オフィス設計の新たなモデルとなりうるイスラエルのビル
ビジネスランチにも理想的な環境 Image: Microsoft
- 未来の働き方におけるオフィスの役割が不透明になってきた中、マイクロソフトがイスラエルのヘルツリーヤに新たなオフィスを開設。
- このオフィスには独特のデザイン要素が取り入れられていますが、マイクロソフトによると、それは新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)とそれを乗り越えた後を見据えた対応だということです。
- そのひとつが「フレキシブル・グリッド」。デスクはキャスター付きで移動しやすく、オフィスのレイアウトを簡単に変更できます。
「出勤したくなるオフィスとはどんなものか?そもそもオフィスの存在意義とは?」
マイクロソフトがイスラエルのヘルツリーヤに新たに開設するオフィス。そのプロジェクトでリードアーキテクトを務めたベレッド・ギンディ氏は、4年前、この問いに対する答えをこの新オフィスの設計に込めました。奇しくも、この問いは今の時代を捉えたものになりました。
IT企業の巨人であるマイクロソフトが、この最新の設備を導入した46,000平方メートルの新オフィスの設計を依頼した時点では、新型コロナウイルスのパンデミックが物理的なオフィスの在り方そのものにこれほどまでに深刻な問いを投げかけることになるとは、到底考えられなかったでしょう。しかし今や、IT企業の中には、今後ずっと在宅で勤務するという選択肢を従業員に与えるところも出てきているほどです。
多くの企業がオフィスと在宅のハイブリッド型の働き方への将来的な移行を計画し、オフィスの縮小によって不動産コストの30%削減を検討する企業も出ていますが、オフィスの在り方を改革して、その存在意義までも見直す上では、ヘルツリーヤのこのオフィスはひとつの方向性を示す例になります。
新たなオフィスの3つの基本コンセプトをご紹介します。
1. 「フレキシブル・グリッド」
2020年、世界中の企業がデスク間のソーシャルディスタンスを確保するために、オフィスレイアウトの変更に苦心しました。その点、この新オフィスには最初から柔軟にレイアウトを変更できる設計が取り入れられています。それが「フレキシブル・グリッド」と呼ばれるシステムです。
「100平方メートル以上のエリアでスペースを自由にアレンジできるフレキシブルさが特徴です」と、イスラエルとセルビアのマイクロソフト・リアル・エステート&ファシリティーズ社のシニア・ポートフォリオ・マネージャーを務める、オレン・イェルシャルミ・ローゼンバウム氏は語ります。「デスクを対面にしたり、背中合わせに配置したり、十分な距離を取ったりと、ニーズに合わせて思いのままにレイアウトできます。これならソーシャルディスタンスも確保しやすいですね」。
オフィスで十分なスペースを簡単に作れることの重要性は、新型コロナウイルスへの感染を防ぐオフィス設計として強調されています。不動産サービスを提供する多国籍企業のクッシュマン・アンド・ウェイクフィールド社が提案する、「6フィート・オフィス」などはその一例です。
ヘルツリーヤのオフィスでは、設置と撤去が容易な吸音パーティションやシェルフシステムを導入し、チームの合併や分割に合わせてレイアウトを変更できるようにしました。デスクにはキャスターが付いているほか、ケーブルも非常に長いものを使用しているので、誰でも楽にデスクを移動させることが可能です。
また、マイクロソフトが製品発表の際に好んで利用してきた大講堂は設置されておらず、代わりに、必要に応じてレイアウトの変更や連結・分割が可能な多目的ルームが導入されました。
2. 長期的な持続可能性
マイクロソフトによると、環境に与える長期的な負荷を低減することも新オフィス設計の優先課題のひとつでした。その結果、イスラエル国内有数の持続可能性を誇るビルが誕生しました。
ビルには大気中から水を生成する装置が設置されており、年間約237,000リットルの淡水が生成されます。ここは、1年のうち7カ月は降水量がほとんどゼロという地域で、熱波などの極端な気象現象が頻繁に発生するため、この装置は非常に大きな役割を果たすことになります。また、空気ろ過システムは、エレベーターなどのビル内の空気を浄化するだけでなく、凝縮した水を回収。その水は、ビルの冷却や供給水に再利用されます。これにより、年間300万リットル以上の水を節約できると見込まれています。
発電と省エネにも特別な配慮がなされています。800平方メートルの太陽電池モジュールが食堂と外部照明に電力を供給し、二重壁と自動ブラインドが温度の上昇を抑制します。
3. ダイナミックな独創性
ヘルツリーヤでマイクロソフトは「従来の一般的なグリッド型やオープンフロア型のオフィスを越え、都市環境のダイナミックな独創性を刺激」したかったとのことです。近年、従業員同士の偶然の出会いを促したり、業務のサイロ化を減らしたりしたいと考える企業が増えていますが、マイクロソフトの狙いもそのトレンドを反映しています。
新型コロナウイルスが猛威を振るう現状では、ダイナミックな独創性よりも安全性を優先するのが現実的かもしれません。しかし、マイクロソフトは長期的な視点に立って、オフィスの存在意義を捉え直しました。
「街とは人びとが交流する場所です」とギンディ氏は語ります。「私たちの周りにはたくさんの人がいて、活動があり、文化がある。人はひとりではなく、もっと大きな何かの一部です。オフィスも、ただ仕事をこなす場所ではなく、ひとつのライフスタイルを実践する場所なのです」。
「街」をコンセプトにした新オフィスには、まず、チーム活動の拠点となる「居住地区」があります。これに加えて、商業地区を模した「ダウンタウン」、レクリエーションがそろった「ミッドタウン」、自然あふれる屋外エリアの「ガーデン」、ブティックホテルのような雰囲気の「アップタウン」の4つの主要エリアで構成されています。これらのエリアはすべて「大通り」でつながっています。
祈祷室、音楽室、ジム、ヨガルームも用意されており、利用できるアクティビティにも同じコンセプトが反映されています。また、子ども用のプレイルームも設置されています。在宅勤務を経験してテレワークがいかに子育てしやすいかを知った、子どもを持つ従業員に対して、オフィス勤務という選択肢を再考してもらう効果が期待できそうです。『ハーバード・ビジネス・レビュー』によると、一部の企業では家庭向けの福利厚生が新型コロナウイルス感染症のパンデミックという難局を乗り越えるのに貢献したとのことです。
パンデミックがもたらした「働くこと」そのものへの課題の解決に企業は取り組んでいますが、オフィス勤務の再開はいつかきっとできること、そして、楽しささえ感じられるものになるかもしれないという、希望の光が見えてきました。
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