社会の一致協力により、長期的なグローバルリスクに立ち向かうために
イタリアでの新型コロナウィルスのワクチン接種義務化に対する抗議活動に見られるように、社会的分断は、短期的な最大のグローバルリスクの一つと考えられています。 Image: Reuters/Massimo Pinca
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グローバルリスク
- 540万人を超える死者を出している新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)の中、世界中の人々が苦しんでいます。
- 社会的結束の低下や生活の危機に加えて、環境問題が長期的なリスクの大半を占めています。
- 「グローバルリスク報告書2022年版」はこちら
新型コロナウイルスのパンデミックから3年目を迎えた今も、人々の苦しみは続いています。
新型コロナウイルス感染拡大による死者数は世界中で540万人に達し、うつ病患者は5,300万人増加しました。先進国では「大量退職時代」を迎えたにもかかわらず、世界の雇用率はパンデミック前を下回っています。また、異常気象は、世界各地の事業運営や労働環境、生活水準に影響を与え、雇用危機をさらに助長しています。
健康と福祉の問題は、富める者にも貧しい者にも同じように、社会に重くのしかかっています。世界経済フォーラムが約1,000人の専門家、政策立案者、産業界のリーダーたちの意見を基に作成した「グローバルリスク報告書2022年版」では、今日の世界における短期的リスクとして、環境への甚大な影響、社会の分断、健康問題が上位に挙げられています。
このようなグローバルな脅威は、各国において不安を増幅させています。本報告書では、新型コロナウイルス感染拡大によって最も悪化したリスクは、社会の結束力の低下であるとしています。2024年までにグローバル・リカバリーが加速すると考える専門家は11%にすぎず、84%は今後の世界情勢について懸念や不安を抱いています。実際、国内紛争は増大しています。ワクチン接種や新型コロナウイルス感染症関連の規制に対する見解の違いにより社会的な圧力が高まっており、政府のパンデミック対策に抗議し、暴動が発生している国もあります。
長期的なグローバルリスクの見通しは、環境問題が最重要課題
一方、専門家が明確にしているのは、気候と自然の危機への対処という、最も差し迫った長期的な課題です。長期的リスクとして、環境問題が大きな割合を占めており、今後10年間で、気候変動、異常気象、自然破壊が最も深刻な三大リスクになるとみられています。
短期的な国内圧力に加え、蔓延する幻滅と不信感により、気候危機に対する行動がよりいっそう困難になっています。社会、政治、経済面での現状を考えると、今後社会はさらに分断する可能性があり、、それによって多くの労働者が失業し、社会格差が広がり、脱炭素化への取り組みが無駄になる危険性があります。一方で、地球温暖化に関する最も楽観的なシナリオでは、産業革命前からの気温上昇は1.8℃になると予測されているのです。
多くの差し迫った問題にとらわれて、各国政府が長期的な課題に向けるべき注意と政治的資本が低下することも考えられます。国益を優先する姿勢は、世界経済の混乱を悪化させ、紛争解決、難民保護、人道上の緊急事態に必要な海外支援や協力に影響を及ぼす危険性があります。
将来への展望がないまま新型コロナウイルス感染拡大への対応を行うことで、長期的リスクを悪化させるおそれもあります。世界人口の5分の1が暮らす52の最貧国では、ワクチン接種率はわずか6%にすぎません。ワクチン接種の格差は、速いペースで経済が回復している国がある一方で、多くの国が立ち直れずに苦悩していることを示しています。
パンデミックによって促進された、新しいデジタルプラクティスやデジタルテクノロジーの導入により、インターネットやデジタル機器へのアクセスが少なかった労働者や国が、パンデミック前の経済状態に取り残されないために、情報セキュリティよりデジタル機器へのアクセスを優先せざるをえない状況に追い込まれています。2020年の情報セキュリティ脅威では、ランサムウェア攻撃だけでも435%増加しており、世界にはWeb3.0やメタバースに急速に移行する国や地域もありますが、情報セキュリティ分野での脆弱性の危機は高まる一方です。
それでも未来には、先進国も開発途上国も等しくレジリエンス(強靭力)を構築し、そうすることで国民の信頼を回復させる機会があります。
政府はレジリエンスを高め、国民の信頼を回復することが必要
レジリエンスの構築は、国内から始めます。未来の難局に立ち向かう代償を納税者だけ、または、企業だけに負わせないように、各国政府はリスクとリターンのバランスを見直す必要があります。重要なシステムへの迅速な対応や継続を確保するためにデータ共有契約を締結し、危機の際に柔軟に行動できるように規制を整備することが必要なのです。
同時に、新型コロナウイルス感染拡大の脅威により、グローバルな課題にはグローバルな解決策が必要であることも改めて示されました。そのためには強力な多国間ガバナンスと、より効果的なグローバルリスクの緩和が不可欠です。気候変動対策については、特に開発途上国にとっては雇用と暮らしの回復が急務であるため、短期的な国内圧力と、長期的な地球規模の目標のバランスをとることは難しくなります。そのため、先進国と開発途上国が互いに緊密に協力し合い、「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議」(COP26)で表明された財政、技術面での協力体制を活用していかなければなりません。
新型コロナウイルス感染拡大のパンデミックから、私たちの経済や社会がいかに脆弱であるかが明らかになりました。世界のリーダーたちは高まる脅威に対抗するため、今こそ力を合わせ、今後に向けて息の長い解決策を検討しなければならないのです。
*本記事は、Timeの記事の和訳を転載したものです。
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