効率的で、持続可能な食料システムの構築の鍵となる「発酵」
発酵は、世界の食のあり方を根本的に変え、人と環境の健康や経済を地球規模で改善する機会をもたらしています。 Image: REUTERS/Richa Naidu
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- 将来のタンパク質の需要を満たし、包摂的、効率的、持続可能な食料システムを構築するためには、植物由来の代替タンパク質への投資が必要です。
- 発酵は、世界の食のあり方を根本的に変え、人と環境の健康や経済を地球規模で改善する機会をもたらしています。
- 必要な規模と技術水準に到達させることに重点を置いた、発酵タンパク質への投資が必要です。
世界の食料システムは、目的にかなっていません。現行の食料生産の方法と消費のあり方は、人と地球の健康を危険にさらしています。
しかし、食料とタンパク質に対する需要は増加する一方です。2050年までに、所得が増加し、世界人口が100億人に到達すると推定されていますが、それに伴い、世界的なタンパク質の需要も2倍近くに増えると考えられています。
世界経済フォーラムは、現在の生産システムでは、タンパク質の将来的な需要は満たすことができず、持続可能な開発目標(SDGs)およびパリ協定で掲げる目標を達成することもできないと訴えています。包摂的、効率的、持続可能な世界の食料システムを構築するためには、タンパク質の生産方法の変革が不可欠です。
畜産業は、本質的に資源集約的であり、土地利用の転換、環境の悪化、気候変動といった世界で最も深刻な幾つかの問題に拍車をかけています。 国連食糧農業機関(FAO)の算出によると、全世界で家畜が排出する二酸化炭素の量は、人為的な温室効果ガス排出量全体の14.5%を占めているとのこと。畜産業によって、抗生物質耐性菌の増加や、新型コロナウイルスのような動物由来の感染症の蔓延を促進する可能性があるため、公衆衛生上の重大な懸念となっています。
代替タンパク質の登場は、食料システムを大きく改善し、食料生産が気候変動に及ぼす影響を軽減。公衆衛生を大幅に向上させるだけでなく、イノベーション、投資、経済成長の絶好の機会をももたらしているのです。
代替タンパク質とは
代替タンパク質の分野を構成する主な柱は、植物由来のタンパク質、培養肉、発酵の3つです。
植物由来のタンパク質の売上高は急速に伸びており、新型コロナウイルス感染拡大下においても、従来型の食肉の成長を上回っています。
培養肉(「クリーンミート」、つまり細胞を基につくられた肉)は、未来学者の寵児のような存在で、現実のものとなる可能性が急速に高まっています。動物の体外で細胞を成長させることに成功した複数の企業が、コンセプトを実証するため、ステーキやエビなどの試食会を開催しています。さらに、この分野をリードするスタートアップ大手2社であるメンフィス・ミーツとモサ・ミートは、今年、シリーズBの資金調達で2億4,000万ドル余りを調達しました。世界の食肉市場は1兆ドルを上回りますが、培養肉が市場でかなりのシェアを獲得する可能性に、投資家が自信を深めていることが窺えます。
第3の柱である発酵は、最近まであまり注目されていませんでした。ところが、古くから存在し、今や現代の食料システムを変えようとしている発酵という生産方法が、その価値にふさわしく注目を集め始めています。
発酵が代替タンパク質の次のフロンティアである理由
発酵代替タンパク質の生産方法は、主に3つあります。
微生物発酵は、長年にわたって利用されてきました。微生物の酵素により、ある種の食品を別の種類の食品(例えば、ビールやヨーグルト)に変えたり、バイオ医薬品業界では、ワクチンや薬を生産したりするのに用いられてきた方法です。同じ技術が、今では新世代のタンパク質、脂肪、その他の機能性成分の生産に利用されており、非動物性の食肉、卵、乳製品の生産を可能にしています。
ホールバイオマス発酵は、クオーン社の肉を使わないマイコプロテインのナゲットやパテ、切り身でご存じの方も多いかもしれません。アットラストフード社やミーティ社など、ホールバイオマス発酵を使って全筋肉製品の生産に取り組んでいる革新的スタートアップもあります。
