アメリカの経済的流動性を地図で見る

American flags fly on National Mall with U.S. Capitol on background as high-wind weather conditions continue in Washington, U.S. March 2, 2018. REUTERS/Yuri Gripas - RC1F0AB16100
Moving in early childhood to a neighbourhood with better outcomes can increase a child’s income.Image: REUTERS/Yuri Gripas
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米国では、経済的流動性に大きな地域差があります。本稿では、貧困や収監といった結果の根源を、子どもたちが育った近隣地域までさかのぼって示す、新しいインタラクティブな地図ツールを紹介します。データからは、同程度の所得の家庭で数マイルしか離れていない場所で育った子どもたちでも、その後の人生の結果は大きく異なることや、幼少期により良い結果が得られる近隣地域へ移ると、後年の所得が数千ドル増える可能性があることが明らかになりました。

アメリカで、子どもたちが所得階層を上がる可能性が最も高い近隣地域はどこでしょうか。この問いに答えるため、私たちはオポチュニティ・アトラスを作成しました。無料で利用できるインタラクティブな地図ツールで、貧困や収監といった結果の根源を、子どもたちが育った近隣地域までさかのぼって示します。このアトラスを使えば、あなたの地域社会で、どこで、誰に機会が不足しているのかを正確に把握し、子どもたちの成果を向上させるための地域に合わせた解決策を策定できます。

オポチュニティ・アトラスは、現在30代半ばのアメリカ人2,000万人に関する匿名化データを用いて構築されています。私たちは、これらの人々を、育った国勢調査区(約4,200人で構成される地理的単位)に対応づけています。そして、アメリカにある7万の各国勢調査区について、親の所得水準、人種、性別ごとに、子どもの平均所得、収監率、その他の成果を推計しています。

新たなデータから、近隣地域が子どもたちの人生の軌跡をどのように形作るかについて、いくつかの知見が得られました(Chettyほか、2018年)。

知見1:成人後の子どもの成果は、わずか1、2マイルしか離れていない近隣地域の間でも大きく異なる

同程度の所得の家庭で数マイル離れた場所で育った子どもたちでも、その後の人生の結果は大きく異なります。一例として、上の地図はロサンゼルス中心部の非常に低所得の家庭で育った黒人男性の収監率を示しています。ワッツで育った黒人男性の44%は、2010年国勢調査の実施日である2010年4月1日に収監されていました。対照的に、ワッツの南2.3マイルにあるコンプトン中心部で、同程度の所得の家庭に育った黒人男性では、その日の収監率は6.2%でした。

図1 ロサンゼルスで最も低所得の家庭に育った黒人男性の収監率(育った近隣地域別)

ロサンゼルスだけでなく、アメリカの大半の都市で、近隣地域の間に、所得から10代の出生率まで、さまざまな成果の同様の差が見られます。農村部でも、隣り合う町の間で、地元の子どもたちの成果が大きく異なることがよくあります。

知見2:ある人種集団にとって成果の良い地域が、他の集団にとっても常に良いとは限らない

多くの人は、近隣地域を誰にとっても「良い」か「悪い」かのどちらかだと考えています。しかし、同じ近隣地域で育った人々の間でも、成果には大きな差が生じることが分かりました。先ほどの例に戻ると、ワッツで育ったヒスパニック系男性の収監率は4%で、同じ国勢調査区で育った黒人男性の収監率より一桁低い水準です。

成果は性別によっても異なります。ワッツでは、低所得世帯で育った黒人女性は、同じく低所得世帯で育った黒人男性の3倍の所得を得るようになります。こうした違いから、近隣地域の質や、それを改善するための政策を「万人に一律」のものとして考えるべきではないことが分かります。特定の集団が直面する課題に直接対処するよう政策を設計すれば、より大きな効果が得られる可能性があります。

知見3:幼少期の早い段階でより良い近隣地域に移ると、子どもの所得が数千ドル増える可能性がある

図2に示すように、幼少期の早い段階で上昇移動の可能性が高い近隣地域に移った子どもは、成人後の所得が高くなります。このグラフは、低所得世帯で育ち、上昇移動の可能性が低いシアトルのセントラル・ディストリクトから、北へ10マイル離れた、上昇移動の可能性が高いショアラインへ移った子どもの、35歳時点の平均所得を示しています。出生時に移った子どもは、20代で移った子どもより年間9,000ドル多く稼ぎます。

図2 より良い近隣地域への転居による所得増加(転居時の子どもの年齢別)

さらに、「ムービング・トゥ・オポチュニティ」実験のデータを改めて調べたところ、アトラスによる上昇移動率がより高い近隣地域へ転居するためのバウチャーを無作為に提示された家庭の子どもは、実際に成人後の所得が高くなっていたことが分かりました。

平均すると、上昇移動率が平均未満の近隣地域から平均を上回る近隣地域へ同じ都市圏内で移ることで、低所得家庭で育つ子どもの生涯所得は20万ドル増加すると見込まれます。より良い地域で育つ子どもは、収監される可能性や10代で出産する可能性も低くなります。

