複数の惑星に住む種となることは、人類の未来を守り、その潜在能力を最大限に発揮する助けとなる可能性がある。
複数の惑星に人間が居住すれば、イノベーションと実験の新たな拠点が生まれ、科学、技術、商業の進歩につながる。
有人宇宙飛行への政府および民間部門の支出を大幅に増やすことは、長期的なリスクに備える国家および国際安全保障への投資である。
2021年、民間が企画した初の飛行で民間人の乗客が、地球と宇宙の境界線を越えて運ばれ、宇宙探査の新時代が幕を開けた。Virgin Galactic、Blue Origin、SpaceXが実施した3回の飛行について、メディアの報道の多くは「すごい」という類いのものか、こうした取り組みを不平等の象徴と見なすものだった。そのため、有人宇宙飛行にどのような価値があるのかという問いには、ほとんど答えが出ていない。
宇宙探査の支持者は、太陽系の遠方やその先にロボット探査機を送り込めば、人を送るよりも低い費用とリスクで、宇宙について知るべきことを学べると主張することがある。しかし、子孫の安全を守り、人類が潜在能力を最大限に発揮するためには、複数の惑星に住む種とならなければならない。
存亡に関わるリスク
オックスフォード大学の哲学者トビー・オードによると、人類が今世紀中に絶滅する確率は6分の1である。著書『The Precipice: Existential Risk and the Future of Humanity』で、オード博士は、存亡に関わると同時に、軽減が非常に難しいさまざまな長期的リスクを挙げている。これには、小惑星、大規模な火山噴火、恒星の爆発など、自然に起因するリスクが含まれる。こうした現象の多くは追跡できるものの、大規模な噴火を防いだり、大きな小惑星の進路を変えたりする技術はなく、近いうちに開発できる見込みもない。宇宙物体の軌道をわずかに変える初期の取り組みが始まったばかりだ。核戦争や、生物兵器が意図的または偶発的に人々の間に放出されるといった、人間が引き起こすリスクについては言うまでもない。現在のパンデミックを経て、こうしたシナリオは想像しやすくなっている。
人類が一つの惑星に集まって暮らす限り、私たち全員が一度に命を落とす可能性は常にある。それは、全員が一つの建物にいるのと同じで、建物の崩壊や火災によって全員が命を落とすリスクはゼロではない。まず小規模な拠点を設け、やがて他の惑星に大規模な居住地を築くことで、人類種が滅亡するリスクを大幅に抑えられる。
人類の潜在能力を発揮する
より前向きな点として、さまざまな環境に人間が居住することで、科学や商業の発展が飛躍的に加速する。現在、国際宇宙ステーションでは、微小重力や無重力の環境で物品を製造する小規模な実験が行われている。一方、異なる物理環境を活かした大規模産業を立ち上げるには、他の天体にも人間が存在する必要がある。
人々が暮らす大規模な居住地は、イノベーションと人間の繁栄を促す拠点となる。今日の80億人に対し、将来800億人が暮らすようになれば、どれほど多くの発見や驚くべきものが生み出されるだろうか。現在の地球が受け入れられる人口には限りがあるが、太陽系はどの単一の惑星よりも多くの人々を受け入れられる。
文化や地理の多様性が現在の社会を豊かにしているのと同じように、人間が暮らす環境の多様性をさらに広げることで、人類の創造性も一層高まる。宇宙旅行そのものは、すでに多くの科学者、技術者、芸術家に大きなひらめきを与えてきた。月面着陸を目にしたことが、人生で最も大きな影響を受けた出来事の一つだと語る人も多い。
科学技術の発展を加速させる
複数の惑星に住む種となる過程で開発する技術は、地球上の私たちにも恩恵をもたらす。現在、衛星は二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を監視するために使われている。こうしたデータは、地球温暖化の原因をより正確に把握し、説明責任を促すのに役立つ。宇宙についての初の演説で、米国のカラマ・ハリス副大統領はこう述べた。「宇宙活動は気候変動対策だと心から信じています」。世界経済フォーラムの宇宙に関するグローバル・フューチャー・カウンシルは最近の報告書で、気候変動への対応に衛星データが活用されているさまざまな方法を示し、宇宙に設置された資産からのデータを「地球運用センター」に集約し、温暖化に寄与する活動や現象をリアルタイムで把握することを提案している。
あまり知られていないが、宇宙開発の過程で生まれ、日常生活で使われている技術はほかにも数多くある。CMOSセンサーは、1990年代にNASAのジェット推進研究所で初めて発明された。この技術がやがてあらゆる携帯電話に搭載され、高画質のデジタル画像を可能にし、人権侵害の記録から、出会い系アプリで自分をどのように見せるかに至るまで、あらゆることに影響を及ぼすとは誰も予測できなかった。
宇宙居住の限界
複数の惑星に住む種となっても、地球上で最も差し迫った問題と一般に考えられているものは解決しないという点に留意することが重要だ。地球温暖化と社会的不平等を、現代で最も緊急性の高い二つの危機と捉える人は増えている。宇宙に設置された資産は地球温暖化への理解を深める助けになるが、生態系の破局を防ぐ技術への投資や政策の導入は、別の惑星をテラフォーミングするよりも、地球の環境悪化に対処するうえで常に効率的である。
また、数々のSF作品が描いてきたように、地球上の社会的不平等を宇宙で再現してしまうことも容易にありうる。宇宙飛行は、こうした重要な課題から逃れる手段ではない。
しかし、重大な存亡の危機につながる一部の長期的リスクに対しては、人類の活動範囲を複数の惑星に広げることが最も効果的なリスク軽減策であり、一つの惑星で達成できる範囲を超えて人類が繁栄する道を開く。こうした理由から、有人宇宙飛行への政府および民間部門の支出を大幅に増やすことは、国家および国際安全保障への投資である。
現在、NASAの予算は米国の国家予算の0.5%を占める。これを倍増し、新たな資金をすべて有人宇宙探査に充てれば、総予算のわずか1%にとどめながら、この分野の進歩を大幅に加速できる。他国も政府支出の1%を同様に投資すれば、この重要な取り組みへの世界各国の参加が広がり、進歩はさらに速まるだろう。
宇宙を活用する社会がもたらしうる真の価値について人々の理解と支持を得ることが、こうした大規模な支出への支持を生み出すために必要となる。また、将来、宇宙への広範なアクセスを妨げる可能性があるため、現在の活動によってデブリを生み出さないようにする必要もある。2121年から2021年を振り返ったとき、私たちが最も重要な出来事として記憶するのは、何十億もの人々に宇宙への道が開かれたことかもしれない。




