• 「ブルーフード」とも称される水産食料資源は、持続的かつ健全な方法で人々に食料を供給する上で大きな役割を果たします
  • 海洋環境の保全への取り組みにおいて、陸上の食料生産で犯した間違いを繰り返してはならない
  • 持続可能な未来への変容には、分野や国を超えた協力が必要

陸地で行われる食料生産の環境コストや、健康に与える損害について懸念が高まっている今、食料システム全体の変容において、海洋や水産食料資源が果たせる役割に焦点を当てるべき時が来ています。

世界の食料システムを科学的に変革する事を目的とした、非営利団体EATによる「持続可能な食料システムによる健康的な食生活に関するEATランセット委員会」は、赤身肉など環境への影響が大きい動物性たんぱく質の消費量を減らすことによって、増加する世界の人口に持続可能かつ健康的な方法で食料を提供することを提案しています。水産食料資源の消費拡大は、健康的な食文化の重要な要素ですが、地球にとって持続可能な範囲での生産を維持すると同時に、これを達成していくことができるのか、その方法を明らかにしていく必要があります。水産食料資源を持続可能な方法で拡大できれば、雇用創出や生活向上など健康面、環境面そして経済面において膨大な機会を創出できる可能性が高まります。それは、海洋が直面している緊急課題に対応していく、千載一遇の機会にもなります。

天然物、養殖物に関わらず、魚、貝類、藻類など食用に適したすべての生物を意味する水産食料資源は、現在、約30億人の食生活の基盤となっており、将来の人々の食生活において、その重要性はさらに高まると言われています。水産食料資源は、タンパク質や必須微量栄養素の重要な摂取源であり、2型糖尿病などの非伝染性疫病のリスクを下げると言われているものの、食事を基本とした、ホリスティックな栄養治療としての活用度は低く、研究もまだ十分に進んでいません。主要微量栄養素が不足した食事をしている人の数は、20億以上と言われている今、栄養価が高い小魚を中心に水産食料資源を入手しやすくすることによって、世界的な栄養不良の傾向を転換させ、大きな社会的・経済的な恩恵をもたらすことができるでしょう。

ただし、水産食料資源の成長の可能性や、主要な健康効果のみに焦点を当てるのは、表の側面しか見ていないことになります。その裏側では、魚の乱獲や沿海部の汚染拡大、そして異常な速度で進んでいる気候変動と海洋の酸性化によって、今までにない負担が海洋にかかっていることは周知の事実です。

この海洋への負担を軽減する手段として、水産養殖が、地域レベル、そして世界レベルの食料システムにおいて、ますます大きな役割を果たしてくれるのではと多くの期待を寄せられていますが、急成長を遂げている水産養殖業を見てみると、養殖の環境的な限界についてはほとんど解明されていないことに気がつきます。魚と貝類の環境フットプリントは、赤身肉よりもかなり小さいというのが一般的な理解ですが、こうした影響は、養殖対象となる種類や生産方法によって大きく変わってきます。熱帯地方で収穫された大豆をサケに餌として与えた場合を考えると、輸送と、場合によっては森林伐採によって発生する二酸化炭素ガスの問題が出てきます。養殖生産を持続可能な方法で拡大していくためには、餌、生産方法、種類と疫病といった、生産に関わるあらゆる要素が「プラネタリー・バウンダリー」に与える影響を、至急、明らかにしていく必要があります。

水産食料資源の世界を深く突き詰めていくと、複雑な現実に突き当たりますが、私たちには、人間と地球に対して、陸上の食料生産で犯した過ちを繰り返さないようにする義務があります。そして、話を先に進める前に、水産食料資源によって、持続可能な「プラネタリー・バウンダリー」の範囲内で食料生産を行ったうえで、100億人の栄養必要量を満たすことが、本当に可能なのか問う必要があります。

持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル」による最近の報告書「海洋からの食料の将来」は、それを実現可能としているもの、水産食料資源の捕獲と生産の方法によって大きな違いが出てくるという補足をしています。水産食料資源の潜在的な生産能力を拡大していくためには、捕獲漁業の改革、厳格な保護限度の設定と執行、そしてイガイなど餌をやらない養殖種の重要性を高めていくといった形で、持続可能な水産養殖を拡大することが不可欠でしょう。

知識のギャップを早急に埋めていくため、現在、スタンフォード大学海洋研究センターストックホルム・レジリエンス・センターが、健全、持続可能で公正な食料システムの将来における水産食料資源の役割を科学的に検討する試みを、EATおよびフレンズ・オブ・オーシャン・アクションとの連携により共同で行っています。この水産食料資源評価は、EAT・ランセットの報告書を補完する形で既存の科学をさらに広げ、水産食料資源を健全で持続可能な食料システムに統合する際の環境面、栄養面、社会正義面での影響を体系的に検討しています。

しかしながら、食料システムの転換というパズルにおいて、知識はひとつのピースに過ぎません。水界生態系の健康を確保、修復し、増大する人口に対応すると同時に、健康に良い食べ物の生産を拡大していくには、今すぐに行動を起こす必要があります。鍵となるのは、水産食料資源を分野横断的で総合的なアプローチ、つまり、陸上の農業と隔離された別のものとしてではなく、全体的な世界食料システムに統合されたひとつの要素として捉えていくことです。

The contribution of seafood to animal protein supply across the world
世界で摂取される海産物対動物性タンパク質の寄与率
イメージ: Eat / Stockholm Resilience Centre

ひどく汚染された川や水路によって沿海部に藻類が異常発生していたり、動物の餌にフィッシュミールが使用さていたりするなど、陸地の食料生産システムと水産の食料生産システムは、もともとつながっています。政府、企業、科学者、市民社会、市民はこのようなつながりを深く理解した上で行動し、解決策を考えていくことが重要です。

水産食料資源が食と栄養の安全において重要な役割を果たし、人々の生活と健康に貢献しているという認識を持ち、水産食料資源を国家の食料政策に組み込んでいくべきです。さらに、水産食料資源に関する政策を連携させるため、水産、健康や貿易の担当省庁が協力していかねばなりません。捕獲漁業の長期的な持続可能性は、乱獲漁業、不法漁業、そして無秩序、未報告の漁業の撲滅など、優れたガバナンスに大きく依存しています。ハイレベル・パネルの報告書は、捕獲漁業を十分保護することにより、漁獲量を現在よりも20%も増加することができると示しています。

必要な変革を行っていくには、多額の投資、そして分野や国を横断した協力が必須です。このためフレンズ・オブ・オーシャン・アクションは、イノベーションを奨励し、水産の食料生産システム関連の政策と商慣行に変化をもたらすことを目的とした、マルチステークホルダーが参画するブルーフード連合をEATらのパートナーと共同で構築しています。

水産食料資源は、人口増加に対応して食料生産を増加させる機会を提供していますが、水産システムはすでに環境の限界を超えたところまで追い詰められています。環境コストと人間の栄養に十分な配慮を払わず、カロリー上の生産を増加させることのみに集中した「緑の革命」の過ちを繰り返してはなりません。私たちの青い惑星とそこに住む人々が、健康的に繁栄する将来を確保するためには、科学、市民社会、そして官民両部門の連携と協力を拡大していくことが不可欠です。