混乱やポピュリズム、そして見かけ上の脱グローバル化が進む現代を特徴づけるのは、組織や制度への信頼の低下である。より良いガバナンスによって信頼は築かれる。そして、その基盤となるのは透明性、説明責任、多様性を受け入れる姿勢である。
シンガポールと英国が今年、新たなコーポレートガバナンス・コードを発表したのは偶然ではない。優れたガバナンスの仕組みを強化することは、投資を呼び込み、健全なリスク管理にもつながる。反対に、企業が自らの事業がさまざまなステークホルダーに及ぼす長期的な影響を考慮しなければ、制度への信頼は急速に損なわれかねない。
コーポレートガバナンスの中核を成す柱は二つある。リスクのガバナンスと、変化のガバナンスである。
今日、企業が直面するリスクの性質上、過去の業績から将来を推し量ることは難しい。わずか10年前まで、ノキアとブラックベリーはそれぞれの市場で半分を超えるシェアを占めていた。現在、アマゾンの企業価値がウォルマートを上回っていることを考えれば、今日のスタートアップが15年後にはシティバンクを上回る規模になる可能性もある。貿易戦争やテクノロジー主導の破壊的変化をめぐる地政学が、リスクを不確実性へと変えた。
リスクに備えるには、幅広いシナリオに対応できる制度とプロセスが必要だ。重大な未知の未知が増えるなか、企業の戦略計画に潜む盲点をより徹底的に洗い出すことも求められる。資源の浪費を避ける一方で、戦略上の選択肢を確保しておく、そのバランスを取らなければならない。
専門職における多様性の文化
リスク・ガバナンスと変化のガバナンスの双方を支えるのは、専門職における多様性の文化でなければならない。多様性を明確に重視し、積極的に実現するよう設計する必要がある。
最近刊行された著書『メルトダウン:システムが失敗する理由と、私たちにできること』で、クリス・クリアフィールドとアンドラス・ティルチクは、経営破綻した血液検査会社セラノスと、その取締役会の構成を取り上げている。2015年には企業価値が80億ドルを超えていた同社は、基盤となる医療技術が宣伝どおりの性能をまったく備えていないことが明らかになり、崩壊した。取締役には、元国務長官のヘンリー・キッシンジャーとジョージ・シュルツ、元国防長官のビル・ペリー、退役将軍のジェームズ・マティス、退役提督のゲイリー・ラフヘッドなど、いずれも非常に優れた実績を持つ人物が名を連ねていた。
この取締役会についてはいくつか指摘できる。第一に、最高経営責任者を除けば全員が男性だった。ジェンダーや人種の多様性はなかった。第二に、平均年齢は76歳だった。残念ながら、取締役会で年齢の多様性が欠けていることは珍しくない。第三に、セラノスの取締役会には専門性の多様性も明らかに不足していた。大半が軍人、上院議員、元閣僚であり、医学やテクノロジーの経験が明らかな人物はいなかった。
特定分野の専門知識が最適な量とは、100%を占めることではない点を強調しておきたい。クリアフィールドとティルチクは、米国の地域銀行を対象にした研究を紹介している。その研究によると、破綻した銀行ほど取締役会に銀行業界出身者が多かった。医師や軍人など、より幅広い経歴を持つ人々が取締役を務めた銀行は、専門性の多様性によって救われたとみられる。
これは多様性が果たす二つの役割を示している。第一に、多様な経歴や思考様式は、同質的な集団思考に埋もれてしまいかねない問題を掘り起こす助けとなる。第二に、専門家以外の人が加わることで議論の進み方が遅くなり、内部の人々の合意に疑問が投げかけられる。時には不自然、不快、あるいは不要に感じられるかもしれないが、意図的に設計された多様性は、リスク・ガバナンスの観点から非常に価値がある。
マルコム・グラッドウェルは著書『アウトライアーズ』で、飛行機事故のリスクを減らすため、コックピットで建設的な対立を認めることの重要性を指摘している。銀行のリスク委員会も、あらゆる視点を網羅する形で承認プロセスを設計し、試行できる。たとえば、エドワード・デ・ボノの「6つの思考帽子」を応用し、それぞれの帽子が俯瞰、事実、楽観、悲観、創造性、感情の視点を表すようにすれば、会議を進める一般的な方法よりもリスクの問題を浮き彫りにできる。
世界各地のガバナンス・コードでは、多様性が明確に求められている。シンガポールの中央銀行は、銀行に対し、多様性に関する明確な方針を定め、その方針に沿った取り組み状況を定期的に報告するよう求めている。英国では数年前、「30%クラブ」が発足した。これは、上場企業の上級職に占める女性の割合を少なくとも30%にするという自主的な宣言である。
2018年6月時点で、FTSE 100企業の取締役に占める女性の割合はすでに29%に達しており、2011年の12.5%から上昇している。シンガポールではその割合は低いものの、近年は上昇している。多様性行動委員会によると、2018年6月、シンガポール上位100社の取締役に占める女性の割合は14.7%で、前年の12.2%から上昇した。
ジェンダー包摂は、多様性を実現するための必要条件である。確かな意思と意図的な行動があれば(たとえば、専門家会議で男性だけのパネルを避けるだけでも)、私たちは力を合わせて変化を起こせる。これは正しいことを行うだけではない。より良いガバナンスへの足がかりとなる。



