自然と生物多様性

気候変動と自然破壊への対策が、相互に関連すべき理由

We can't forget about nature.

私たちにとってなくてはならない自然 Image: Jeremy Zero/Unsplash

Marie Quinney
Lead, Impact Measurement and Management - Nature Action Agenda, World Economic Forum Geneva
  • 最新の報告書では、気候変動対策の一環として、自然の消失に対処する重要性が示されています。
  • 本報告書は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)が発行したものです。
  • 未来を切り開くのは「自然に基づく解決策」です。

自然の消失と気候変動という2つの危機は、切っても切れない関係にあります。しかし、国連の生物の多様性に関する条約気候変動枠組条約という国際的な枠組みの中でも、生物多様性の損失と気候変動は、長い間別々の問題として議論・対処されてきました。しかし今、私たちは重要な転機を迎えています。

今回、50名の気候および生物多様性の専門家から成る共同ワークショップの成果として、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)という、それぞれの地球規模課題に取り組む2つの政府間科学機関が初めて共同で報告書を発行しました。報告書が示していることは、これらの危機の解決に双方の問題への取り組みが不可欠だということです。

自然の消失への対処が重要な理由

農業や鉱業といった人間の活動は、土壌、大気、野生生物に直接的な影響を与え、その影響は気候変動や生物多様性の減少を招きます。これらの危機は相互に影響を及ぼし合い、悪化していくのです。

例えば、気候変動による気温や雨量の変化は、生き物の生息地の減少や、栄養源となるエコシステムのバランスの悪化を引き起こします。そして、生物多様性が失われれば、自然の炭素貯蔵能力が低下し、気候変動が悪化します。これらは並存する環境問題であり、人間のウェルビーイング(幸福)や暮らし、そして、公衆衛生や食料安全保障にまで関わる、深刻な影響をもたらします。

気候変動と生物多様性の損失を別々に対処し続けていく限り、問題の好転は望めません。例えば、外来種の木々を植樹して炭素を蓄える力を強化させるという手っ取り早い方法は、生物多様性および生態系サービスを根絶させてしまうリスクを孕んだモノカルチャーのプランテーション(単一作物を大量に栽培する大規模農園やその手法)を促進することになり、結果として暮らしや健康に甚大な影響をおよぼす可能性もあります。

Image: World Economic Forum New Nature Economy

解決策は?

良いニュースは、このようなトレードオフを回避する解決策が存在するということです。気候変動と生物多様性の減少を食い止めるには、排出量削減の取り組みと、「自然に基づく解決策(NbS)」のような、自然の繁栄を可能にするための取り組みと合わせる必要があります。例えば、再生可能エネルギー生産のため土地を利用する場合、太陽光パネルの周りで放牧や作付けを行うなど、食べ物やクリーンエネルギーを生産すると同時に受粉媒介者やその他の野生生物にメリットをもたらすような、統合型アプローチを採用するということです。

このほかに、生物多様性のホットスポットや炭素貯蔵量の多いエコシステムで知られる熱帯雨林、泥炭地、マングローブの森林破壊を食い止めることも有益な例として紹介されています。報告書によると、私たちは地球上の陸地50%以上を食料と木材の生産に使用しています。つまり、農業や林業においてネットゼロ、ネイチャーポジティブな取り組みが進んでいけば、気候、自然、人にとって大きなコベネフィット(共通便益)がもたらされるでしょう。

NbSは、排出量削減と、避けられない未来の衝撃に対するレジリエンス(強靭性)向上の両方に貢献します。NbSは、地球温暖化を2°C以内に抑えるために2030年までに達成が必要な37%の二酸化炭素削減を、他の選択肢よりも低コストで実現することができます。唯一の二酸化炭素吸収源である海洋・陸上エコシステムは、世界中で人間の活動により排出される二酸化炭素の約60%に相当する量を吸収する力を持っていますが、更なる可能性も秘めています。同様に、湿地や森林は干ばつ時の水供給の確保に、木々は猛暑の中の都市の冷却に、マングローブは水害に対する沿岸部の保護に役立ちます。

自然への投資により、2030年までに3億9,500万人分の雇用が創出できること、そして、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が人類と環境の関係をリセットする前例のない機会をもたらしたということが、調査により明らかになりました。近い将来、市民、企業、各国政府が下す決断が、数十年後先までの世界を形作ることになります。復興のための一連の取り組みは、公共の利益にならず有害な結果をもたらす助成金の廃止や、グリーン・ジョブ(環境への負荷を持続可能な水準まで低減させながら事業として採算が取れる仕事)に必要なトレーニングやリスキリング(新たな学び・研修)への支援など、強力なアクションと組み合わせて進めなければなりません。最近の研究では、気候変動や生物多様性の減少への対処に、官民を問わず1ドル費やすごとに最大7ドル相当のリターンが得られることがあることが分かっています。

世界経済フォーラムは、気候変動および自然の問題への取り組みの連携強化をしています。「チャンピオンズ・フォー・ネイチャー」のコミュニティは、レジリエントな経済と公平な社会を実現するため、総合的な土地および海洋管理を促進しています。また、同フォーラムの「ネイチャー・アクション・アジェンダ」も、温室効果ガス排出と生物多様性消失の最大の要因である、都市システムと食料システムにおいて、ネットゼロかつネイチャーポジティブな変革を推進する2つのイニシアチブ「100ミリオン・ファーマーズ」および「バイオダイバーシティーズ・バイ2030」を立ち上げました。

気候変動との闘いにおいて、自然は重要な存在です。自然の消失と気候変動を同時に対処することは、環境経済健康への更なる打撃に直面している私たちのビジネスや雇用に大きなメリットをもたらします。ネットゼロでネイチャーポジティブな経済は、将来パンデミックが起こる可能性を減らすだけではなく、将来の危機に対する備えとなるのです。

気候変動の危険性に対する意識は、これまで以上に高まっています。パンデミックにより人々が家に閉じこもることを強いられ、かつてないほど自然への憧れや繋がりを持つようになりました。私たちはこの教訓を忘れず、地球規模課題に対する解決策を早急に選び取らなければなりません。自然界を持続不可能なものとして単純化するのではなく、自然界との複雑な調和から学ぶのです。政策立案およびビジネス戦略には、未だ気候変動や自然への視点が十分に盛り込まれていませんが、メッセージは明確です。私たちの社会と経済が、これからも長く続いていけるかどうかは、それにかかっているのです。

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