1980年代生まれのデジタル世代であり、労働市場や消費市場に参入して世界を再形成しつつあるミレニアル世代については、すでに十分すぎるほど語られてきました。こうした熱気のなかで、世界の人口全体が高齢化していることを忘れてしまっています。 2050年までに60歳以上の人は20億人に達し、世界人口の22%を占めます。
平均寿命の延伸、死亡率の低下、出生率の低下が、世界人口の構成を変えています(図1参照)。『エコノミスト』誌の報告によると、2015年から2060年にかけて、60~79歳の人口は11億人、つまり131%増加します。これは、子どもと10代の人口の増加数の5倍にあたります。子どもと10代の人口は、わずか2億2,000万人、つまり9%の増加にとどまる見込みです。最も高齢の人々(85歳以上)の人口は、 全世代のなかで最も速いペースで増加し(2015~60年に281%増)ます。
図1:変化する世界人口の姿
世界は高齢化しています。労働人口も変わらなければなりません
今日、私たちは65歳で職業人生を終えると想定しています。この想定が続けば、今後数十年で人口に占める非就業者の割合が高まり、労働人口への依存が大きくなります。現在の予測では、2050年までに日本では労働者100人に対し、65歳以上の扶養対象者が72人になるとされています。スペイン、イタリア、ドイツでは、この数値は60~70%に達し、2015年と比べて大幅に増加します (図2参照)。
図2:老年人口扶養比率
こうした数値は持続可能なのでしょうか。高齢化する労働力の能力を活用し、その生産性を生かせなければ、経済が衰退する姿が浮かび上がります。しかし、流れはゆっくりながらも確実に変わりつつあります。
高齢者の就労を継続させる
『エコノミスト』誌によると、現在、65歳を超える米国人のほぼ20%が労働力人口に含まれており、2000年の13%から増加しています。ドイツでは、60代前半の人のほぼ半数が現在就業しており、10年前の4分の1と比べて増えています。65歳以降に人々が労働力から離れるかどうかを左右する要因は数多くあります。スキルや教育、政府の政策、社会構造が大きな役割を果たします。
ここ数十年でデジタル技術が発展したことも、さまざまな形で高齢層が労働人口とのつながりを保ちやすくしました。利用のしやすさ、場所、時間の制約が取り除かれ、高齢者は自宅で働く時間帯を選べるようになっています。これは、働き方の変化によって支えられています。クラウドソーシングの仕組みにより、年齢にかかわらず、自分のスキルを生かせる市場を見つけやすくなっています。
大切なのは生産性だけでしょうか?
生産性については、いったん脇に置きましょう。意味のある人生という観点から、60歳以上の人々にとって就労がもたらす影響を考えてみましょう。誰にとっても、目的や、必要とされているという実感、社会に貢献しているという感覚が必要です。高齢化が進む人口が、こうしたものを見つけ続けられるようにするには、どうすればよいでしょうか。就労を続けることは、こうしたニーズを満たす方法の一つです。
Sunayna(仮名)の話を紹介しましょう。私が高齢者向けに運営している社会交流グループ、Miitraの会合の一つで彼女に会いました。彼女の人生には悲劇が続き、近親者は病気や事故で亡くなっていました。新しい街で一人きりになり、どうしたらよいのかわからずにいました。人生の大半を専業主婦として過ごした彼女は、突然、自由に使える時間をたくさん抱えることになりました。彼女は仲間を求めて私たちのもとを訪れ、長く続く友人関係をいくつか築くことができました。けれども、彼女の人生を本当に変えたのは、仕事を見つけたことでした。料理が好きだったSunayanaは、自宅で料理を作り、近くに住む学生に提供する事業を始めました。フードフェアにも出店し、間もなく事業は軌道に乗りました。今では時間に追われるほど忙しく、料理を愛してくれる学生たちとの間に見つけた大家族のようなつながりに満足しています。彼女は必要とされ、求められ、愛されています。それを実現したのは、彼女のスキルでした。
世界には、こうした成功物語を数多く生み出すための、たった一つの機会を必要としている人が大勢います。私たちが築くべきなのは、そうした人々を支える社会経済の基盤です。そのための枠組みはすでにあります。変化する経済モデル(クラウドソーシング)と、テクノロジーの力(利用のしやすさ)です。この仕組みを加速させる時です。
年齢を重ねるごとに、人生を豊かに
母が最も恐れていたのは、間近に迫った退職でした。母はまだ60歳で、政府機関に勤めていました。母の最大の心配は、「一日中、何をして過ごせばいいの?」ということでした。とても活動的でエネルギッシュな母は、同じ職場で30年間働き、人生のすべてがその仕事を中心に回っていました。金銭面の心配や、人に支えてもらわなければならなくなる恐れだけでなく、何もすることのない日々を思うだけで、母は不安にかられていました。そこで、私たちは退職後の計画を立てました。母も料理が好きで、家にはいつも、母のさまざまなレシピを味わいたい人たちが集まっていました。そこで小さな飲食店に投資し、母の退職に合わせて開店しました。母は職場を離れ、厨房に入りました。毎日新しい人と出会い、新しい料理を作ることを楽しんでいます。手持ち無沙汰になることはなく、年金に加えて収入も得ています。スキルを広げ、POSシステムを学び、複雑な在庫管理表も扱っています。
私たちは高齢化する人口のために計画を立て、退職後の人生の選択を支える必要があります。まず取り組むべきことの一つは、この年齢層が新しいスキルを学べる支援の仕組みをつくることです。本人のペースに合わせつつ、テクノロジーを自分の利益のために活用できるようにする、継続的な学習プログラムのようなものです。職業訓練も考えられます。Sunayanaのように、趣味が収入源になるかもしれません。起業の規模拡大を支援するビジネス・インキュベーターも考えられます。
65歳以降の就労機会を専門とするキャリアカウンセラーを配置することもできます。こうした人々は経験の宝庫です。その才能を生かすことを企業の最優先課題とし、人事方針もそれに沿って策定すべきです。
この世代にとって、社会への包摂と貢献は重要な課題です。ボランティアなどの社会参加の取り組みに大きく貢献できます。そこでは、一人ひとりの助けが大きな力になります。彼らのスキルや経験を念頭に置いたプログラムは、地域社会全体にとって価値あるものになり得ます。経験を分かち合うことは、若者にも高齢者にも役立ちます。
この世代が労働力の一員として積極的に参加すれば、価値をもたらせることは数多くあります。問われているのは、私たちが彼らに時間を投資する準備ができているかどうかです。
著者:Supriya Jain、Wipro、Thought Leadership Marketing部門責任者。本記事に記された見解は著者個人のものであり、Wiproは著者の見解の内容、正確性、真実性を支持するものではありません。
画像:ドイツ南部、ナリング近郊のヴェーヤーンにあるレストラン「Zum Goldenen Tal」で、91歳のウェイトレス、Kathi Kinkさんが食事を提供する。2015年2月1日。REUTERS/Michaela Rehle