これらの知見が示すのは、上昇移動を促す最善の解決策が必ずしも転居だということではなく、一部の地域で見られる低い上昇移動率は変えられるということです。低所得の子どもたちに最良の成果をもたらす地域を研究すれば、地域に重点を置いた投資を通じて、他の地域でもその成功を再現できる可能性があります。

知見4:雇用の伸びなど、地域経済の成功を示す従来の指標は、上昇移動の拡大につながるとは限らない

私たちが新たに設けた上昇移動の指標は、雇用の伸びなど、地域経済の健全性を示す従来の指標とは異なります。図3は、都市間で、低所得世帯の子どもの成人後の所得と雇用の伸び率に関連がないことを示しています。

図3 米国の人口上位30都市圏における上昇移動と雇用の伸び

たとえば、アトランタとシャーロットでは、過去20年間に雇用と賃金が非常に高い率で伸びましたが、そこで育つ子どもの上昇移動率は最低水準に近いものです。これらの都市は、高技能人材を呼び込み、高賃金の仕事を満たすことで、経済成長率を高めています。こうした目覚ましい経済成長は都市に他の利益をもたらしたかもしれませんが、経済が活況を呈していても、地元の子どもたちの成果が向上するとは限らないことは明らかです。

対照的に、ある国勢調査区に住む成人の就業率と、そこで育つ子どもの上昇移動率には強い正の相関が見られます。上昇移動に重要なのは、仕事場に近いことではなく、働いている人々に囲まれて育つことのようです。

子どもの上昇移動率は、平均所得、両親のいる世帯の割合、社会関係資本やテストの点数を示す代理指標など、地域住民の他の特性とも強く相関しています。これらすべての特性において重要なのは、近隣地域の状況ではなく、たとえわずか1マイル先であっても、自分のすぐ近くの地域の状況です。たとえば、本人の居住地域の貧困率を考慮すると、隣接する国勢調査区の貧困率は子どもの成果と実質的に無関係です。

知見5:子どもの成果に関する過去のデータは、今日の子どもたちの上昇移動の見通しを予測するうえで有用である

私たちの経済的機会の指標は、貧困率、持ち家率、テストの点数などの代理指標ではなく、子どもたちが実際に得た成果を直接調べるため、既存の近隣地域レベルの機会指標とは異なります。成果を直接調べることで、どの代理指標が子どもの成果を最もよく予測するかという、検証が難しい前提に頼らずに済みます。

成果に基づく指標の弱点は、子どもが成長して所得が分かるまで待つ必要があるため、データに遅れが生じることです。しかし、過去に良い成果を生み出した地域は、通常、その10年後にも良い成果を生み出す傾向があることが分かりました。さらに、過去の成果データは、より新しい貧困率やテストの点数のデータよりも、成果の予測に大いに優れています。したがって、私たちの推計は、今日の子どもたちについても経済的機会を予測するうえで非常に有益ですが、大きく変化した地域については、追加分析や現地の知見と組み合わせる必要があります。

知見6:新たなデータにより、子どもたちに良い成果をもたらす手頃な近隣地域「機会のお買い得地域」が明らかになる

平均すると、機会の多い近隣地域ほど生活費も高くなりますが、高い家賃を伴わずに子どもたちに良い成果をもたらす「機会のお買い得地域」と見られる場所も数多くあります。下の表は、米国の人口上位10都市圏にあるそのような近隣地域を示しています。

家賃が安く、機会に恵まれた近隣地域があることは、政府支出を増やさずに子どもたちへの効果を高められるよう、手頃な住宅政策を再設計できる可能性を示しています。より広く言えば、機会のお買い得地域の存在は、機会への道筋を築くために、非常に裕福で物価の高い近隣地域の環境を再現する必要はないことを示しています。

貧困からの脱却と経済的流動性向上の基盤

今後、研究者はオポチュニティ・アトラスを使い、似た特性を持ちながら子どもたちに異なる成果をもたらす地域を比較することで、上昇移動を促す仕組みについて新たな知見を得ることができます。

政策立案者や実務者は、恵まれない子どもたちの経済的機会の向上を目指すプログラムを、より的確に対象へ届けるためにアトラスを活用できます。たとえば、就学前プログラムの設置場所や、地域プログラムまたは税額控除の対象要件を決める際に、これらのデータを役立てられます。また、シアトル都市圏の住宅当局は現在、住宅バウチャーの受給者に情報や支援を提供し、機会の多い地域への転居を促す試験事業を実施しています。

私たちは、こうした取り組みの開発と評価が、全国の経済的流動性を高めるための有益な道筋になると考えています。

著者注:本稿に記された見解および結論は著者のものであり、必ずしも米国国勢調査局の見解を反映するものではありません。機密情報が開示されないよう、すべての結果は審査を受けています。本稿に掲載した統計的要約は、国勢調査局開示審査委員会の公表承認番号CBDRB-FY18-319により承認されています。

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