グローバル・フィンデックス・データベース2017によると、世界には銀行口座を保有していない(適切な額の貯蓄を持たないか、融資を受けられない)人はおよそ17億人。東南アジアでは、正規の銀行口座を保有している成人は全体の27%、正式な資金調達ができる企業は33%にとどまっています。東南アジアはこの数十年で飛躍的な成長を遂げてきましたが、ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)はいまだに進んでいません。

中でもフィリピン経済は、好調な経済状況と堅調なマクロ経済のファンダメンタルズを背景に、年率5.3%のペースで成長を続けてきました。しかし、フィリピン経済の活力源である中小企業が直面している障害を解消しない限り、こうした好調な成長を持続的かつ包括的に達成することはできないでしょう。

フィリピンでは中小企業が全企業の99.6%を占め、労働力の65%を雇用していますが、中小企業の国内総生産(GDP)に占める割合は35%にすぎません。したがって、中小企業セクターに発展の余地が大いにあることは明らかであり、そうなれば、雇用拡大、所得向上、イノベーションおよび価値創造の機会が開かれるでしょう。

イメージ: グローバル・フィンデックス・データベース

企業への融資不足

中小企業が直面している最大の課題は、融資を受けるのが困難なこと。東南アジアでは、中小企業の33%が十分な融資を受けておらず、与信枠も提供されていません。フィリピンではさらに深刻で、正規の融資を受けられていない中小企業の割合が50%に達しています。

そのため、中小企業は事業で最大限の能力を発揮することができません。例えば、大企業や政府機関のサプライヤーである中小企業は、キャッシュフロー・ギャップが大きな障害となって成長の可能性が制限されています。また、零細企業の経営者は、仕事があっても受注するだけの資金がないため、せっかくのビジネス・チャンスも断念せざるを得ません。こうした状況を生み出している主な要因は、大企業と中小企業の立場の差です。つまり、大企業(買い手)が交渉で優位に立ち、中小企業(サプライヤー)への支払期限を可能な限り先に延ばしてしまうため、中小企業の経営者は支払いを受けるまでに数カ月、場合によっては数年間も待たなければなりません。

また、大企業(買い手)からの売掛金の回収がなかなか実現しない一方で、経費は積み上がっていくため、資金の必要性は切実になっています。この状況を打開しようと、中小企業の経営者は自らの個人資金を使ったり、家族や友人から借金をすることも少なくありません。さらには、取引ごとに融資額の10~50%の利息を請求する法外な非正規の貸し手に頼ることさえあります。

大半の銀行は融資を供与するにあたり、担保として多額の銀行預金や不動産を差し入れるよう求めますが、当然ながら中小企業にはこれらに代わる適切な担保などありません。また、入手可能な信用情報がなく、コンプライアンスの文書に関する銀行や政府の指針もないため、融資の引き受けに時間がかかるのも無理はありません。

中小企業向け融資にイノベーション

過去の信用実績が乏しいことは、中小企業に悪循環をもたらします。つまり、正規の金融機関では、情報が欠如している融資申込書は自動的に却下されるため、そうなると、中小企業はこれまでの非正規の資金調達手段に戻るしかありません。

この状況を解消するために取り組むべきは、どうすれば正規の金融機関との取引実績がなく、十分なデータがない中小企業向けの融資を簡略化できるのか、という問題です。

フィリピン政府は、国内のクレジット・スコアリング能力を高めようと、その手段を積極的に模索。2008年にクレジット・インフォメーション・コーポレーション(CIC) が設立し、借り手に関する完全なクレジット・レポートの作成に必要な関連情報を照合、提供しています。CICのクレジット・レポートにより、貸し手と借り手の両方に役立つクレジット・スコアが構築されるため、取引が成立する確率が高まるほか、取引コストが低下し、貸し手と借り手の間の透明性も向上します。

クレジット・スコアリングの伝統的なデータ・ポイントと新しい形のデータ・ポイントを統合したFinTechイノベーションにより、これまで銀行口座を保有したことのない個人に信頼できる新たなクレジット・スコアを構築することが可能になりました。フィリピン政府が支援するファースト・サークルをはじめとするスタートアップ企業は、ソーシャル・メディアやソーシャル・ネットワーク、携帯電話のデータといった入手可能な情報源を利用したり、サプライチェーンのネットワーク上に独自のデータベースを構築して融資の実行可能性を判断したりすることで、過去に借入実績のない企業にサービスを提供するという課題に取り組んでいます。その結果、これらのスタートアップ企業は、中小企業から提示された取引に対して独自のリスク・スコアを構築し、伝統的な信用データがない中小企業の信用力を証明することが可能になりました。

これと並行して、レンドーや アヤンナといった著名なFinTech企業が、個人の消費者向けの包括的なクレジット・スコアリング・システムを構築するために、先陣を切ってビッグデータを活用。FinTech企業は、クレジット・スコアリングのための伝統的なデータ・ポイントと新しいデータ・ポイントを統合することで、これまで銀行口座を保有したことのない個人についても信頼できるクレジット・スコアの構築を可能にしました。

東南アジアのFinTech企業は、伝統的なクレジット・スコアリング手法を一新することで、数百万の個人と企業が金融サービスを利用できるようになる飛躍的な進歩をもたらしています。革新的な技術によって新しい形のデータを創造的に活用する道が開かれ、東南アジア地域で銀行口座を持たない人々や銀行システムを利用していない人々の成長を加速させるという課題への取組みが、遂に始まりました。