「アスファルトよりもシリコンを」—これは、都市モビリティの未来を見据えた重要なモットーである。交通渋滞など都市部の混雑がもたらす公害に対し、都市はデジタルツールを用いて既存の資源をより有効に活用することで、インフラの増設を避けることができる。新興国ではいま、このようなデジタル戦略が都市の持続可能性と成長を左右するものとされており、今後、気候変動などの環境対策としても欠かせないものとなるだろう。

都市の日常をどう変えることができるのか。新型コロナウイルス感染症の事例で考えてみよう。2020年初頭、「ピークを抑える」という言葉が世界中の新聞やウェブサイトで爆発的に広まった。これは、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保とマスクの着用がウイルスを排除できなくても、人工呼吸器の不足や集中治療室の病床のひっ迫、そして医療従事者の負担を軽減させることができる、という考え方にもとづく呼びかけであった。

感染拡大を抑える方法を学んだ私たちは、同じ原理を日常生活に適用できるだろうか。医療に限らず、全てのインフラは高速道路から電力網まで、需要がピークを迎えると過密状態に陥ったり、機能しなくなったりすることが分かっている。「ピークを抑える」戦略は、ここでも有効だろうか。

身の回りの交通手段に目を向けてみよう。例えば、ラッシュアワーのようなコントロール不能な交通需要の高まりは、都市のモビリティ・インフラにとって宿敵だ。通勤者たちは、似たような時間帯に出勤するため、高速道路を混雑させ、自分たちも渋滞に悩まされている。

その結果、カリフォルニア州のロサンゼルスでは日々シンフォニーのようなクラクションが鳴り響き、また、ナイジェリアのラゴスでは何時間にも及ぶ交通渋滞が発生し、運転手が車から降りて会話をしたり、即興のジャムセッションが始まったりすることは世界でも有名な話だ。しかし、このような交通渋滞の悩みは、環境への影響に比べればささいなことである。車が加速と減速を繰り返して走行した場合、燃費効率は悪化し、同じ距離を自由に走行するのと比較し、最大29倍もの汚染物質を排出する。

このような状況を打開するため、私たちに何ができるのか。単純に道路を大きくするだけでは、費用がかかり、ピーク時以外は使用されない遊休地と化してしまい、その効果は疑わしい。供給量を増やすのではなく、ピーク時の需要を減らす施策に舵を切り、環境に配慮した都市を目指すべきである。新型コロナウイルス感染症が発生してから、私たちが行ってきたワークスタイルの根本的な見直しに解決の糸口があるかもしれない。

現在、多くの労働者が混雑のピークを避けて出勤し、時差勤務で働いている。これは新型コロナウイルスの感染リスクを減らすだけでなく、渋滞の解消にもつながっている。新型コロナウイルス感染症流行の収束後においても、リモートワークを活用することで、軽やかなワークスタイルが実現できるのではないだろうか。ズームを使って朝の会議に出席して正午に出社する人や、早めに帰宅して自宅で勤務を終える人がいるとしよう。ラッシュアワーは2倍に長引くかもしれないが、その分、混雑は半分になる。また、車が渋滞に巻き込まれずに走ることができれば、排気ガスの排出量が減り、環境改善につながる。

ただし、こういった柔軟性が自動的に「ピークを抑える」ことに繋がるわけではない。政府がその方向に舵を切る必要があるのだ。そこで、政府はデジタルプラットフォームを活用することで、強力なインセンティブを提供できる。例えば、シンガポールでは、電子道路課金制度(ERP)により、交通量に応じて渋滞料金を請求している。IoT(モノのインターネット)が進むつれ、デジタルセンシングや個別インセンティブの導入(おそらくブロックチェーンを介して取引される)を通じ、様々な取組みを改善することができるのだ。

新興国における大都市は、従来の開発の段階を飛び越え、最先端のモビリティ技術を直接導入できる可能性がある。実際、そのような事例が通信技術分野で起きている。GSM協会の報告書によると、ウズベキスタンのスマートフォン普及率は2018年の45%から2025年には74%に上昇すると予測され、中南米やアフリカでも同様の傾向が予想されている。携帯電話の普及率の高まりはビッグデータ分析に役立つ。マサチューセッツ工科大学のサラ・ウィリアムズ教授が共同で立ち上げたDigital Matatusプロジェクトは、携帯電話の位置情報を研究することで、ケニア・ナイロビのインフォーマルな公共交通機関を見直すことを目指している。

不測の事態など、依然として混雑が避けられない場合もある。自然災害のような突発的で外生的な事象の際には、多くの人がインフラを同時に使用することは避けられないし、ワールドカップのようなイベントは、同じ空間で多くの人が感動をともに分かち合うためにある。

現在の交通渋滞は20世紀の都市交通計画のミスの遺物である。しかし、私たちはそれを乗り越えることができる。コロナウイルスによる急速な社会の変化が、私たちにそれを思い出させてくれた。今日我々が危機対応を講じるうえで重要であった「ピークを抑える」という考え方は、未来の我々が望む、「渋滞がなく、環境に優しく、誰もが住みたくなるような都市」を実現するためのツールとなるかもしれない。

カルロ・ラッティはマサチューセッツ工科大学都市計画学科の教授であり、デザイン事務所CRA-Carlo Ratti Associationの創立パートナーでもある。


*この記事は、世界銀行のブログを転載したものです。