• パンデミックからの回復は、ヒューマン・エクスペリエンスに合わせた不動産価値の見直しをする機会になります。
  • 私たちは、家にいるか外出するかの選択ができます。再入居するかどうかの決断はその選択に基づいているため、人に焦点を置いた不動産の価値が上昇するでしょう。
  • 人を中心に据えた不動産は堅実なリターンを期待できますが、そうでない不動産は一貫したリターンが見込めないでしょう。

アフターコロナの世界のあり方が見え始めた今、人々が自宅外での経験を求めるようになるにつれ、パンデミック(世界的大流行)以前の不動産業界における不動産評価方法が、人を中心に据えて考えられていないものであったことが明らかになってきています。新たな時代を迎えるにあたり、ヒューマン・エクスペリエンスに価値をおいた建物や場所を、どのように設計するかが重要な要素になっていきます。

家は、生活に欠かせないものです。パンデミックの影響により、多くの場所から人々が退去しましたが、それは同時に、人々がその場所での経験も失ったことを意味します。パンデミックの影響により、私たちは、大切な家と体験の関係性をこれまで以上に深く理解するようになっています。

狩猟採集民として私たちに組み込まれている移動、自発性、交流、多様性といった体験に関わる人間のニーズは、複数の場所や環境にアクセスできて初めて満たされるものです。自宅待機を強いられた期間の「一つの場所」での生活は、健康や安全の要件を満たしてはくれましたが、生活の質という面では大きな犠牲を払うことになりました。人間らしく生きるためには「複数の場所」で構成される生活が必要であり、そのニーズを満たす上で不動産は不可欠なものです。そのような見方をすると、アフターコロナ時代の不動産は、現在の評価モデルではじきだされる数値以上の価値を持っています。これを実感することは、職場、ホテル、小売店、学校、都市の設計方法のあり方を変えるでしょう。

過去20年の間に、複合施設開発、タウンセンター、そして、新たな場所づくりとコミュニティーへの注目度は高まってきました。しかし、パンデミック後の回復においては、従来のパターンではなく、さまざまな体験を「選択」できるようにすることが重要になります。家にいるか、外出するかという選択です。不動産の新しい価値の源は、仮想空間を超えた体験のための自宅以外のプラットフォームであるということです。

過去9ヶ月間、不動産の価値が激しく上下したのは、こうした問いに対する答えがまだ出ていないからです。ゲンスラー・リサーチ・インスティテュートが最近行った3つの研究は、ヒューマン・エクスペリエンスと不動産の根本的な関係に焦点をあてています。

適切な場所で働くということ

ゲンスラー・リサーチ・インスティテュートは、パンデミック下における在宅勤務の経験を把握するため、2020年4月と9月に、全米の2,300人以上の労働者から得た回答を分析しました。仕事や基本的な機能は在宅の勤務形態でも有効だったものの、ほとんどの人は、他の人が近くにいることが仕事に良い影響をもたらすため、オフィスに戻りたいと考えていることがわかりました。

同研究所の調査によると、100%在宅勤務を希望する回答者は12%にとどまり、44%は週1日から4日は在宅勤務が可能な、柔軟性のあるハイブリッド型の勤務体系を希望しています。また、88%の人が、毎週の仕事のあり方の一部として、オフィスに出勤することが含まれているのがよいと考えていることもわかりました。

Only 12% of workers want to remain at home all the time
100%の在宅勤務を希望する労働者は全体の12%にすぎない
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商品以上を提供する小売とは

ゲンスラー・リサーチ・インスティテュートは、体験と場所の関係性を把握するための研究を継続しており、ゲンスラー・エクスペリエンス指標を策定しました。さまざまな調査や民族学的研究を通じてわかったことは、小売店やレストラン、その他の場所は、既定の業務や仕事、サービスを超えた幅広い体験の提供により成功を収めているということです。

