リスク認識は、経済から気候へと移行しました。
気候変動に関する知識と経験が深まったことが、この移行を促しました。
短期主義は死角を生み出し、リスクを軽減するための統合的な取り組みを制限しかねません。
世界のリスク環境は、それに対処する我々の能力よりも速く変化しているようです。
世界経済フォーラムが2006年に初めて「グローバルリスク認識調査(GRPS)」を開始した際、発生可能性と影響度の上位を、経済リスクがほとんど占めていました。
15年と大不況を経て、世界経済は再び、格差、保護主義、減速といった深刻な障壁に直面しています。それにもかかわらず、経済リスクは調査の注目の的から外れてしまいました。
今年の『グローバルリスク報告書』(第15版)では、発生可能性で上位5つのリスクすべてと、影響度で上位3つのリスクが、気候関連となっています。2008~2009年の金融危機の際でさえ、経済に関する懸念は発生可能性で上位5つのうち多くて3つ、影響度で4つを占めるにとどまっていたのであり、単一の課題がこのように調査を支配したことは、これまでに一度もありません。

経済リスクの多くが依然として残っているにもかかわらず、リスク認識が経済から気候へと著しく移行した理由は何でしょうか。
リスク認識の変化を検証する
リスク認識がこれほど劇的に変化した理由は、次の4つの傾向によって説明できます。
1)気候変動は若者にとって最優先の課題である
世界の若者は、地球の行く末を強く案じています。世界経済フォーラムの「グローバル・シェイパーズ・コミュニティ」(より若いコミュニティリーダー)によるGRPSの回答者の90%が、「極端な暑さ」「生態系の破壊」「汚染による健康への影響」が2020年に悪化すると考えています。また、これらの事象の影響を極めて深刻かつ差し迫ったものと評価しています。
若者は、ソーシャルメディアだけでなく、足と投票用紙を使って、世界中で声を上げてきました。昨年は、何百万人もの学童が世界中の気候ストライキに参加し、欧州の若者は緑の党の議会選挙での勝利を決定づけました。また、最近の世論調査では、2020年の米国の選挙において、環境政策が若い米国人にとって極めて重要になるとされています。この世代の活動主義は、世界のリスク認識に影響を与えたとみられます。

2)より正確な情報への接触
近年、より正確な気候変動データが公表されています。IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)の地球規模評価報告書は、2019年5月に公表されました。地球の状態に関する画期的な評価です。同様に、英国気象局のハドレーセンター(Hadley Centre)のHadSST4データセットは、海面水温データとして最も広く使用されている情報源であり、昨年更新されて、海洋がこれまで推定されていたよりも温暖化していることが示されました。両者は、地球にとってはるかに深刻な未来と、それを回避するための期限の短さについて警告しています。
3)気候変動との直接的な接触
極端な気象現象はすべての大陸を襲っており、自然災害の頻度は週に1回に増加しています。ここ数年、ベルギー、フランス、ドイツ、ルクセンブルク、オランダ、英国では記録的な熱波が観測され、オーストラリア、カナダ、チリ、スペイン、米国では激しい山火事が広がりました。一方、バングラデシュ、インド、タイ、スリランカでは、深刻で長期にわたる干ばつが記録されています。その結果、これまで影響を受けていなかった地域の人々を含め、より多くの人々が気候変動の影響を実感しています。
4)経済停滞の内面化
経済的困難を克服してきた年月を経て、回答者は、経済リスクは気候変動とは異なり、乗り越えられると考えるようになったのかもしれません。2010年代は、1970年代以降で最も成長が鈍い危機後の時期でした。大不況以降、世界経済はおよそ3%の成長に留まっています。
さらに、新しい世代は、不安定な経済をもはやリスクとしてではなく、単なる現実として捉えているのかもしれません。例えば、1980年から1989年の間に生まれた米国人は、それ以前の世代に比べて34%経済的に恵まれておらず、若いラテンアメリカ人の67%が経済的不安定を経験しており、英国の30代の人々は、「戦後初めて、働き始める時点で前の世代より高い所得を得ていない世代」となっています。
環境という賭け
関係者が地球の行く末を案じていることは、間違いなく喜ばしいニュースです。それは、環境劣化がもたらす深刻な脅威に対する認識が高まっていることを意味し、これが、より野心的な気候変動対策につながることが期待されます。
しかし、GRPSにおけるリスク認識の劇的かつ比較的急速な移行、すなわち経済から環境への移行は、懸念すべき事態となりえます。環境リスクと経済リスクは切り離せないほど密接に結びついているため、一方のみを考慮したリスク認識では死角が生じ、統合的な緩和策が不足する可能性があります。
過去10年の安定しているものの鈍い経済は、グリーンな取り組みの発展を後押ししてきましたが、より厳しい経済環境によって、これまでの進展が相殺されかねません。世界経済は、何年も続く可能性のある減速の兆候を示しており、関係者が経済リスクと環境リスクを別々のものとして捉えている場合、経済的な前進の機会の創出がより切実になるにつれて、短期主義が定着する可能性が高まります。
近い将来、差し迫った経済的・政治的懸念が生じるかもしれませんが、それによって、継続的な環境リスクが我々の認識から完全に押し出されてはなりません。


