Davos Agenda

持続可能な未来の構築、その進捗をどう測るか

Companies want consistency in ESG metrics.

企業はESG指標の統一を望んでいます。 Image: REUTERS/Edgar Su

Bill Thomas
Global Chairman and CEO, KPMG
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  • 2020年、ESG評価の高い企業は他社に比べ多くの投資を集めました。
  • 共通の基準で測定することが、意義のある定量化可能なインパクトを与えるための唯一の方法です。
  • 政府が、統一されたシステムを完全に取り入れるのは時間がかかり、困難も予想され、企業によっては高いコストが問題になります。

現時点で2021年は、2020年のような大きな変化が起きているようには見えません。コロナウイルス感染者の急増や医療システムの崩壊が続き、いまだ状況は厳しいままです。2021年も困難な年になることが予測されますが、昨年との違いは、ワクチンへの期待と確約があるということだけではありません。ワクチン接種の拡充は待ち望まれているていることですが、社会のあらゆるセクターにおいて危機感が認識され、次世代を見据えて物事が正しい方向に向かい始めていることこそが一番の違いでしょう。

パンデミック(世界的大流行)は、社会全体で対処されるべき多くの問題を増大・悪化させました。気候変動、人種間の不平等、経済格差、失業率の上昇など、それぞれ独立した問題でありながらも相互に関連し合っているため、広い視野に立った思考や迅速な行動が必要とされる課題です。特にビジネスにおける対応が重要です。控えめながらも効果のある対処法は、統一性、透明性があり、比較可能な、環境、社会、ガバナンス(ESG)の指標の導入に着手すること。これらの指標は、持続可能でより良い未来の構築に向けた進捗状況の測定に役立つと同時に、発言権を求める、または、意見する権利のあるステークホルダーに対して、企業が説明責任を果たすのに役立つでしょう。

ESGの定着

パンデミックによって加速・優先された多くのビジネストレンドと同様に、企業がESGの観点を取り入れることは、重要かつ歓迎すべき進展です。その歩みは遅くとも、自社の総合的な価値、持続可能性や社会的影響を測るものとしてESG指標を活用することに、多くの企業が価値を見出しています。そして何よりも、企業のESGへの取り組みを投資の判断材料にする投資家が増えています。実際、早い時期からESGの観点を経営に取り入れてきた企業は、パンデミックによりかつてないほどに不安定な状況に陥った2020年においても、その取り組みへの見返りを得ることができています。つまり、ESG評価の高い企業は、2020年、他社に比べてより多くの投資を集めたのです

共通の測定基準を設定することの意義

しかし、すべての組織が同じ問題について同じ方法で情報開示していると、それに必要な評価基準しか得ることができません。企業や組織は、パフォーマンスの測定を望み、必要としていると同時に、評価する上での一貫性も求めています。ステークホルダーも同様に、企業や組織のパフォーマンスを把握したいと考えています。そのための唯一の方法となるのが、共通の基準で測定すること。共通の基準で測定してこそ、財務情報の開示と同じように定量化可能で意義のあるインパクトを与えることが可能になります。このアイデアは複雑なものではありませんが、約50年前にそうであったように、情報開示のための一貫した一連の基準を設定することは容易ではありません。しかし、幸運なことに、一から始める必要はないのです。このような基準の設定は可能で、連携した取り組みによりすぐに実現することができるはずです。

KPMG他「4大監査法人」は、世界経済フォーラムやインターナショナル・ビジネス・カウンシルと協働で指標の策定を進めました。そこで推奨された指標は、ESGに関する既存の基準や評価手法(SASB、GRI、TCFDなど)を受け継いだもので、新たな基準や枠組みではありません。本プロジェクトのチームは、あらゆる協議を重ねた結果、企業が自発的にベースラインとして活用したり、主要な事業報告に取り込んだりすることができる、最優先されるべきESG項目をいくつか特定しました。これらの基準は、投資家が企業価値の理解を深める一方、ビジネスリーダーにとっては、長期的な事業経営の自由度を高めることにつながります。

The Four Pillars of Stakeholder Capitalism
ステークホルダー資本主義の4つの柱 Image: World Economic Forum and Big Four analysis.

普遍的なEGS指標がもたらす長期的なメリット

統一性、透明性があり、比較可能性を備えたESGに焦点を当てた普遍的な指標が、GAAPやIFRSと同等の影響力を持つことが理想ですが、まだそこまでには至っていません。政府やその他機関が、一つのシステムを完全に採用できるようになるには時間がかかります。しかし、このような普遍的指標の実現は必ず成されます。

多くの企業にとって、データ開示は困難なうえにコストがかかることは容易に理解することができます。限られた資金をやり繰りしているところにさらなる負担がかかり、すべての企業があらゆる指標に対し情報開示を実現できるわけではないでしょう。それはKPMGも同じです。ESGフットプリントを完全に把握しきれていなかったり、そもそもデータが完璧に揃っていなかったりする場合には、手持ちのデータの開示することに抵抗があるでしょう。実現までの道のりは間違いなく不完全なものとなることが予想されますが、前述した指標や類似の指標に従ってデータ開示への取り組みを今から始めることこそ、長期的には時間と資金の節約につながるでしょう。特に、2020年のような年のパフォーマンスを向上させるとするならば、このような取り組みは不可欠です。

KPMGは、ESGに対する自らの行動計画を盛り込んだ初の報告書「Our Impact Plan」を発表。グローバル組織としての、ESGにおけるコミットメントを包括的に集約しました。「Our Impact Plan」は、始まりにすぎず、決して完璧なものではなく、容易ではない試みでした。しかし、KPMGがよりよい組織になるための一歩だと信じています。この取り組みは、自らの組織に対する理解を深めると同時に、今後のビジネスを良い方向に進め、当社のコミットメント達成状況を測る方法についてのロードマップを描くきっかけとなりました。変化を起こし、世界が直面している課題の解決に寄与するべく、取り組みを進めていきます。

2020年をパンデミックの年とするならば、2021年はより良い世界を築く年となるよう、共に協力し合い前進していきましょう。

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