ショッピングをする動機の51%が、娯楽、社交、学習、インスピレーションの機会であることから、アフターコロナの環境下では、消費者の取引を超えた幅広い体験を提供できれば、小売の不動産価値が上昇すると考えられます。オンラインショッピングがすっかり普及した現代におけるアフターコロナ時代に生きる消費者にとって、購入経路が複数あるということが重要な価値となります。

Buying something is not the only reason why people go out shopping.
ショッピングに出歩く目的は、「買い物」をすることだけではない
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20分圏内で生活できる街

今年の5月と8月、ゲンスラー・リサーチ・インスティテュートは、ニューヨーク、サンフランシスコ、シンガポール、ロンドンの4都市で都市動向調査を実施。さまざまな指標を用いてこれらの都市における人々の体験を調査しました。その結果、新型コロナウイルスの感染拡大以降引っ越しへの関心が高まったと答える人が、約3分の2に上ることがわかりました。当然のことながら、公共交通機関の利用が主な理由で、これは、健康面の懸念によるものです。調査結果によると、回答者が郊外や小都市、地方への引っ越しに関心を示していますが、それは、公共交通機関で長時間移動することなく近くで買物ができたり、通勤場所に近接していたりするからという理由からでした。

ここで注目すべきことは、回答者は、パンデミック後の将来も、ずっと自宅にいられるようにするために引っ越しを検討しているわけではないという点です。それどころか、引っ越しをすることで、自宅以外への場所へのアクセスが容易になり、人々のニーズを満たすことができるのです。人々は、商業用、住宅用、施設用、そして、人道的ニーズを満たせる不動産が、同じ地区もしくは近隣にある都市を探しています。この傾向は、アメリカで提唱されている「20分圏内で生活できる街」(パリでは「15分シティー」)の背景にある考え方であり、都市は、さまざまな場所や体験へのアクセスを容易にする場所であるべきという考えを基に注目を集めています。

Will cities still be as attractive in the post-pandemic era?
アフターコロナの時代も、都市の魅力は変わらないのか
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健全かつレジリエントで、公正な地域づくり

社会的相互作用を促進する目的のもと設計された建物の能力に、パンデミックが影響を及ぼしています。私たちの都市を価値の枠組みから見てみると、健康やウェルネスをサポートしていない場所には人々が居住したがらないため、価値が失われているといえます。パンデミック後の環境においても、清潔さ、健康、安全は、ニューマン・エクスペリエンスとして人々が期待をするものであると同時に、価値を生み出す要素となるでしょう。

都市とその周辺地域を形成しているのは人間ですが、これらの場所自体にも、私たち人間を形成する力があります。都市の設計は私たちの姿を反映しているのです。公平で包摂的な設計の重要性を認識することが、将来の不動産開発の特徴を決定づけます。

気候変動は、世界が抱える大きな課題であることは確実で、人と地球のために健康的な建物を作ることが重要になってきます。不動産を人に配慮したものにするということは、炭素排出量の削減に意識を向け、サーキュラー・エコノミーを採用することを意味します。これらの目標は相互に補完し合うものであり、ゼロサムゲームではありません。

経済的な価値を超えて

人に焦点を置いた設計は、不動産の付加価値を高め、社会にもたらすメリットを増やすことができるため、大きな機会となります。人は、家にいるか外出するかの選択ができます。アフターコロナの未来では、人々がヒューマン・エクスペリエンスという価値に基づいて、不動産利用に優先順位をつけるようになるでしょう。

外出を促すような建築環境を作るには、ヒューマン・エクスペリエンスに焦点を当てた、より総合的な設計アプローチが求められます。設計の際には、何が人々の行動を駆り立て、人々の交流を促進し、効果を最適化するのかを理解する必要があるでしょう。

このような形で不動産を変革することは、より需要の高い商品を生み出すことでディベロッパーや投資家に金銭的なリターンをもたらすだけでなく、個人や組織、社会全体にも価値をもたらします。インスピレーション、つながり、発見を提供する一方で、人々が効率的に働き、生活し、遊ぶための数多くの場所があるからこそ、私たちの体験は可能となります。不動産は人生の舞台であり、そうした経験を高めるように設計されていれば、価値を最大化することができます。