• 新型コロナウイルスによるロックダウン措置の影響で、介護者の負荷はさらに増加しています。
  • 無給の介護という不均衡が女性や少女たちに及ぼす影響は、ジェンダー不平等の主な側面のひとつです。
  • この危機は、介護の形を変え、家庭および職場におけるジェンダー平等を促進する機会でもあります。

新型コロナウイルスの大流行により介護の必要性が増し、予期せぬ大きな課題が提起される中、介護者を認識し、評価し、性差による偏向を減らしていくことの緊急性が高まっています。特に、リソースが限られ、患者の多くが入院できない状況において、新型コロナウイルスの患者とその家族にとって、緩和ケアおよび終末期ケアは必要性の高いものになると考えられます。

さらに、新型コロナウイルスの一層の拡大を抑えるための自宅待機やロックダウンの措置により、子ども、高齢者、病気や障がいに苦しむ人々の世話も家族で行うことが求められるようになっています。介護者は今、家庭、学校、デイケアなどで有償で働く専門家の手を借りることなく、愛する人たちの世話をしなければならないという問題に直面しており、その増大するストレスは多くの場合女性たちにのしかかってきています。職場での責任を果たすことと介護の両立を目指す人もいますが、職も、家族以外との接点も持たない生活に身を投じることになる人も増加しています。

介護は、世界中の女性と少女たちに不均衡にのしかかっている、リソース不足の無給の仕事です。家族や愛する人の世話をする人は、有給の仕事と無給の介護の責任を果たし、さらに、犠牲となりがちな自身の個人的なニーズを満たすことと健康をかえりみることを両立させる中で、多くの課題に直面しています。しかし、介護者の仕事というものは、従来の経済的生産性指標では測ることができないため、その大部分は見過ごされてしまっているのです。

ある調査によると、米国には病気の人、障がい者、高齢者を無給で支える家族介護者が6500万人いることが明らかになっています。「欧州における生活の質調査」のデータによると、欧州だけでも約1億人の介護者がおり、EUの人口の20%を占めているとされています。「女性と健康に関するランセット委員会」は、国際保健分野における女性の有給および無給の貢献は、実質的な経済的価値として世界のGDPの約5%、2018年では4.2兆米ドル以上に相当することを明らかにしました。この無給の仕事の約半数は介護です。概して、世界で介護に費やされる時間の70%以上を担っているのは女性や少女たちです。

介護と仕事の両立が困難になった場合や、仕事で求められることを行うなら介護の責任が果たせなくなる場合、介護者は、労働時間の短縮や休職を余儀なくされることがあります。このことは、職場に平等に参画する能力に影響を及ぼします。

イメージ: Embracing Carers™

欧州のデータでは、介護の責任を負う男性の大半がフルタイムで働く一方、フルタイムで働けている女性の介護者は、全体の半数のみということが明らかになっています。これは、女性の介護時間が男性の約2倍であることが大きく影響しています。

介護者はまた、自分自身の健康と幸せを犠牲にしてしまいがちです。調査では、家庭で重い介護の責任を負う女性は、より大きな身体的および精神的ストレス要因に直面していることも分かっています。家族介護者のほぼ半数がうつ病に苦しみ、45%が介護を行っていることで自分の診察予約をしたり病院に行ったりする時間を持つことができていませんでした。これでは、介護者自身が病気になり、逆に介護を必要とする立場になってしまう危険性すらあります。

無給の介護が女性や少女たちに不均衡にのしかかることによる影響は、彼ら自身やその家族、そして医療システムや経済にも多大な損害をもたらすジェンダー不平等の主な側面のひとつです。マッキンゼーによる最近の調査によると、女性たちが「100%の潜在能力」を発揮できるようになり、労働市場で男性と同等の役割を担えるようになれば、2025年までに世界の年間GDPは28兆米ドルまたは26%も増加するとされています。世界銀行の調査は、男女間の所得に格差があることで、調査された141の国々で失われたヒューマンキャピタル(人的資本)の富は、1人あたり25,000ドルを超えるとしています。これは、世界のGDPの約2倍の価値に相当します。

この前例のないパンデミックに直面する中、家族や愛する人を無給で世話するという介護者の重要な役割を認識し、適切に支えることが、障壁を取り除き、介護者の健康と幸せを守り、ジェンダー平等を促進するためにこれまで以上に大きな意味を持ちます。

メルクでは、新型コロナウイルス大流行の影響で、女性と介護者の満たされていないニーズに対応するため、科学的根拠に基づく方針および実践の開発を進めています。メルクは、世界中の主要な介護組織のグローバルな共同ムーブメントであるEmbracing Carers™を主導し、グローバルヘルス上の優先事項として、見落とされがちな介護者のニーズに関する認識と議論の深化に取り組んでいます。この組織は、新型コロナウイルスの勢いを食い止めるために必要なフィジカルディスタンシング(物理的距離の確保)の実践を支援し、ケアを必要とする人たちをバーチャルで受け入れる新しい方法も開発しています。

また、メルクは女性の健康増進により女性の経済参加を推進することを目的とする、国家政策である「健康な女性と健全な経済」の民間部門リーダーでもあります。「健康な女性と健全な経済政策ツールキット」は、職場での改革の方法を含め、これらの政策に関するガイダンスを提供しています。その多くは、新型コロナウイルスに対するより強力でよりジェンダーの視点を取り入れたアプローチとも一致します。新型コロナウイルスを受けて実施されている国民所得支援プログラムは、介護を必要不可欠なサービスとして扱い、性別を問わず家族全員を支援することにより、ジェンダー平等の促進にも活用できるはずです。

介護ニーズを満たすため、有給雇用されている家族が必要な休暇を取れるようにし、彼らの労働環境を整え、より柔軟な勤務形態を導入する政策が求められています。それは、個人および家族が仕事と介護のより良いバランスを実現できるよう支援することにつながります。

私たちは、この前例のない事態の中で、女性や少女たちが直面している特有の課題と満たされていないニーズに取り組み、健康と幸福を総合的に改善するため、ジェンダーの視点を通して新型コロナウイルスをとらえる必要があります。そして、女性と少女たちを中心に据えながら新型コロナウイルスからの復興を目指すことができるよう、国連が行動喚起で提唱するように、有給および無給のケアエコノミーに対する取り組みを進めることで、平等のための根本的な変化を促進していかなければなりません。

世界が新型コロナウイルスへの取り組みを進めている今こそ、危機を機会に変える時です。介護の世界を変革し、家庭と職場におけるジェンダー平等を促進する革新的な解決策を見つけ、実行する時なのです。