キャッシュレス化の加速を緩め、東アジアをより包摂的な社会に導くには
決済は現金?キャッシュレス?両者は実際には補足し合う手段であり、金融包摂という取り組みを前提に議論されなければならない。 Image: REUTERS/Yuya Shino
- アジアのキャッシュレス化は韓国が最先端を走る一方、日本は未だに現金主義です。
- 高齢者、農村地域の住民、低所得者層は、デジタル通信機器、ネットワークへのアクセスや、デジタル金融の知識がないため、キャッシュレス社会の恩恵にあずかれない人々がいます。
- キャッシュレス決済には多くの利点がありますが、現金決済は今なお人々に安心感を与えます。
第四次産業革命の真っただ中にある現在、キャッシュフリー決済は多くの人々の生活習慣を変える決算手段となりました。しかし、決済手段の優劣については、世界各地で考え方が異なり、個々人の主観によります。東アジアのキャッシュレス動向は国や地域ごとにも特徴があります。
アジアでキャッシュレス化が最も進んでいる国と見られているのは、韓国です。ある調査によると、韓国では現金決済は全決済手段のわずか14%であることが明らかになっています。韓国はすでにキャッシュレス社会になっており、その最大の理由は、国民がそれを望んでいるからであるという見方もあります。
韓国ではスマートフォン普及率がほぼ100%に達しており、スピーディーで便利な決済手段を求める若年層のキャッシュレス決済への需要が高まっています。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が拡大する中、韓国ではEコマースが急成長したため、デジタル決済が以前よりずっと身近なものとなりました。また、ネット販売の70%以上をモバイルショッピングが占めるようになったとコリア・ヘラルド紙は報じています。
韓国では、パンデミック以前からすでに現金決済は減少していました。韓国企業がバーチャルカードやプリペイドカードの普及を検討している中、韓国国会は世界に先駆けて包括的暗号通貨法案を可決しました。
一方、中国では約60%がキャッシュレス決済、40%が現金決済です。世界のキャッシュレス利用率順位で中国がそれほど高くない唯一の理由は、人口が多いことです。有力な複数のフィンテックプラットフォームの台頭に伴い、中国は世界有数のキャッシュレス社会に急速に成長しつつあります。
中国は、東アジアで誰もが認めるEコマース先進国です。2021年には、Eコマースが中国の小売売上高の約52.1%になると予想されています。中国はモバイル先進国であり、大都市から地方にいたるまで、社会の中心的活動拠点では、QRコードをスキャンするモバイル決済が効果的に利用されています。
JPモルガンによると、中国のEコマース市場全体の中で、モバイル決済による売上は60%を占めています。
現金主義の日本
日本は以前より現金に大きく依存している国として知られており、決済手段の約82%が現金です。パンデミックをきっかけに、現金主義の日本人は物理的なお金へ執着しなくなったものの、急速に進む高齢化社会では変化に対する抵抗があります。
ロイター通信によると、このパンデミック下で、日本の通貨流通量と銀行預金高が記録的なペースで増大したことを受け、企業と世帯は現金をため込み続けたといいます。現金を保有する割合は高齢者ほど高く、中には無駄遣いをしないために現金決済に固執するという人も少なくありません。
過剰な「キャッシュレス化」により、包摂的な金融という本来の目的から逸脱する新たな金融排除が生まれます。
”全体的に、日本社会は今なお現金に大きく依存していますが、その主な理由は自然災害の頻発です。しかし、政府は2050年までにキャッシュレス決済の比率を、現在の約20%から約40%にするという目標を掲げています。
キャッシュレス社会は、包摂的な社会か?
アジアでは、とりわけ金融包摂や消費者保護という観点から、依然として現金決済の需要が少なくありません。例えば、中国の多くの都市では、モバイル決済手段がなければタクシーの配車や決済、食料品の購入、あるいは飲食店などの支払いまでもが困難になってきています。小規模な商店でも、現金を受け付けない店は少なくありません。韓国では、もはや1,600の銀行支店のうち半数以上が、現金による預け入れや引き出しを実施していません。
包摂的な金融を発展させることの本来の目的は、すべての個人と企業が、それぞれのニーズを満たす便利で手頃な金融商品やサービスに、公平にアクセスできるようにすることです。
デジタル技術は金融サービスの利用率を向上させますが、デジタル・ディバイド(情報格差)ももたらします。高齢者、農村地域の住民、低所得者層の中にはデジタル金融の知識やスキルはもとより、デジタル通信機器やネットワークへのアクセスがない人々もいます。
また、現金は海外からの旅行者、未成年者、視覚障害者など特定の人々が基本的な決済をするために必要な保証ともなります。過剰な「キャッシュレス化」により、包摂的な金融という本来の目的から逸脱する新たな金融排除が生まれます。
安全で確実なソリューションとしての現金
一方、モバイル決済の急速な成長過程では、消費者の個人情報が過剰収集される傾向があり、その結果、消費者の連絡先、消費行動、生体認証などの情報が過剰にデータマイニングされるおそれがあります。
サイバーセキュリティ問題も大きな懸念要因です。その一例が、セブン‐イレブン・ジャパンが2019年に公開した、店舗内対面決済用のモバイルアプリ「7pay」です。残念なことに、モバイル決済のセキュリティ対策不備のため同アプリでおよそ50万ドルが不正利用されてしまったため、サービスは開始後3か月も経たないうちに完全に廃止されました。
モバイル決済のセキュリティを信用できない場合、消費者は現金決済を選ぶことで個人情報や資産の安全が侵害されるリスクを減らすことができます。
現金は理論上リスクのない決済手段であり、安全な資産と見なされています。一方で、商取引機関に依存するキャッシュフリー決済はある程度の運用リスク、市場リスク、信用リスク、さらにはモラルハザードを伴います。このようなことから、現金を保有するという選択肢が消費者の安心感を高めることにつながります。
キャッシュレス決済と現金決済が競合することはありますが、実際のところ、最終的には両者は互いに取って代わるものではなく、補足し合うものです。キャッシュレス社会への移行はゆっくりと進めなければなりません。大切なことは、誰も置き去りにしないことです。
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Vijay Eswaran
2024年12月18日