第3の方法は、精密発酵。カスタマイズされた微生物を用い、多くは動物性の食品に含まれている特定のタンパク質を、動物の繁殖、給餌、屠畜を行うことなく大量に生産します。最もよく知られている例は、ほぼすべてのチーズに含まれるレンネットというタンパク質です。レンネットは、従来、屠畜された子牛の胃から得られるものですが、現在では、特殊な酵母菌株を使って生産することが可能になっています。パーフェクト・デイ・フーズ社は、精密発酵を利用してホエーやカゼインタンパク質を製造しており、最近では、 非動物性の乳製品をベースにしたアイスクリームを販売するスピンオフブランド、ブレイブロボットを立ち上げました。クララフーズ社はこの技術を使って卵のタンパク質を製造しています。
どの発酵方法も、これまで以上に効率的なタンパク質の生産を可能にします。より広くいえば、植物由来、培養、発酵といった代替タンパク質産業の柱は、相互補完的であるため、企業は、現在の畜産業により生産される食品に比べ、環境的により持続可能で資源集約度の低い製品を生産することができます。
例えばインポッシブル・フーズ社が、バーガーに「肉のような」味を再現するために利用していることで知られる物質「ヘム」には、レンネットの生産に似た微生物発酵のプロセスが用いられています。こうした製品は代替タンパク質の全分野で使えるため、業界では非常に重要になります。
発酵製品のもうひとつの利点は、植物由来のタンパク質や培養肉と同様に、抗生物質を使わず、効率的かつ持続可能な方法で生産できることです。生産体系から動物を除外することで、汚染という常時つきまとう脅威が取り除かれ、食料システムで抗生物質を使う必要もなくなります。これが、種の壁を超えた病気の広がりに対する脅威の解消につながります。これらはいずれも、公衆衛生や食料安全保障システム(ひいては、経済システム)に多大な恩恵をもたらします。
投資機会
代替タンパク質の業界に対するベンチャーキャピタル投資は、過去10年間で急速に増加しており、特にここ2~3年は伸びが急激に加速しています。この業界における資金調達額は、2020年上半期だけで2019年通年の調達額を大幅に上回り、初めて10億ドルを突破しました。その中でも、発酵代替タンパク質は、大きくシェアを広げています。その勢いは信じ難いほどで、発酵代替タンパク質の関連企業に対するベンチャーキャピタル投資のうち、85%がこの1年半の間に行われています。
この機会を目にした世界の食品、ライフサイエンス企業の大手数社(DSM、デュポン、ノボザイムズなど)が、発酵をベースにした製品ラインや代替タンパク質産業に適したソリューションの開発を行っています。食肉事業で世界最大手のJBSは、Ozoブランドの植物由来製品の代替タンパク質に発酵を活用しています。
こうした成長がみて取れますが、さらに多額の投資が必要です。
発酵は、世界の食のあり方を根本的に変える好機となります。これまでに有望な発酵技術を開発してきた企業はありますが、まだ初期段階にあり、資金不足で、多くは欧米を拠点とし、数も少ないという状況です。発酵自体は、比較的成熟したプラットフォームではあるものの、そのプロセスのあらゆる段階、つまり、成分、供給原料、生産設備、風味と食感の改良などに、イノベーションと投資の大きなチャンスがあります。
例えば、発酵に使用する供給原料、つまり栄養源は、コストと持続可能性の両面に大きな影響を与えますが、微生物自体の増殖や組成、風味にも影響を与えます。従来の発酵プロセスでは、精製糖を主な供給原料としてきましたが、よりコストの低いものを利用したり、同時に他産業のプロセスのサイドストリームを利用して廃棄物をなくしたりするなど、大きな可能性を持っています。
また、世界で最大規模の発酵施設は、代替タンパク質の生産ではなく、他の産業向けに建設されたものです。発酵代替タンパク質のための施設は、最大規模のものであっても、食肉加工施設に比べて桁違いに規模が小さいのが現状です。そのため、製造能力とインフラをスケールアップするための資金流入の余地は、非常に大きいといえます。
経済シンクタンクのリシンクXが2019年に発表したレポートは、畜産業部門のディスラプション(創造的破壊)と崩壊の可能性を予測しています。ただし、この予測の大前提となっているのは、精密発酵のコストの漸減と質の向上です。
発酵を利用した製品が動物由来製品と同水準の価格になるためには、必要な規模および技術水準に到達するためのイノベーションと投資の促進が不可欠です。これが実現されることにより、発酵代替タンパク質の分野は、現代のタンパク質生産に大変革を起こし、より健康的、効率的、持続可能な世界の食料システムを構築する機会を、投資家に提供することができるようになります。
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