抗生物質は、感染症の原因となる細菌だけでなく、体内で遭遇するほかの細菌も殺します。
しかし、生き残ることのできた細菌は、競争相手が少ない環境で増殖します。その結果、抗生物質の効果を損なう可能性のある耐性菌が増えていきます。
一方、衛生水準が高く、手洗いがよく行われていれば、抗生物質の使用が細菌の薬剤耐性の進化に及ぼす影響は小さくなることが、研究者らによって明らかになりました。
このことは、細菌の耐性を抑えるうえで、良好な衛生習慣が重要であることを示しています。
手洗いは抗生物質耐性の進化を防ぐ助けになるのでしょうか。数学的には、可能です。
抗生物質は、感染症の原因となる細菌を殺すことで人命を救います。しかし、抗生物質は感染症の原因菌だけを殺すわけでも、感染が起きている体の部位だけにとどまるわけでもありません。抗生物質は体内に広がり、遭遇した感受性のある細菌を抑制または殺菌します。
抗生物質に感受性の高い細菌が死滅する一方で、生き残ることのできた細菌は、競争相手が少ない環境で増殖を続けます。その結果、耐性菌が増え、抗生物質の効果を損なう可能性があります。
私は研究者で、抗生物質耐性の進化を研究しています。医学研修中、手指消毒など、病院の衛生管理の重要性について学びました。良好な衛生習慣が、他者や環境から有害な細菌がうつるのを防ぐ助けになることは、よく知られています。私は、衛生習慣が抗生物質耐性の進化にどのような影響を及ぼすのか、疑問を持つようになりました。
そこで私は、同僚のマグヌス・アスペンベリ、サラ・マード・ササネ、フレドリック・ニルソン、そしてサム・ブラウンとチームを組みました。彼らは数学、統計学、微生物の進化を専門とし、この問いに取り組みました。
私たちは、抗生物質耐性の進化を表す数学モデルを構築しました。このモデルでは、患者の体内に生息する微生物群集の中で、耐性菌と感受性菌が競合し、患者から患者へと伝播します。私たちは二つの要因の影響を調べました。患者間の細菌の広がりを抑える衛生習慣(アルコールベースの手指消毒剤の使用を含む)と、感受性菌を殺して耐性菌を選択する抗生物質の使用です。
世界経済フォーラムは、医療の向上にどのように取り組んでいるのでしょうか。
健康・ヘルスケアセンターは、アクセス、公平性、レジリエンス、備えなど、世界各地の医療システムが直面する課題への理解を深めるため、リーダーたちをつなぎます。
信頼に基づく対話と官民連携を通じて、同センターはパートナーが共通の優先課題に沿って連携し、健康の向上に向けた共同の取り組みを進められるよう支援します。
衛生習慣と抗生物質の使用は相互に影響することが分かりました。衛生水準が高まるほど、抗生物質の使用が細菌の薬剤耐性の進化に及ぼす影響は小さくなりました。耐性への進化は、細菌の抗生物質感受性のばらつきに左右されるためです。患者間における耐性菌株と感受性菌株の分布に影響を与えることで、衛生習慣は耐性の進化に必要な細菌の多様性を抑えます。
薬剤耐性の進化に関する研究では、衛生習慣よりも進化上の選択に焦点が当てられてきました。多くの研究では、たとえば、薬剤の高用量と低用量のどちらが耐性の予防に適しているかを調べています。抗生物質耐性の研究に衛生習慣やその他の介入策を取り入れることで、細菌がどのように進化して耐性を獲得するのか、より包括的に理解できる可能性があります。
良好な衛生習慣の役割は、疾病予防における実践的な取り組みとして、すでに広く認められています。今回の研究結果は、細菌耐性の進化過程で衛生習慣が果たす役割を明らかにし、その重要性を改めて示しています。


