東京のある期間限定レストランが、障がいを持つ人々を接客スタッフとして雇用するという実験的な試みを進めています。ただし、これはよくある試みではありません。分身ロボットカフェDAWN ver.βのスタッフは自分たち自身で注文を取りテーブルを片づけるのではなく、自宅にいながらにしてロボットを操縦しているのです。

このロボットの開発者は、オリィ研究所代表取締役の吉藤「オリィ」健太郎氏。結城明姫氏と椎葉嘉文氏との共同で同研究所を創設しました。遠隔操作型ロボットのOriHime-D(オリヒメディー)は、社会的孤立の課題を解決するための技術を利用した既存プロジェクトの一部です。全長1.2メートル、無表情の白い顔は日本の伝統芸能で用いられる能面を連想させます。このロボットは動画と音声を自宅からスマートフォンやタブレットで操作するスタッフに送信します。

このカフェは、2008年に公開されたロボットと人間が等しく共存するアニメ―ション作品「イヴの時間」と似た設定に因み名づけられました。作業が進行中であることから、カフェの名前には「ver.β」(ベータ版)と付け加えられています。

トライアル期間中に使用した5体のOriHime-Dを操るのは10人のチーム。チームメンバーは最もよく知られる運動ニューロン病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者などさまざまな状態にある人たちです。スタッフの時給は一律で1,000円。日本の最低賃金よりもやや高くなっています。

ポテト付きですね‐注文をとるOriHime-D。
イメージ: 画像:オリィ研究所

OriHime-Dは、身体が非常に不自由な人々でも相互作用し操作することができます。オリィ研究所は、目だけしか動かせない人でもこのロボットを操作することができるところを見せる動画を制作。他には病床にいる男性がOriHime-Dを使って側で待つ吉藤氏にコーヒーを渡す動画も公開されています。

吉藤氏は、社会に貢献する技術の利用に関心を持つ発明家としてすばらしい実績持っています。健康上の理由から10歳から14歳までは学校に通えませんでした。その後、2005年のインテル国際学生科学技術フェア(ISEF)に、縁石を克服し走行できる車椅子の研究で日本代表として出場。学校に通えなかった経験が結果的にOriHimeの開発へと彼を導いたのです。彼はOriHimeを、逆境や障がいを克服し、分身を通じて積極的に社会に参加しにようとする人々を支援する方法と考えています。

世界で7,500万人が車椅子を必要としていますが、実際の使用者はそのうちのわずか5%~15%のみです。また、支援を受けることができない視覚障がい者は世界で2億人、聴覚障碍者は4億6600万人にのぼります。しかし近年、障害をもつ人を助けるアシスティブ・テクノロジーが注目を集め始めています。

英国シェフィールドで最近開催されたハックセッシブルと呼ばれるハッカソンでは、障がいを持つ人々のアクセシビリティを改善するためのツールとデバイスの開発に焦点が当てられました。優勝したプロジェクトは、1枚刷りの楽譜をスキャンしてアイパッドから音を流すことで、視覚障がいを持つ人でも簡単に楽譜を読むことができるシステムでした。

米国MITの研究者は、声を出さずにコンピューターに話しかけることができるデバイスを開発中です。オルターエゴと呼ばれるウェアラブルデバイスは、何かを話す際に顎と顔の神経筋から出るわずかな信号を、電極を利用して検知します。

テクノロジーを使用すれば克服することのできるアクセシビリティの障害は依然として多く存在しますが、ロボットはいくつかの状況ですでに使用されています。東京の特別養護老人ホーム新とみは、異なる20体のロボットを現場に導入して、運動を支援する機能やぬいぐるみを使って対話する機能まで、居住者介護のさまざまな場面で活用しています。

Dawn ver.βの実験運営の終了後、OriHimeチームは、近い将来に常設でカフェを営業していくための資金確保ができればと期待します。

吉藤「オリィ」健太郎氏(後列中央)とDawn ver.βカフェチームのメンバーたち。
イメージ: 画像:オリィ研究所