昨年12月23日、主要な暗号資産の1つであるリップル(XRP)が1日で30%以上下落するという事態が発生した。集中管理するリップル社が米証券取引委員会(SEC)から訴えられたためだ。しかし、より大きなサプライズは、それでもビットコインの価格はあまり影響を受けなかった点だろう。

昔なら暗号資産は一蓮托生だったが、今回は違う。なぜか。リップルはブロックチェーンを使わないなどの点で暗号資産の中では特殊だ。それを理解する機関投資家らが暗号資産投資に参入していることが背景にあると考えられる。

少し前までは、機関投資家が“理論価格”がない暗号資産市場に参入するということは考えにくかった。しかし今は、理論価格が見えにくい、いわばフラジャイルな(壊れやすい)資産ほど、資金が集まりやすくなっている。なまじ理論値がはっきりしている資産だと、その価格がアンカー(錨)になって上昇を戸惑わせる。

一方、需給と相対価格で取引される市場なら、言葉を選ばず言えば、「節操なく」上昇しうる。暗号資産だけの話ではない。赤字続きの企業の新規公開株式や住宅価格などもその例である。

このような資産には脆弱性も感じるが、こうしたフラジャイルな資産の価格上昇は2021年も続くだろうか。暗号資産、新規公開株式、住宅価格の3つを例に考えてみる。

暗号資産:米企業の投資が急増、なお上値追う可能性も

昨年最も上昇した資産といえばやはり暗号資産だ。ビットコインは12月中旬に、2017年12月の最高値を上回ったのち、冒頭のリップル事件で調整しつつも、12月30日時点で年初比で3.8倍となっている。

ビットコインは、過去2度のピークと暴落を経験している。ピークは2013年の11月と2017年12月の2回で、いずれもピーク後大暴落したものの、約1年後に8割引きで底を打っている。12月30日時点で、2年前の底値から8.6倍まで上昇しているが、前回は底値から77倍まで上昇した。まだ上値があるという見方もできなくはない。このように価格が大きく変動するのも、アンカーとなる理論値が見えにくい資産の”醍醐味“である。

前回2017年の暴騰と今回の上昇に違いはあるのか。17年〜18年頃のビットコインへの投資マネーは、約6割が日本円だった。これに対し現在は、米ドルや米ドル連動型ステーブルコイン「テザー」が7割以上を占め、日本円からの流入は1割に過ぎない。

一方、機関投資家からの資金流入は、ビジネスインテリジェンス企業のマイクロストラテジー、オンライン決済サービス会社のペイパル、投資ファンドのスカイブリッジ・キャピタル等、米国企業を中心とする動きが相次いで報じられている。米機関投資家向け暗号資産投信の「グレイスケール・ビットコイン・トラスト」の資産額は、足元でやや息切れも見えるものの、130億ドル(約1兆3,450億円)まで拡大した。セキュリティについても、技術面、規制面ともに大きく前進している。

興味深いのは、株式や債券、暗号資産や金など各種資産の昨年央までの1年のボラティリティと、資産毎のそれ以降の上昇率をデータ分析してみると、高い正の相関がみられる点だ。ボラティリティが高い、つまりリスクが高い資産ほど選好されていることが明確にわかる。

IPO市場:米で大型上場続々、21年は昨年を超える勢いも

昨年の極端な資産インフレを象徴したもう一つの例が新規公開株式である。昨年12月にIPO(新規株式公開)を行った米料理宅配サービス最大手、ドアダッシュの時価総額は、上場時点で290億ドル(約3兆円)と推定され、これに次ぐ民泊仲介大手のエアビーアンドビーも上場時時価総額で70億ドル規模だった。いずれも、取引開始直後に株価が2倍前後まで上昇するという熱狂ぶりだった。

米国でIPOした企業の平均PBR(株価純資産倍率)は、リーマンショックからの回復期の2010年が2倍程度だったのに対し、昨年は7倍を超えている。半面、これらの企業の約8割がまだ赤字となっている(異常項目前利益ベース。ブルームバーグのデータで取得できるもの)。

今年はどうか。現在、世界には、推定時価総額が10億ドル以上のユニコーン企業で148社、100億ドル以上のデカコーンでも15社がIPO待機組として控えている。1,000億ドル超えのヘクトコーンである北京字節跳動科技(バイトダンス)も上場を検討中としている。

