気候変動対策

デジタル・トレーサビリティにより、産業界の二酸化炭素排出量を削減する方法とは

トレーサビリティは、産業界の二酸化炭素排出量は、調達、生産、物流、オペレーションの各段階で削減することに役立ちます。 Image: REUTERS/Charles Platiau

Barbara Frei
Executive Vice-President and Chief Executive Officer, Industrial Automation, Schneider Electric
Francisco Betti
Head, Global Industries Team; Member of the Executive Committee, World Economic Forum
  • 産業界から間接的に排出される温室効果ガスの脱炭素化は、大きな課題となっています。
  • デジタル技術を使った追跡により、原材料や商品を効果的に、確実に、そして責任を持って排出量を削減できる可能性があります。
  • 企業が、エンドツーエンドのトレーサビリティによってもたらされる競争優位性の恩恵を得るためには、炭素排出量の情報は詳細かつ容易に開示されるものでなければなりません。

気候科学者や市民社会は行動を起こすよう繰り返し訴えていますが、日々報告されるデータを見ても、現在の公約では気候危機を食い止めるのに十分ではありません。産業界は苦境にあり、気温上昇を1.5℃に抑えてCOP26で設定された最新目標を達成するためには、企業は今すぐ行動を起こす必要があるのです。

クリーンエネルギーへの転換や資源効率化は温室効果ガスの直接排出量削減につながりますが、産業界からの間接排出量の脱炭素化は、依然として大きな課題となっています。

電動装置・機器を製造する企業にとっての間接排出量とは、入荷した原材料や部品の輸送、そして完成品を顧客に配送する際に発生するものです。原材料や商品を効果的に、確実に責任を持って追跡することによって、工程や在庫、配送を改善し、二酸化炭素排出量の削減をスピードアップすることができるのです。

企業や消費者が、QRコードやRFIDタグをスワイプするだけで、製品固有のデジタルIDを含む暗号化されたデータにアクセスできることを想像してみてください。このデータは、製品(およびその部品)の原産地、環境・カーボンフットプリントのデータ、生物多様性への影響を認証するデータにもなります。また従属部品のサプライヤーや出荷日時、さらには製造時にシフトに入っていた従業員の情報など、製品が中間段階でどのように流通したかを記録することもできます。

世界中の企業はどの部門においても、トレーサビリティを優先すべき業務能力として位置付けています。150人以上のサプライチェーンのシニアリーダーたちを対象に、ベイン社が最近実施した調査「Global State of Traceability(世界のトレーサビリティの現状)」では、インタビューを受けた経営者の68%が、トレーサビリティを「非常にまたは極めて重要」と考えていることがわかりました。

つまり、手動制御の追跡システムは、安全なエンドツーエンドの接続とデジタルアバターに置き換えられていく転換期にあるのです。モノがどこにあるかという単純な可視性と透明性をはるかに超えた世界へ、私たちは急速に移行しつつあります。

信頼される持続可能性はトレーサビリティから

トレーサビリティは、産業界における二酸化炭素排出量削減に向けて調達、生産、物流、運用、製品のライフサイクルに関わる3つの課題に対処し、透明性とアカウンタビリティを高めることができますが、以下の3領域については企業間の話し合いと調整が必要となります。

1. 二酸化炭素排出量の情報は、詳細かつ容易に開示できるものでなければなりません。鉄鋼からプラスチックまで、あらゆる分野の企業がネットゼロを目標に掲げていますが、その進捗状況を把握する方法は標準化されていません。原材料の生産、製造工程、利用が全体的なカーボンフットプリントに与える影響を示すには、製品のライフサイクルにおける排出量の測定が最も重要な方法です。

倫理的・持続的な説明責任を企業に課す目的で、拘束力のあるメカニズムが導入される中、環境への影響を定量化するにはこのようなライフサイクルのトレーサビリティが不可欠となっています。トレーサビリティとは、原材料がどこで採取され、どこでどのように組み立てられ、輸送・流通されるのか、またどのように製品が廃棄され、リサイクルされ、破棄されるのか、さらにどこかの段階で児童労働や強制労働が関与していないかを明らかにすることです。

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同様に、サーキュラリティ(循環性)への取り組みや、最近提案された国境炭素税、グリーン調達の義務化によって、サステナブルな金属やプラスチックが主流となり、デジタル・タグやグリーン情報のスキームが、持続可能性における実績開示を後押しするためのインセンティブとなる可能性もあります。変更不可能なデータや製品認証を保護・共有する技術が製品の陳腐化を防ぎ、売れ残り製品の無駄な廃棄や使い捨てアイテムの使用を削減、そしてその代わりに再利用、再製造、リサイクルを促進するかもしれません。

2. エンドツーエンドのトレーサビリティ技術はまた、製造・生産システム全体の信頼性をデジタルで強化することにより、産業のレジリエンス(強靭性)を高めることも期待されています。このような技術によって生産エラーの根本原因を突き止め、高品質な製品を安全に調達・生産・出荷する方法を確立することができます。企業は現在の状態のままデータの機密性を維持し、サプライヤー情報や知的財産の開示を監視することができます。

How digital traceability can work
デジタル・トレーサビリティの仕組み Image: Schneider Electric/Global Supply Chain Vision

3. エンドツーエンドのトレーサビリティは、新たな競争優位性をもたらします。カーボンフットプリント情報を産業部門間でベンチマークすることで、より早く排出量を削減し、サステナブルな製造コストや原材料コストを管理することができます。

「必要な時のみ」データにアクセスすることは、意思決定者への情報共有、透明性の高い形での連携、消費者との信頼関係構築を可能にします。例えば、製品のリコールや品質、偽造品、適合性に関する問題が発生した場合、特定の情報へのアクセスが必要になることから、安全でサステナブル、そして環境に配慮した透明性の高いオペレーションを遵守することができるのです。このような情報へのアクセスを簡素化することは、ESGコンプライアンスに不可欠であり、また持続可能性をアピールするブランドに対する消費者の信頼を高めることにもつながります。

ハイパーコネクティビティと豊富なデータが溢れる時代。データを選択的かつ安全に収集・分析し、産業プロセスやバリューチェーン全体でデジタル・トレーサビリティを全面的に活用する企業には多くのメリットがあります。生産性、業績、柔軟性の向上という利点はもちろんですが、同時に産業界の脱炭素化のスピードアップにもつながります。

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