本記事は、McKinsey & Companyが最初に掲載したものです。www.mckinsey.com。Copyright (c) 2021 All rights reserved. 許可を得て転載。
パンデミックを受けて企業は不動産を見直し、必要なオフィスの広さやその活用方法を問い直しています。
McKinseyによると、目的に沿って建設され、企業戦略に組み込まれた職場は、かつてないほど重要であり、競争優位性をもたらし得ます。
同社は、物理的な拠点を目標達成に活用する3つの組織を特定し、他の企業が取り組みをどう見直せるかを検討しています。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックを受け、世界中の企業が不動産を再評価し、その保有規模、活用方法、支出額を見直しています。Fortune 50企業だけで26億平方フィートの不動産を占有しており、その一部はパンデミック中、長期間ほとんど使われないままでした。在宅勤務が長期化する実験の中で、メディアや従業員、さらには企業幹部までが、多数のオフィスは本当に必要なのかと疑問を呈することもありました。
戦略的な立地にあり、目的に沿って設計され、企業の戦略、文化、事業運営モデルに組み込まれた職場は、かつてないほど重要だと私たちは考えています。また企業は、不動産を単なるコストセンターと見るのをやめ、競争優位性の源泉として捉え、構成すべきだと強く考えています。
不動産への適切な取り組みは、パンデミック後に生じた普遍的な課題への対処だけでなく、企業目標の達成にも役立ちます。戦略と不動産を結びつけるには、企業のニーズを深く分析し、意思決定に役立つデータを活用する必要があります。こうした意思決定は、CEOの指針のもと、優れた戦略的思考を持つ人々が主導するのが最善です。これは、企業が従来不動産に関する選択を行ってきた方法からの転換です。
不動産への取り組みを企業戦略に合わせ、パンデミックに伴う共通課題に対応した3社を調査しました。これらの組織は今、物理的な拠点を競争力として活用し、成功に向けて態勢を整えています。また、不動産をコストセンターから、より大きな目標を支える源泉へと転換するために企業が取れる3つのステップも特定しました。今すぐ取り組みを見直す企業が、将来に向けて最も有利な立場を築けるでしょう。
不動産を活用して競争優位性を生み出す
以下の事例では、不動産を活用してより効果的に競争している企業を紹介します。各社は、ハイブリッド時代における職場の役割や、一方の自由と柔軟性、他方のつながりと協働との適切なバランスなど、共通する問いについて深く考えました。優秀な人材の獲得と定着に役立つ職場や方針を目指し、例えば、より持続可能な通勤、従業員のウェルビーイングとエンゲージメントを支える設備、グループワークと満足感を促す設計に取り組みました。
各社の出発点は異なりました。ある企業は新たな場所を選び、中央オフィスを一から建設しました。別の企業はパンデミック前から借りていた既存オフィスを再利用し、もう一社は既存の本社を改装して、サテライト拠点との接続技術を強化しました。この多様性は、長期リースが制約に見える場合でも、刷新には幅広い選択肢があることを示しています。
欧州のデジタル企業:人材と顧客案件の獲得を目指すスタジオ設計
2014年創業のブダペストを拠点とするデジタル企業IncepTechは、顧客向けデジタル製品の開発を専門としています。同社には明確な戦略がありました。ソフトウェアエンジニアの採用競争が激しい市場で、世界有数のテクノロジー企業にも容易に就職できるような人材を引きつけたいと考えていたのです。
IncepTechはまた、従来型の書面によるプロジェクト提案で顧客案件を獲得するやり方から脱却できる空間を望んでいました。顧客にオフィスへ来てもらい、ニーズを話し合い、その場ですぐに問題解決の支援を受けてもらうことを目指しました。パンデミックが始まった2020年春、同社は目的にかなったソフトウェアエンジニアリング・スタジオの設計に着手しました。豊かな緑に囲まれ、大きな窓から自然光がたっぷり差し込む空間です。
2020年末までにIncepTech Studioが完成しました。ブダペストの新たな人気エリア、ドナウ川沿いに位置し、美しい眺望に加え、レストランや各種サービス、他の企業へ徒歩で行ける立地です。白や淡色を基調としたミニマルな家具と透明な間仕切りが、開放感を生み出しています。エンジニアが明るさと緑に囲まれながら遠くを見つめ、明晰に考えられるよう設計されています。会議室はハイブリッド勤務に対応し、スマートカメラ、デジタルホワイトボード、視認性を高めるガラス壁を備えています。
このスタジオは、オフィスが豊かな環境になり得ることを従業員に示すことを意図していました。防音仕様の音楽室には電子ドラムセット、キーボード、ギター、マイク、電子音楽を制作するコンピューターが揃い、従業員が気軽にジャムセッションを楽しめます。同社は従業員と社外の専門家との交流会を毎月開催し、従業員向けのヨガや瞑想イベントも計画しています。
