Financial and Monetary Systems

2022年の視点:経済・政治・外交に潜む3匹の虎、その牙に「ご用心」

2022年は虎の年である。そこで虎になぞらえて、表面的には目立たない3つのリスクについて考えてみたい。 Image: pixabay

Hideo Kumano
Chief Economist, Economic Research Department, Dai-ichi Life Research Institute
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2022年は虎の年である。そこで虎になぞらえて、表面的には目立たない3つのリスクについて考えてみたい。

インフレリスクという虎

1匹目の虎は、世界的なインフレリスクである。2021年は、長くジャングルに隠れていたインフレリスクという虎が、久方ぶりに村里に姿を現して人々を震撼させた。

原因は、村里に食料が多過ぎること(超金融緩和)と、コロナ禍で森の中に食料が少なくなったこと(サプライチェーン不全による供給不足)の両面がある。2022年は、インフレ・リスクが一段と強まって、米連邦準備理事会(FRB)が6月、9月、12月と年3回の利上げを実施する見通しが、さらに前倒しされるという「まさか」が起こる可能性がある。虎が暴れるというリスクシナリオだ。

筆者は、FRBの利上げが為替レートをドル高・円安に向かわせるという流れを基本シナリオに据えている。だが、インフレリスクが高まって利上げ観測に「まさか」が織り込まれるときは、利上げが経済に与えるショックからドル安・円高に振れる可能性もあるとみる。インフレリスクが2022年の為替レート予想の変化を大きく振れやすいものにするだろう。これも潜在的リスクである。

2021年11月末から浮上してきたオミクロン株の影響は、インフレリスクを助長すると考えている。仮に、日本国内でその打撃が小さくとも、製造業が部品を調達している東南アジアで感染拡大が再燃すれば、サプライチェーンの不全が長期化する。消費者物価とは違って、企業物価にはインフレ傾向が強く表われている。今後、原油価格上昇の勢いが一服したとしても、川中・川下分野での値上げは継続していく可能性が高いとみられる。

岸田政権にとっての虎

2022年にはバイデン大統領に中間選挙、習近平国家主席には5年に1度の党大会が控えている。そうした大イベントを前に、米中対立が年前半にかけて激化することは必至である。これは「龍虎対決」になぞらえられる。日本でも、岸田文雄首相には7月の参院選が控え、経済成長を演出することで、この関門を乗り切ろうとするだろう。

安倍晋三政権の時から、経済分野に弱い野党に勝利するため「経済に強い政権」を打ち出すことが勝つための「虎の巻」だと伝えられてきた。先の衆院選でも野党は、給付金のばらまきを主軸に据えて勝てると思ったようだが、それで消費が活性化される訳ではない。

岸田政権は分配戦略を掲げて、2022年春闘での賃上げの成果を大きな「得点」とすることで、参院選を勝利しようと意欲を燃やす。

ところが、その機軸となる賃上げ促進税制だけでは限界がありそうに見える。岸田首相は、3%を超える賃上げを唱えるが、そこまでには届きそうもない。すると、岸田政権の求心力は低下してしまう。消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)は、2021年11月に前年比プラス0.5%まで上がり、2022年4月は通信費の押し下げ要因がなくなって、前年比1%以上に高まっていくと予想される。実質賃金がマイナスの伸びになることは印象が悪い。

岸田政権は、7月の参院選を勝利してやっと政治的な自由度を得られる。いわば、「虎口を脱する」ことができるのである。

そのハードルを越えられないと、2代続けての短命政権になってしまうリスクがある。岸田政権が2022年春に賃上げに成功できるかどうか、と言ったところに2匹目の虎が待ち構えていると筆者は考える。

虎視眈々と狙われる台湾

3番目のリスクは、台湾問題である。中国が秋に党大会を控えて、1つの中国の実現を求めて動く可能性が高まる。万一、軍事侵攻ともなれば、株価・為替は激震する。これは、生起確率は極めて低いが、それが起きたときの打撃は図り知れないことになる。

そこには、習近平政権の政治的悲願がある。それは3期目の国家主席となるに当たって、大きな業績を得たいという思惑である。

もう1つ、米国が中国の経済的台頭にくさびを打ち込むべく仕掛けた半導体戦争が、裏側にある動機として指摘される。

中国の通信業界に対する締め付けは、トランプ前米大統領が国防権限法を盾にして、半導体製造装置の利用を制限することで実行された。設計は、中国企業であっても、製造はファウンドリーと呼ばれる台湾大手が担っている。台湾大手の製造技術は、世界中のどの企業も真似ができない。

ファウンドリーが、米国からの半導体製造装置を使用できなくなると、中国向けの製品供給も停止する。そうなってしまうと、中国企業は手も足も出せない。台湾侵攻の動機は、この半導体包囲網を破るための奇策という見方も出ている(「2030半導体の地政学」、著者・太田泰彦氏を参照)。

中国は、虎視眈々と台湾を狙っており、今は影を潜めている「中国製造2025」で打ち出した経済覇権の実現を願っていると考えられる。その実行は、まさに(米国の)「虎の尾」を踏む行為であるだけにそう簡単ではないと考えられる。

2022年のシナリオ

目先、新型コロナウイルス・オミクロン株の不安は大きいが、日本経済はその障害を越えて、2022年は経済再開へとかじを切っていくだろう。これが大方の人が描いているメイン・シナリオだと考えられる。政府の経済見通しも、2022年度に3.2%の実質成長を見込んでいる。それほど民間予想とかけ離れているとは思わない。

その平面的なシナリオが、実際はいくつかのリスクに直面して起伏に富んだものになっていくだろう。

まずは、海外からのインフレリスクによって国内物価も予想外に上昇することがある。株価・為替もFRBの政策見直しによって大きく動かされるだろう。

次に、岸田政権の賃上げがいくらか経済再開にポジティブな効果をもたらすが、目標の3%超には手が届かないと予想される。参院選の予想も流動的になっていく。過去2度の「寅年参院選」は、いずれも与党が敗北しているというジンクスもある。

もしも、2022年度の税収が上振れすれば、岸田政権は再び補正予算をつくって、景気刺激を打つという選択もあるかもしれない。苦しくなったときは、財政出動で景気に対する期待感を持ち上げるという手である。しかし、それでは建て直しが難しいだろう。政治の混迷は続く。

対外的な波乱は、台湾をめぐって米中対立が深まることだ。秋の中国共産党大会、米中間選挙を前にして、米中の対決姿勢が強まる。台湾への軍事侵攻は、メイン・シナリオではないが、2022年はもっと具体的に話題になるだろう。

このように単なる経済再開ではなく、マーケット、政治、外交の各分野でストレスが強くなるなるという見方である。3匹の虎は、それぞれの分野に潜んでいるリスクを指す。そのリスクを加味して考えることで、これからの1年間をより見通しやすくなると筆者は思っている。

*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。

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