自然と生物多様性

IUU漁業の撲滅に貢献する、先端技術と国際協定。今こそ最大活用を

無法者の漁船を拿捕するのは依然容易ではないが、そうした漁船を検知できる技術は存在している。

無法者の漁船を拿捕するのは依然容易ではないが、そうした漁船を検知できる技術は存在している。 Image: REUTERS/David Gray

Jim Leape
Core Team, Blue Food Assessment; Member of Friends of Ocean Action; Co-Director, Stanford Center for Ocean Solutions
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監視の目がほとんど届かない海で横行している違法行為。毎年、数百万トンもの魚が違法に漁獲されています。それに伴う経済的な損失も莫大で、数百億ドルにものぼると推算されています。これは同時に、食料安全保障にとってもさらに深刻な脅威となっています。世界では10億人がタンパク質を魚に頼る食生活を送っていますが、魚を主なタンパク質源としている国の多くでは、その魚の3匹に1匹が違法に漁獲されたものなのです。IUU漁業(違法・無報告・無規制に行われている漁業)は、漁業資源を管理する各国政府の取り組みを阻害するとともに、法規制を遵守する数多くの漁業者を不公平な競争にさらしています。

IUU漁業には人権問題も潜んでいます。IUU漁船が奴隷を運んでいるケースも少なくなく、無理矢理乗船させられて非人道的な扱いを受けている人たちは膨大な数にのぼります。

IUU漁業は安全保障にも脅威を与えています。まず、IUU漁船が麻薬や武器の密売やマネーロンダリングに関与しているケースがしばしばみられます。また、IUU漁業によって沿岸国の食料安全保障と住民の生活が崩壊すると、その地はテロリストが雇われる温床と化してしまいます。例えば、西インド洋やギニア湾では海賊行為が激増していますが、その背景には外国漁船によるIUU漁業が多発したことで、周辺地域の生活を支えていた漁業資源が激減してしまったことがあります。

これまでは、IUU漁船を取り締まる有効な手立てはありませんでした。その理由としてはまず、IUU漁業は便宜置籍船を利用して船籍国を変更し、身元を隠しながら行われていることが挙げられます。また、多くの法執行機関が漁船についての十分な情報を保有しておらず、登録や所有者のみならず、どの水域での漁業認可を受けているのかもほとんど把握していません。さらに、海の広大さがネックとなり、IUU漁船を外洋で拿捕するのは至難の業となっています。中でも無力なのは小島嶼開発途上国で、非常に豊かな漁業資源に恵まれていながらも、領海を監視する能力やIUU漁船を拿捕する能力がきわめて限られています。

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しかし、IUU漁業者を特定して、IUU漁船を入港させないことや、IUU漁獲物を市場で流通させないことが可能になれば、外洋でIUU漁船を拿捕する必要はありません。

実は、それが可能になる見通しが立ってきたのです。水産業界では、テクノロジーの進化によって新たな透明性が確保されてきています。また、主要な市場参加者が原産地証明書を求める傾向も強まっています。国際社会では、IUU漁獲物を自国の港で水揚げさせないことで各国政府の間で同意が得られつつあります。

大型の遠洋漁船には、漁船同士の衝突事故を防止するために、トランスポンダーの搭載が義務づけられています。トランスポンダーから発信される電波は人工衛星が受信します。この仕組みを利用して、グローバル・フィッシング・ウォッチなどの団体が現在、世界中で操業中の漁船を追跡しています。それだけでなく、いつ、どのようにして漁業が行われたかを把握できるアルゴリズムも開発されています。将来的には、顔認識が可能なビデオカメラを漁船に搭載して、漁獲物の識別や漁獲量のカウント、さらには船員の扱いの監視までが行える機能を追加して、このシステムを強化していく予定です。一方、ブロックチェーンなどの技術を活用すれば、漁獲されたその瞬間からスーパーマーケットの店頭に並ぶまでの全工程で漁獲物の追跡が可能になります。

こうした技術の進歩によって完全なトレーサビリティが可能になりますが、今後はサプライチェーンの全段階で漁獲物を購入する企業が完全なトレーサビリティを要求する動きに拍車がかかりそうです。実際に、トレーサビリティを重視する動きはすでに生じています。例えば、マグロ類2020トレーサビリティ宣言では、漁獲した漁船と流通経路を完全に追跡できるマグロ類のみを購入する体制を2020年までに整えることを66の主要な小売業者や加工業者が誓約しています。また、海洋管理のための水産事業(SeaBOS)イニシアチブでは、大手水産企業10社が海洋管理のための取り組みを推進していくことを宣言しています。

一方、各国政府も本腰を入れる構えをみせています。2016年には、違法漁業防止寄港国措置協定(PSMA)が発効しました。国連食糧農業機関で発効したこの協定は、IUU漁業に関与した船からの漁獲物の水揚げを防止することを目的としています。同時に、IUU漁業への対抗に向けて各国が協働する上で、強力なプラットフォームの役割を果たします。

PSMAの成否は、関連する国すべてが取り組みに参加できるか、そして各国が連携しながら取り組みを推進できるかにかかってくるでしょう。何よりもまず重要なのは、IUU漁船をどの国にも入港させないために、主な寄港国と旗国のすべてが取り組みに参加することです。PSMAには現在、85カ国とEUが締約しています。これに加え、重要な漁獲国のいくつかが間もなくPSMAを批准すると発表していますが、さらに多くの国に批准を促すことが急務となっています。

PSMAに加わってからは、他国と協力してPSMAを効果的に実施していくことも同様に重要になります。まず、すべての漁船について、その登録や所有者のほか、どの種類の魚を漁獲する認可を受けているかや、どのような漁業を行ってきたかなど、基本的な情報を各国間で共有することが求められます。また、港間で情報をリアルタイムで交換できるシステムを構築することも欠かせません。このシステムがあれば、ある港に入港できなかったIUU漁船が別の港に入港するのを防ぐことができます。さらに、開発途上国の港がPSMAの取り組みに必要な資源と能力を確保するためには、豊かな国からの支援が必要になります。

海はあまりにも広大すぎて、水平線の彼方に消えゆく無法者の漁船を拿捕するのは依然として容易ではありません。しかし現在は、法を犯す漁船を検知できる技術や、その命綱を断つ手段、すなわち漁獲物を水揚げ港や流通市場から締め出す手段が存在します。科学技術者、企業、政府が一致団結して取り組めば、IUU漁業が横行せず、それがもたらす多くの脅威も存在しない平和な海を取り戻せるのです。

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