気候変動への取り組みにもがく欧米諸国:開発途上国は差別化をはかる事ができるか
中国はパリ宣言を達成しようとする国のひとつに Image: 画像:ロイター/Stringer
この記事は世界経済フォーラムの年次総会の一部です。
すでに多くの人々が、気候に関する政府間パネル(IPCC)の緊急警告を耳にしています。世界の気温が1.5℃上昇すると、その影響は当初考えられていたものよりも大きいことを示したうえで、私たちはたった10数年後の2030年までに、壊滅的な気候変動を回避しなければならないとIPCCは結論づけています。
どの国においても、完全な脱炭素化の実現はハードルの高い課題であり、聞こえの良いスローガンにしかすぎない場合が多いでしょう。しかし、世界最大の経済圏である中国と米国に目を向けた場合、この難題を解決しそうなのはどちらでしょうか。北京は経済成長の環境コストを認識しているように思われ、その是正のための取り組みを開始しています。ワシントンは気候変動に関する唯一の国際合意から脱退し、米国の環境保護主義者たちは、米国の環境保護政策がこれ以上縮小されないよう必死に抵抗しています。
ある国では、過剰な消費による高水準の生活に国民は慣れてしまっています。外部費用を人々や企業に求めることは支持されず、大きな抵抗感さえあります。ここ数か月の間、フランスでは、燃料税の増加に対する大規模な抗議運動が起きました。気候問題に関してマクロン大統領が進めるグローバル・リーダーシップにもかかわらず、抗議運動は、求められる変化をもたらすことがいかに難しいかを示しており、この結果、燃料税の増加は見送られています。
しかし、人々が持続可能性や気候問題への対応の重要性を理解していても、欧米諸国の取り組みは「弱い」のです。国内経済や既得権益に対して継続的かつ毅然と介入することができるガバナンス構造がないためであり、国民の姿勢に変化をもたらすことができないことは言うまでもありません。
欧米諸国が気候問題に対する専門的知見や対応力を明確に有しているとしても、適切な政治構造や政治的意思が欠けている場合が多いです。例えば、米国政府は先日、N全米気候評価報告書を公開しました。13機関が作成に携わったすばらしい資料であり、気候変動が米国経済や国民の生活に大きな影響をもたらすと予測しています。しかし、これらの機関を担当する政治任用官は、この報告書の公開日を感謝祭の翌日に決めました。主要メディアがほとんど注目しないタイミングだと考えたからです。もし注目を受けたとしても、派閥中心の政治や、与野党ともに利己的で短期的な政治的利益を追求する政治家たちを踏まえると、適切に対応することはできなかったでしょう。
欧米諸国が、気候変動や、より一般的に持続可能性に対して行動を起こすことができない(あるいは起こさない)のであれば、開発途上世界が欧米諸国に代わって牽引する役割を担わなければなりません。
最後に、恐らく最も重要な点として、開発途上国は欧米の自由市場経済モデルに付随していないことです。発展途上世界は独自のジレンマを抱えます。大多数の貧困層のために生活水準を向上させ、生活の基本的権利へのアクセスを拡大させながら、持続可能な方法で資源を消費しなければなりません。欧米の自由市場モデルは低価格化により資源の消費を促進させます。このモデルは短期的な成長を促進させますが、世界全体にこのモデルを適用すると、開発途上国のみならず地球全体が破滅に追いやられるでしょう。
巨大な発展途上国がこの問題に対処するためには、経済と資源開発のガバナンスの欠如が究極的に持続可能性の危機を招くことを理解することが最も必要です。そのため、この問題への対処を成功させるために発展登場世界に求められるのは、より大きく強力なガバナンスなのです。そして、力強い行動をとるための権力と権限を持つ唯一の主体である国家のみが実現可能なのです。各国政府にその意思や能力がなければ、持続可能性に向けたグローバルとローカルの取り組みは功を奏しません。また、各国政府は、持続可能性に向けた取り組みにおいて自国の利益を追求することで、その正当性を示すことができるでしょう。
多くの環境問題を抱えるにもかかわらず、中国が持続可能性の危機と気候問題への取り組みをより良く進めているのはこのためです。より強力な国家権力により、資源のより良い利用と外部費用の最小化を奨励するために国内経済に介入することができます。国連はパリ宣言の達成に向けて進展する 3カ国のひとつに中国を挙げています(その他は日本とブラジル)。
私達は、巨大な開発途上国がより強力な行動をとり始めている徴候を確認しています。本年初頭に中国は、プラスチック廃棄物の輸入を禁止しました。東南アジア、南アジア、そしてアフリカの各国政府はビニール袋の使用禁止を導入し始めています。しかし、こうした動きは依然として非常に小さく、各国政府によるより直接的な行動が求められるでしょう。
ただし、こうした取り組みが行われている以上、外部から傍観する側は批判するのではなく称賛しなければなりません。持続可能性の危機は、強力で直接的な行動のみが解決できる規模です。私たちのあらゆる予測や信念の多くを見直さなければならないでしょう。この存続に関わる脅威に対して誠実に対峙することが必要なのです。
もし欧米諸国がこれをできないのであれば、その役割は巨大な開発途上国やより強力な経済圏に降りかかるでしょう。
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2024年12月16日