自然と生物多様性

世界中のミツバチの地図を作製するプロジェクトが、重要な理由とは?

Bee on flower.

Image: Christos Gavriel/Unsplash

Marie Quinney
Lead, Impact Measurement and Management - Nature Action Agenda, World Economic Forum Geneva

ミツバチの種類は、私たちが想像するよりもはるかに多く、2万種以上が存在しています。そして、その生息地が把握できるようになりました。今年の11月、世界で初めてミツバチの種類をまとめた地図が作製され、自然界で最も重要なポリネーター(花粉媒介者)であるミツバチの保護に向けた、大きな一歩が踏み出されたのです。

世界中のミツバチの個体数は、気候変動や農薬の使用など、人間の活動によって危機にさらされています。ミツバチの種の分布を把握することは、種の保全と持続可能な土地管理の意思決定において不可欠です。どの種がどの生態系に依存しているかがわかれば、降雨量の変化や農耕技術の変化などのショックに対しどのように反応するかを予測し、減少を防ぐための対策を講じることができます。

ポリネーター、つまり花粉を媒介する生物は、人間の健康とウェルビーイング(幸福度)の基盤となる存在です。生態系サービスを支える野生植物の個体数を維持し、作物の生産と食料安全保障を守り、文化的価値を支えています。ほとんどの植物は動物による受粉に依存しており、年間最大5,770億ドル(約60兆円)の農作物が、受粉損失リスクにさらされています。

ミツバチには花の蜜を集める以上の価値があり、哺乳類と鳥類を合わせた数よりも多くの種が生息しています世界の主要な作物種の90%以上の受粉をミツバチが媒介しており、多くの国にとって不可欠な花粉媒介者です。ミツバチの種類が最も多いのは米国ですが、アフリカや中東などの地域には、未発見の種が数多く生息するともいわれています

政策コミュニティや一般市民の間では、ミツバチの重要性が認識されつつあるものの、その対策はミツバチが直面する脅威に追いついていません。米国では、1947年から2008年の間にミツバチの個体数が60%も減少し、ヨーロッパでは12種の野生のミツバチが絶滅の危機に瀕しています

ミツバチのホットスポットの地図作製

ある国際的な研究チームが、ミツバチの種の分布に関する包括的なチェックリストと、約600万件の公的記録を用いて、ミツバチの種の世界的なパターンを調査しました。ほとんどの植物と動物は同じパターンに当てはまり、熱帯に行くほど種が多く、南極・北極では種の数が減ります。しかし、ミツバチはこのルールに当てはまりません。南極・北極に行くほど種は少なくなりますが、赤道付近でも数が減ります。ミツバチの生息数が少ない地域では、スズメバチゴキブリなどの代替となる受粉媒介者が増加します。

Relative species richeness of bees around the world.
世界中のハチの相対的な種の豊富さ Image: Global Patterns and Drivers of Bee Distribution

この研究データによると、ミツバチが熱帯地域よりも砂漠や温帯環境を好むことがわかります。これは、低地の植物や花の方が、樹木よりもミツバチの食料源となるからです。さらに、熱帯地方で個体数がピークを迎えるアリの仲間とは異なり、ミツバチの場合は湿気を好まないという特性があります。研究が示すように、湿気は花粉源にダメージを与えるため、ミツバチの分布を制限する可能性があります。

この研究は、人間の活動がミツバチに与える影響を評価し、ハチの個体数の減少を追跡する上で重要なステップとなります。今後の研究や目標とする保全活動の重要なベースラインとなることが期待されています。この研究で得た調査結果を基に、科学者や各国政府は、環境の悪化や有害な農法の影響を受けるリスクにさらされている、ミツバチのホットスポットを特定することができます。また、生態系サービスの分析において、受粉サービスの理解を深めることにもつながります。この調査結果は、気候変動、特に降雨パターンの変化が、将来のハチの分布に与える影響を予測する場合にも利用することができます。

養蜂家は、ミツバチが減るとその分を注文することができますが、野生のミツバチの減少に対してはそうはいきません。

マリー・クイニー

低所得国の多くは、養蜂されていない野生のミツバチに作物の受粉を依存しており、その研究はほとんど進んでいません。養蜂家は、ミツバチが減ればその分を注文することができますが、野生のミツバチの減少に対してはそうはいきません。つまり、最も脆弱な人々のための食料安全保障には、こうした未知の種に焦点を当てた研究が不可欠です。そのような研究は、生物多様性と人類の繁栄の基盤を守ることにもつながります。

生物多様性に関する解決策の開発

ミツバチをはじめとする受粉媒介者の個体数の減少は、人間や政府だけの問題ではありません。企業にもその解決策を探す責任があります。例えば、企業は、有害な農法を用いることによって、受粉媒介者の減少に直接的な影響を与えています。また、温室効果ガスの排出によって、間接的にミツバチの生息地を破壊し、気候変動にも影響を及ぼしています。

しかし、単純で利他的な動機以外にも、企業にはこの問題に取り組むべき経済的なメリットがあります。ミツバチの数が減少すれば農作物の収穫量が減り、農業、食糧の輸送、医療などの分野の企業収益に大きな影響を及ぼします。受粉媒介者の減少は、事業運営上の重大なリスクであり、企業はネイチャーポジティブ(自然を優先する)モデルを選択することで、意思決定に責任を持つ必要があるのです。

ミツバチは世界で最も重要な受粉媒介者のひとつです。ミツバチがいるからこそ、植物が本来の役割を果たし、食料となる作物が育ちます。もし、ミツバチが消滅してしまえば、植物、作物、そして、生態系全体がドミノ崩しのように崩壊するでしょう。ハチの種の分布を把握することで、自然と人間のシステムにおいて重要な役割を果たすハチの保護に成功する確率を高めることができます。サイ、トラ、パンダとともに、ミツバチを地図上に載せることで、より効率的で効果的に保護する基盤が築かれ、ミツバチや私たちが大きく依存している生態系を守ることができるようになるのです。

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