働き方の未来:新型コロナウイルスからの回復後に、労働市場をリセットする5つの方法
テレワークが可能な人にとっては、この働き方が新型コロナウイルス後の「ニューノーマル」になる Image: REUTERS/Caitlin Ochs
- コロナ危機により「未来の働き方」が前倒しで実現しています。
- ロックダウンによってテレワークが広く普及し、自動化が促進、「ケアエコノミー」再評価の流れが世界的に増え、「ギグエコノミー」における社会的保護の欠如が一層浮き彫りになりました。
- リスキリング(再訓練)とアップスキリング(スキルの向上)、未来の仕事のサポート、再配置と再雇用の優先、「エッセンシャルワーク」の再評価と仕事の質の向上、パンデミック終息後を見据えた教育、スキルおよび就労システムのリセットという5つの領域で、「再構築による改善」ができる機会があります。
2020年のメーデー(国際労働者の日)は、新型コロナウイルスの大流行により、労働市場に壊滅的被害が生じている最中に訪れました。国際労働機関(ILO)の予測によると、パンデミックの影響により、世界30億人の労働人口のうち、半数近くが生計の手段を失う危機にさらされています。
多くの労働者にとって、ロックダウンは「未来の働き方」の到来を前倒しさせました。「未来の働き方」という言葉は、近年、生活の質を決定づける破壊的テクノロジーと経済構造的ファクターがもたらす機会や課題に関連して生まれたものです。
多くのホワイトカラー労働者にとって、「未来の働き方」とは、テレワークを意味します。また多くのサービス業従事者そしてブルーカラー労働者にとって、とりわけ企業が自動化を進めて未来のレジリエンスを強化しようと考えている場合に、それは、人が機械に置き換えられるかもしれない未来を開くものです。そして、ケアエコノミー、医療セクター、そして教育セクターで働く人々にとっては、自身の職業の意義と必要不可欠性がようやく世界的に再評価されることを意味し、インフォーマル経済やギグエコノミーなどの働き方をしている人々にとっては、社会的保護の根本的欠落と生計の不安定さに向き合わさせるものです。
雇用を守り、従業員と雇用主のつながりを維持し、大企業や中小企業の事業者を破綻から守り、そして、労働者や家計に収入サポートなどのセーフティネットを直接提供するために、待ったなしの緊急措置が求められています。これは多くの先進国と新興国市場が注力している取り組みですが、発展途上国ではさらに大規模な支援が求められています。私たちは、今この時を「再構築により改善」する機会と認識し、よりレジリエントな労働市場と、より平等な世界の基礎を築く機会としなければなりません。そのための5つの方法を紹介します。
1. アップスキリング(スキル向上)とリスキリング(再訓練)の強化
近年、政府、企業そして労働者は、第四次産業革命による破壊的革新に備えるべく、リスキリング(再訓練)とアップスキリング(スキル向上)に重きを置きはじめています。昨今の労働市場崩壊を招いたのは、ロボットの発展ではなくミクロの侵入者でしたが、一方パンデミックは、結果的に様々な産業やセクターでデジタル化と自動化を加速させることが明らかになりました。そのため、ヒューマンスキルとデジタルスキル両方のアップスキリング(スキル向上)とリスキリング(再訓練)に、新たな投資とメカニズムが必要になってきています。ロックダウンの中、デジタルでつながる労働者たちの間で、オンライン教育・トレーニングの産業に対する関心が急速に高まっていますが、欠かせないのは雇用主が労働者の再訓練に乗り出し、政府がアップスキリング(スキル向上)やリスキリング(再訓練)に関わる準備を積極的に進めて経済を大きく刺激し、パンデミック後の経済への準備を労働者に十分整えさせることです。
2. 未来の仕事像の策定
世界経済フォーラムは2020年初めに「未来の仕事」像を提示しました。これらの役割は主に、人々をケアする職業、地球を支える職業、新しいテクノロジーを管理する職業、そして、製品とサービスを伝える職業。具体的には、ケアエコノミー、グリーンエコノミー、人と文化、データとAI、エンジニアリングとクラウドコンピューティング、製品開発、そして、セールス、マーケティングとコンテンツです。パンデミックの影響で、病院、食料品店、学校など必要不可欠な職業に従事する労働者が果たす重要な役割が浮き彫りになったことから、ケアエコノミーの機会は増大すると予測されています。同様に、テクノロジー創出と管理、電子商取引、そして、より広範な知識経済の役割も成長し続けるでしょう。また、政府が経済の立て直しを図る中で、新たな成長と雇用の源もまた、グリーンエコノミー、科学・医療研究、デジタルインフラから生まれるでしょう。発展途上国では、未来の仕事への積極的で新しいアプローチがより一層求められます。なぜなら、過去のグローバル・バリューチェーンが見直され、それに伴い過去の製造中心の成長モデルもまた見直されるからです。
3. 再配置と再雇用の重視
リスクに瀕した労働者や失業者に対する積極的なサポートは、企業と政府にとって欠かせないものとなるでしょう。すでに多くの企業が短期サポートの提供を始めており、一時帰休となった労働者を低需要の職から高需要の職、例えば、物流やケア産業などへ、企業や業種の枠を越えて迅速に再配置する取り組みを行っています。
これを大規模かつ積極的に行うシステムが政府によって定められている国々の労働者は、そうでない国々よりすでにかなり良好な状態にあります。しかし、政府が次の財政刺激を検討するときには、再配置と再雇用のための労働市場サービスに重点的に取り組まなければいけません。具体的には、雇用情勢に関する情報提供、雇用市場の仲介(マッチングサービス)、求職支援などです。十年前、このような政策は、失業者の急増に対処することに成功しています。当時よりも失業者が大規模かつ急速に増えている現在、このようなサービスをさらに拡大し、パンデミック後の回復期に備えることが必須です。
4. エッセンシャルワークの再評価と仕事の質の向上
生活にもっとも欠かせないエッセンシャルワークの労働者が、低賃金かつ極めて不安定な地位にあること、特に多くの発展途上国で、公式非公式問わず、多くの労働者に基礎的な社会的保護が欠けていることが、日増しに明らかになってきています。
大恐慌と第二次世界大戦を経た後、米国では週休制など労働者たちの権利が正式に定められ、欧州では健康と収入安定に対するセーフティネットの創出、教育への投資拡大が行われました。しかし、経済の本質が変わってきたにも関わらず、法律、規制、そして賃金は労働者のニーズに追いついていませんし、多くの場合、雇用者のニーズにも追いついていないのです。危機の緊急性に対応するのと並行して、政府、企業と労働者の代表が連携して労働市場を管理する仕組みの改善に向けて、新たな歴史的転換をリードする必要があります。
5. 回復、リセット、再構築に向けた連携
雇用主、政府、労働者の国内外の連携は、危機からの回復に不可欠なものとなるでしょう。世界経済フォーラムでは2020年1月、よりよい教育、スキルそして職を2030年までに10億人に提供することを目指す「リスキリング革命」プラットホームの発足を発表しました。現在このプラットホームでは、目下の危機の中でパンデミック後の回復を見据えたベストプラクティスの交換や、再構築により教育・スキル・就労システムの改善に取り組んでいる政府、企業、教育者を支援。労働者や学生への援助に尽力しています。
パンデミック危機は、過去のシステムの不備や不平等をこれまで以上に露わにしています。その一方で、世界のリーダーの意識を、人間の生命・能力・生活という基本的価値へ再び向けさせています。パンデミック危機は私たちのもっとも重要な資産、ヒューマンキャピタル(人的資本)への投資の機会を開く入り口なのです。
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