すべてが今年上場するわけではないが、米国では、直接上場で新規調達が可能になるなど制度の柔軟性が増しており、かつ、バイデン米次期大統領の新政権が富裕層の課税強化に動く可能性があるだけに、創業者が早めのキャッシュ化を望むかもしれない。となると、今年は昨年以上の活況となる可能性もある。

ちなみに昨年は日本のIPOも好調だった。件数ベースでは、2015年を上回り、リーマンショック後では最多となった。ただ、金額ベースでは、最高どころかリーマン後の年次平均すら下回った。最大級の銘柄は12月にマザーズに上場したプレイドやウェルスナビだが、いずれも、公開時価総額は500億円強と、米国とは1桁以上違う。IPO前の資金調達面での制約や規制の課題など、その違いをまざまざと見せつけられる年になった。

住宅市場:日米で続く相場上昇、富の格差拡大につながる懸念

もう一つ、膨張中の市場が住宅である。米国では、昨年10月のケース・シラー住宅価格指数の前月比上昇率は8.4%と、2014年以来の伸び率となった。経済の停滞が続く中で、このような活況は異様にも映るが、米国の住宅ローン金利が史上最低の2%台(30年固定型)まで下落していることの効果は大きい。

低金利という意味では、欧州も同様だ。例えばドイツでは、住宅ローン金利が過去最低の1%前後となり、昨年の住宅価格は年初来12.1%も上昇している。ロシアでも中古マンション価格が年初から高騰、6月時点のサンクトペテルブルクのマンション価格は、前年比16%も上昇している。

日本の住宅も堅調だ。東京カンテイによれば、昨年11月のマンション価格は、全国47地域のうち、14地域で価格が上昇傾向にあり、首都圏では前月比1.5%上昇と特に強い。また、中古マンションの売り手の弱気度を示す「値下げ比率」、つまり、いったん売りに出したマンションのその後の値下げ率は平均で5.2%程度と前年と同等だ。

昨年の初頭に67億6000万円台という日本史上最高値のマンションの売り出しが始まったが、今年の完成を控えても、現時点では値下げの噂は聞こえてこない。住宅は、個人が大きくレバレッジを効かすことができる数少ない市場だ。その分、低金利の恩恵を受けやすいことが支えとなっている。

ただし、住宅価格の上昇は、富の格差を拡大する。ドイツは、もともと持ち家率が50%前後と先進国の中では低い。物件価格の上昇で、家を持たない人々の住宅購入は難しくなる。米国では、金利は低くても、新規で借り入れができているのは、信用スコアが高い人々に限られ、低スコアの人々向けのローン実行はむしろ前年比で減少している。持てる人々の資産価格が上昇し、ますます豊かになっていくことになる。

更に、こうした資産価格の上昇は、消費マインドの格差にも繋がっている可能性がある。昨年12月の米消費者信頼感指数(1985年=100として指数化)は、前月から4ポイント超下落し88.6となった。しかし、実は、内訳を見ると、大きく悪化しているのは、世帯年収が1.5万ドル〜2.5万ドルの世帯で、世帯所得が最高区分の12.5万ドル以上の層では110ポイント程度と、3月を底に改善傾向となっている。100万ドル以上の所得層だけを抽出することができれば、もっと改善しているかもしれない。

来年も「不安の壁」駆け上がる資産高シナリオか

各資産クラスとも、当面活況が続くシナリオが現実的に見える。現在の市場を後押ししているのはカネ余りと言われるが、それだけではなく、更なる価格上昇の期待が必要だ。

その点、理論価格がないフラジャイルな資産ほど、上値を自由に「空想」でき、上値を追いやすい。その代わり、その空想を破られたら一気に反転する。今のところ、反落の材料等は見られないが、反落の時は、理論値のある金融資産も影響を受けるだろう。実際、2017年12月の暗号資産の暴落時は、1カ月程度遅れて米ダウ平均も下落した。

明治4年(1871年)、東京で外来種のウサギの価格が上昇しは始め、その後、年収の何十倍もの価格で取引されるという日本近代史上初のバブルが発生した。この「ウサギバブル」から、今年でちょうど150年だ。

その間、何度となく価格の行き過ぎと調整が繰り返されてきた。今回の活況はどうか。その萌芽とも見えるが、そんなことを言っている人がいるうちに、相場は格言通りに「不安の壁を駆け上がる」のかもしれない。

*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。