IncepTechによると、テクノロジー人材の獲得競争が激しい市場で、約75人のフルタイム従業員からなるチームを築く上でオフィスが極めて重要な役割を果たしました。小規模企業ながら、大手グローバルソフトウェア企業やシステムインテグレーターと効果的に競争してきました。(2022年2月、McKinseyが同社を買収しました。)
従業員に出社義務はありません。チームは必要に応じて出社し、特に集中的なブレインストーミングやプロジェクト終盤の短期集中作業を行います。経営幹部によると、このスタジオは顧客案件の獲得にも貢献しています。顧客がそこで仕事をしたくなる魅力的な場となり、会議室によって社外の協力者も容易に参加できます。
テクノロジー企業:「バーチャル・ファースト」を掲げ、不動産でチームワークを強化
新型コロナウイルス感染症のパンデミック前、テクノロジー企業Dropboxの従業員約2,700人は、主にサンフランシスコ、シアトル、オースティン、ニューヨーク、ダブリンのいずれかのオフィスにフルタイムで勤務していました。パンデミックが始まると同社はリモートワークを導入し、オフィスは空になりました。
Dropboxは、多くの従業員がリモートワークで高い生産性を上げ、満足していることにすぐ気づき、2020年秋に自社を「バーチャル・ファースト」企業と宣言しました。課題は、従業員が求める柔軟性を与えながら、人とのつながりを保ち、企業の長期的な健全性と使命を維持し、学び続ける姿勢を保つことでした。
Dropboxは、こうした目標に合わせて不動産施策を整えました。すべてのオフィスを手放すのではなく、旧オフィスの一部を、協働作業やチームイベント、研修に使うDropbox Studiosへと転換しました。既存スペースから大半のデスクを取り除き、可動式の壁システムと家具を備えた会議室を設けて、必要に応じて広さを拡大・縮小できるようにし、協働に適した空間へと最適化しました。一部では賃借する床面積を削減しました。ダブリンでは、協働体験のために一から建設した新拠点へ移転しました。新しい空間には、従業員が無料のエスプレッソやカプチーノを楽しみながら交流し、気分転換できるカフェと、現地参加者とリモート参加者の条件をそろえることを意図した没入型ビデオ会議技術が備わっています。
Dropbox Studiosが従業員に門戸を開いたのは2022年3月中旬であり、この構想はまだほとんど検証されていません。バーチャル・ファースト企業としてのニーズの変化に応じて計画を調整していく方針です。「人とのつながりは当社の戦略の基盤であり、スタジオはその促進に重要な役割を果たします」と、Dropboxでエンジニアリング、製品、デザイン部門のバーチャル・ファースト責任者を務めるTerry Wienerは述べています。「これから数カ月、数年の間に何を学べるのか、とても楽しみです。」
バイオテクノロジー大手:迅速なブレークスルーと継続的なイノベーションを可能にする不動産
バイオ医薬品分野の世界的リーダーであるGilead Sciencesは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック前から、不動産計画の近代化について深く検討し始めていました。カリフォルニア州フォスターシティにある本社は、全体計画の中核として、先駆的な科学研究を何十年にもわたり支えてきました。しかし、多くの競合企業は別のモデルへ移行しつつありました。つまり、単一の医薬品の創薬、研究、開発、製造が、世界各地で行われるのが一般的になっていたのです。リモートワークが広がる中、Gileadにはつながりと協働を強め、技術移転を加速し、優れた科学者を引きつける不動産戦略が必要でした。世界最大級の研究拠点型本社キャンパスを、どのように位置づけるのが最善でしょうか。
一連の分析ワークショップを経て、Gileadは潮流に逆らい、本社への投資を強化することを決めました。一部を売却または賃貸に出すのではなく、改装に投資しました。キャンパス構想では、創薬、研究、開発、スケールアップ、製造の各チームが次の工程へと流れるようにつながる空間で働けるよう、研究室や建物を「分子の流れに沿って」配置することを目指しました。有機的なつながりを促すため、ジム、瞑想エリア、心身の健康を支援するリソースを備えた、最先端の6万5,000平方フィートのウェルビーイングセンターなど、刺激を与える空間を整備しました。また、最先端の研究室と研究インフラを追加し、研究室同士をシームレスにつなぐプロセスデータシステムを導入して、デジタルエンジニアリングへの変革を加速しました。
本社のあらゆる空間でデジタル技術を活用できるようにし、従業員が別の場所にいる協力者とすぐにビデオ会議できるようにしています。イマーシブルームには複数の高精細画面とワンタッチの電話会議技術があり、利用者は同僚が同じ空間にいるかのように感じられます。本社や世界各地の研究室では、科学者がどこからでも実験を監視できる遠隔システムに加え、遠隔地の参加者が研究室に立っているかのように感じられる拡張現実用メガネや画面を導入しています。
