる場所にもよりますが、消費者がガソリンスタンドで支払う金額の50~60%が税金です。私たちは原油価格の変動に注目しがちで、これも重要ではありますが、ガソリン価格1リットル当たり1.50ユーロに対して、70~80セントが税金として政府に支払われているということは、重大な事実であるにも関わらずあまり知られていません。EUなどの石油輸入国は原油に課税することで、産油国が石油輸出で得るよりも多くの収入を得ているのです。

ガソリン価格1リットル当たり1.50ユーロに対して、(国民は)70~80セントを税金として政府に支払っているのです。

—マチェイ・コラコフスキ

石油輸入国・輸出国への影響

原油価格の変動は、石油輸入国と石油輸出国の双方にどのような影響を与えるのでしょうか。

原油価格の高騰は、輸入国にとっては問題となり、同時に輸出国にとっては有利に働くので、まさにゼロサムゲームです。価格が変動すれば、得をするのは産油国になったり、消費国になったりします。

秩序あるエネルギー転換

環境に優しい代替エネルギーを求める声の高まりにより、原油価格が高騰すると、再生可能エネルギー市場が生まれるのでしょうか。

原油価格の高騰は、電気自動車(EV)や水素といった潜在的な代替モビリティ手段の経済性を向上させますが、再生可能エネルギーに直接的な影響を与えるとは限りません。再生可能エネルギーは、直接的に石油を代替するものではないからです。当然ながら、EVを購入する人は再生可能エネルギーを利用したいから購入したと考えられ、購入が再生可能エネルギーの需要を促進するという面はあります。しかし、現実の世界はそれほど単純ではありません。

他方で、2014年以降の市場で見られたような低水準の原油価格は、EVをはじめとするサステナブルなモビリティの競争力にマイナスの影響を与えたと考えられます。そのためか、EVなどのソリューションが想定されたほど早く拡大しませんでした。また単純に、原油は何年も前から低価格だったのです。

今後の見通し

現在の原油価格の高騰は一時的なものでしょうか。それとももっと永続的な変化の現れなのでしょうか。その場合、グローバル経済にはどのような影響があるのでしょうか。

原油価格の変動は長期にわたると私は予想しています。価格水準や変化の方向性を予測することは非常に困難です。

いずれにせよ、原油価格は100ドル以上の水準で推移する可能性があると思いますが、長くは続かないでしょう。ましてや永遠に続くとは考えられません。なぜなら、中期的には供給が需要増に追いつくはずであり、その間にうまくいけば、地政学的な緊張が緩和されるからです。長い目で見れば、どこかの時点で需要が頭打ちになり、減少に転じるのではないでしょうか。ですから、原油価格が今以上に上がることはないでしょう。不確実性が最も高いのは、いつそれが起きるかという点です。専門家の間でも意見が大きく分かれており、ピークが数年後という人もいれば、数十年後という人もいます。

エネルギー転換は、需要側の変化と供給側の調整を協調して行っていかなければなりません。そうでなければ、一時的な原油価格高騰を招く可能性が非常に高くなります。

—マチェイ・コラコフスキ

そうは言っても、価格が一時的に高騰し、今よりも高い150~200ドル程度の水準まで上昇するリスクはあると思います。エネルギー転換は、需要側の変化と供給側の調整を協調して行っていかなければなりません。そうでなければ、一時的な原油価格高騰を招く可能性が非常に高くなります。需要を調整せずに供給抑制を強行すると構造的な不均衡が生じ、原油生産の投資サイクルが非常に長いことを考えれば、対応は非常に難しくなります。

エネルギー転換が進む中、原油生産に新たな投資をすべきではないという圧力が高まっていますが、石油の供給も必要であることを理解することが必要です。エネルギー転換に関しては、今から2050年までの期間でこのバランスをとっていかなければならなりません。この時、機会が損なわれないようにするためには、消費者、個人、産業それぞれの需要が共に主導する形でエネルギー転換を行っていくことが大切です。これは「ビッグオイル(大手石油会社)」のみならず、私たち一人ひとりの課題でもあります。うまくいかなければ、私たちの将来は不安定になるリスクがかなり高くなるでしょう。