Great Resetにむけて果たすべき日本企業の役割
日本企業は、SDGsの実現に貢献します。
Image: REUTERS/Kim Kyung-Hoon
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よりよい企業
歴史的転換点に立つ世界
新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、人類社会の前提と将来の展望が大きく揺らいでいる。
これまで多くの国が、「マーケット至上主義」のもと、経済的合理性を優先し利益を生み出す技術革新に導かれる形で、グローバル化とデジタル化を推進してきた。その結果、飛躍的な経済社会の発展をもたらした反面、格差社会や環境破壊などの「歪み」が座視できない水準にまで膨れ上がってしまった。 パンデミックはこうした負の側面の問題を顕在化させ、人類社会の持続可能性を問う機会となった。
これを機に、資本主義を再定義し、幅広いステークホルダーに支えられた持続可能な新しい経済社会システムを構築する「勇気」を持つべきだ。 これからの社会では、不連続な変化が絶え間なく発生することが「新しい普通」となるだろう。こうしたことを個々が認識し、「過去を断ち切り、ありたい未来を自ら描き出す意志と想像力」が今まさに求められている。
新しい資本主義像と企業の役割
地球環境の危機、格差の拡大や社会の分断といった、コロナ危機によってより大きく顕在化した人類社会の持続可能性が問われる課題を解決するために、企業の果たすべき役割は大きい。 イノベーションの担い手である企業こそが、これからの新しい経済社会を描き出す駆動力とならなくてはならない。歴史的にも、多くの企業が革新的な製品・サービスを提供し、社会の変革を先導してきた。企業は本来、「going concern」として長期的に価値を提供する存在であることが社会から求められている。
これからの企業は、短期的には必ずしも利益につながらなくとも、30年先、50年先の次世代のために社会への価値提供を果たし人々の幸せを追求する、そのための最適な戦略を個々に描くことが求められている。そして、社会的価値を生み、人類社会の持続可能性を高める長期的な企業行動は、現在の経済的な企業価値向上につながる。企業がもたらす価値・利益が再定義されることで、結果として、SDGs実現に向けた社会の持続可能性を高める企業行動は、短期的な費用ではなく、将来利益をもたらす未来への投資と捉えるべきものと考えられる。
このような企業価値を認識する資本市場を形成できれば、企業の力が最大限引き出され、社会の持続可能性や人々の幸福を織り込む「新しい資本主義」を構築することが可能になるだろう。
日本の強み
近年、各機関のESG投資評価が企業価値の算定に影響を与えるなど、一部でイノベーションの担い手である企業の駆動力を組み込んだ新しい資本主義構築への萌芽は見え始めている。こうした潮流は、世界中のあらゆる企業に対して、SDGsや社会の持続性への貢献を与件事項としつつある。社会的価値を意識しない経営はもはや共感を得られないばかりではなく、新しい時代の資本市場では、むしろ企業価値の低下を招く可能性すらある。
こうした流れを社会において真に定着させるために、日本は世界に対してヒントを提供できるのではないか。日本には伝統的に「社会との関係性、公の意識、利他と自利のバランス」を重視する価値観が根付いている。シュワブ会長は、日本のRegional Action Group設立会合で、新たなステークホルダー資本主義へのGreat Resetにむけて、日本の「三方良し(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の精神の重要性を示唆した。「三方良し」は決して教義ではない。社会の持続性のために、日本が伝統的に培ってきた価値観に基づく「Practical Wisdom」である。この「Practical Wisdom」は、新しい資本主義への変革を先導し持続可能な社会の構築に貢献するために必要不可欠だ。
パナソニック創業者・松下幸之助が、企業は「物を作る前に人を作る」べきと考え、社会の公器である企業は世の中に役立つために、人材を育成し活用するべきだと説いたように、多くの日本の先人たちは、企業は社会全体のためのもの、という信念のもと企業経営を行い、社会的価値を提供してきた。
自身が経営するSOMPOでは、「世界の未来」でもある高齢社会に直面している日本において、より豊かな未来社会というCommon Good(世のため人のため)を追求するため、未来への投資として介護事業に参入し、テクノロジーやデータを活用した、「一人一人が自分らしく人生を全うできる」持続可能な介護の実現を模索している。
このような日本企業による「Practical Wisdom」に根差した社会的価値の創造は、世界におけるSDGsの実現に貢献するものだと確信している。
いて欲しい国、いなくては困る国・日本にむけて
今日のパンデミックは、多くの国をより一層内向化させ、国益を巡る対立と分断を生む可能性を含んでおり、国際社会に目を向けると、明確な進路を指し示すリーダーや求心力が求められている。私は、この様な情勢だからこそ、日本が世界の「Great Reset」に貢献できる役割があると考えている。
世界経済フォーラムの「世界競争力レポート特別版2020」で指摘された通り、日本には多様性の低迷など課題も多いが、GDP世界3位の経済と市場規模を持ち、ものづくりで磨き抜かれた技術力、国民皆保険制度による医療データといった質の高いリアルデータ等、今後の成長の源泉となり得るさまざまなリソースがある。
こうしたリソースと日本独自の「Practical Wisdom」を活用したイノベーションによって社会変革を起こし、世界に課題先進国としてのロールモデルを示すことで、新しい経済社会への「Great Reset」に向けて日本がリーダーシップを発揮できる。それこそが、世界にとって日本が「いて欲しい国、いなくては困る国」となる第一歩である。
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