Gileadが不動産戦略の焦点を事業運営の経済性ではなく科学的効率性に置いたことは、パンデミック中に功を奏しました。新型コロナウイルス感染症が発生すると、コーポレート・オペレーション担当上級副社長のJoydeep Gangulyとチームは、わずか4週間でメインキャンパスにバイオセーフティレベル3(BSL-3)の研究室を設計・整備し、Gileadの科学者がウイルスを安全に扱えるようにしました。医薬品開発への前例のない緊急性が高まる中、革新的なキャンパスと研究室のシステムは、重要な人材を同社に引きつける上で大きな役割を果たしました。
「あまりにも多くの事業運営戦略が、目先のコスト要件だけに焦点を当てています」とGangulyは述べています。「それも重要ですが、事業拠点の構想がより大きな役割を担い、イノベーションを促し、人材を惹きつけて関与させ、企業の目標達成を可能にすることには、はるかに大きな価値があります。」同社は本社への投資を続け、「フラッシュラボ」の設計を進化させ、次世代の協働技術にも投資する予定です。「Gileadでは、全体計画が同僚たちの総合的な才覚を引き出し、優れた科学者を引きつける磁石になると、今も信じています」とGangulyは語りました。
コストセンターから競争優位性へ:不動産を発展させる3つのステップ
不動産を競争優位性として発展させる最初のステップは、達成したい企業指標と目標を経営陣が定めることです。次に、それらの指標と目標を達成するために、従業員、サプライヤー、顧客にとって重要な場面を特定します。不動産は企業戦略に直接結びついた多分野横断的な課題であるべきです。そのため、第3のステップとして、現在の不動産拠点を評価し、企業目標や重要な場面に合致していることを確かめる運営委員会を設置します。
企業目標と指標を定める
パンデミック前、不動産方針の最も一般的な目標は、絶対コストまたは従業員1人当たりのコストを削減することでした。新型コロナウイルス感染症の流行後も不動産コストの削減が企業目標であれば、従業員を在宅勤務にすればよいでしょう。多くの従業員はそれに十分満足しています。しかし、完全なリモート勤務では、生産性、つながり、多様性と包摂性、イノベーション、忠誠心、徒弟的な学びの成果が常に最善になるとは限りません。
不動産は多くの目標達成に役立ちます。例えば、イノベーションの加速、従業員のスキル向上、デジタル・技術変革の推進、協働の促進、最適なハイブリッドモデルの構築、人材の多様化、顧客との距離の短縮などです。組織の不動産のあり方は、戦略と事業運営モデルから導かれるべきです。
基準値を設定するため、組織はまず、さまざまな種類の不動産に関する最重要指標を特定し、測定できます。例えば、必要なオフィス面積を判断する際には、従業員の会社に対する意識、営業担当者1人当たりの売上、処理量、誤りや遺漏、温室効果ガス排出量などが重要な指標となり得ます。その上で、異なる選択肢を試し、パイロットを実施し、指標に基づいて最適な解決策を選べます。
重要な場面を特定する
多くの従業員がリモートで働ける世界では、他の従業員、サプライヤー、顧客と共に過ごすどの場面が実際に成果を高めるのかを解明することが、企業の課題です。重要な場面を実現するには、適切な人々が、適切な時に、適切な場所で、適切な仕事に取り組む必要があります。
しかし、どの場面が最も重要かを把握している組織はほとんどありません。それには、新入社員の受け入れ、徒弟的な関係、ブレインストーミング会議、難しい話し合い、社会的結束を育む体験、顧客からの苦情への対応、顧客への販売、予定外の協働などが含まれます。職場の立地、規模、設計はいずれも、共に過ごすことに関する最も差し迫ったニーズを支えるべきです。
運営委員会を設置する
従来、不動産に関する選択は、一般に調達担当役員または運営担当役員に報告する不動産チームが行ってきました。最も重要な決定はCFOに上申されます。
しかし現在、不動産チームには、現行の拠点を企業目標や重要な場面に合致させるという新たな責任があります。そのため、異なる意思決定者が必要です。CEOが不動産に関する議題を設定し、人事担当最高責任者(CHRO)、CIO、CFO、不動産責任者が支援できます。こうした各分野の専門家が、不動産を競争優位性の源泉にする助けとなります。
パンデミック後、不動産に関する意思決定は、過去の慣例や文化・業界の規範に左右されるべきではありません。現在は、企業のより大きな目標を指針としなければなりません。CEOや経営幹部は、何が企業を成功に導くかを理解しており、それに見合う物理的環境を作り出す最適な立場にあります。不動産への取り組みを企業戦略と統合することは、従来のやり方を変えることであり、新たな責任でもあります。また、思い切った行動を取り、パンデミックからこれまで以上に強く、競争力を高めて立ち上がる、一世代に一度の機会でもあります。







